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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

(仮)異世界から来た神子様はクズでした。

作者: 日野

こんちには、みなさん。

僕の名前は斎王さいおう 聖司せいじ


少しだけ語りに付き合ってほしいんだけど、いいかな。あ、ちなみにこのページに飛んできてしまった時点で拒否権なんてものはないと思って。


まぁ、黙って聞いてよ。

これは僕の、愚痴。


とある小高い山奥にある、選ばれたものだけが通うことを許されるこの学園で、僕は生徒会副会長をしていた。

大層な支持と信頼と期待を周りから一身に受け、苦労しながらもわりと優雅に過ごしていたのだが、そんな僕のそこそこ悠々自適な学園生活も、季節外れにやって来た転校生によって崩れ落ち、役職持ちだった僕は築き上げた信頼も名誉も地位も何もかもを失い地に落とされた。

周囲から謂れのない誹謗中傷や視線は次第に僕を蝕み、純粋で綺麗だったはずの心がやがて負の感情で埋め尽くされた頃、足元に突然浮かんだ光り輝く魔法陣のようなもので、僕は飛ばされた。

17年生きてきて初めての経験は、正直言うと気分の良いものではなく、青い狸のいる世界で言うと引き出しの中みたいな景色で視界によるダメージと、その空間を洗濯機の中に入れられてるみたいにゆるーくかき回されてる感覚に、流石の僕でも酔わないわけがなかった。

はぁ、僕の人生は超イージーモードだったはずなのに……すべてはあの転校生のせいだ……あいつまじ末代まで呪う。



……ん?どこにって飛ばされたのかって?


それはもちろん。




“異世界”です。





「貴方が神子様であらせられますか!」



気付けば見慣れない格好をした男達に囲まれて床に座り込んでいた僕は、何とか状況を理解した。

どうやら僕は、この異世界“ソリューダ”という国に《神子召喚の儀》によって召喚されたらしい。


儀式が成功したことを喜んでいる男たちだったが、僕は状況を理解したと同時に、絶望を覚えた。


なにせ、僕の隣には何故かあの転校生が横たわっていたからだ。



「おい待て、しかし神子様が二人おられるぞ……」



喜びが収まりようやく僕と転校生の二人いることに気付いた男たちは慌て出す。


「このようなことは文献には載っていなかったぞ……」

「どちらかが神子様なのか、はたまた、どちらも神子様なのか」

「……どちらも、神子様ではないか」



先ほどまで喜びの声で埋められていた室内は一変し不穏な空気が流れる。そんな中僕は、冷静にこの先を考えていた。


僕だけが神子、または僕と転校生の二人が神子だった場合、男たちの様子を伺うに優遇されひどい扱いを受けることはないだろうから問題はない。

しかしもし、転校生だけが神子、またはどちらも神子ではなかった場合、解放されるならまだ良いとして処分される可能性も考えられる。

元の世界に返してもらうなんて道は考えない方がいい。現実はいつだって辛辣だ。頭の片隅に残しているくらいがきっと良い。


これが現実か否かはもはやどうでも良い。最善であることが何よりの身の安全。

現状、僕には神子の条件も人物像なんかも知らない以上、出来ることはなく、運に任せるしかないのだろう。


そのとき、隣で横たわっていた転校生がようやく起きたようで唸り声のような声をあげた。

まずいな、この転校生は面倒なやつだから、男たちの感覚が麻痺していたらきっと即落ち神子様バンザイルートになるかもしれない。

僕の学園生活を粉々に砕いてくれた時のような、イケメンどもを手玉にとる能力を転校生は持っているからな。こんなことなら、計画していた復讐を決行すればよかった……。



「んー……ん? どこだ、ここ! お前ら誰だよ!?」



起きた途端に耳が痛くなるような音量の声はやめていただきたい、今すぐ声帯しね。



「あっ、お前! カズキ達を蹴落とそうとした最低野郎ッ、何でこんなとこにお前がいるんだよ!?」



男達に食ってかかったかと思えば、すぐに僕に気付き矛先をシフトして来た。

うるさい、蹴落とそうとしてねぇし実際蹴落とされたのは僕だというのに、こいつの頭ん中絶対脳みそじゃなくてウジ虫だらけだな。うっ、想像したら気分悪くなってきた。



「おいッ、無視すんなよ!!」


「ちょ、近寄らないで……ウジ虫が感染る……」



顔が真っ青である自覚があるまま手で待ったをかける。



「う、ウジ虫ってなんだよ!? そんなこと言うなんてやっぱりお前最低だッ、謝れ!!」



転校生の手が僕に伸びてきて掴まれるかと思われた時だった。



「何事だ」



低く地面に響くような声が聞こえたかと思うと、周りが静かになり、そしてどこからか「陛下!」と焦ったような声がした。



「《神子召喚の儀》の報告が上がってこないと思い来てみれば、一体何の騒ぎだ」


「も、申し訳ありません。儀式は無事成功し召喚できたのですが……」



一人の男が説明に入ろうとしたが、僕は思わず陛下と呼ばれた男の容姿に見入ってしまっていた。学園にはイケメンは腐るほどいてその中でも一際目立つイケメンというより美形の言葉が似合うやつはいた。

けれど、この陛下という男はそんなものと比べ物にならないくらいの容姿をしていた。


美しいのだ。


思わずじっと見入ってしまっていた僕に、陛下とやらの目が向けられた時だった。



「お、お前! かっこいいな! 名前なんていうんだ!?」



で、出ました!!!!!!

すっかり忘れていた存在、転校生は実はというか何というか、イケメンが大好物なのだ。本人は見た目で判断するなんて云々と言っていたが、やはり人というのは醜美に目敏いもので、こいつが声をかけるのは大抵顔がいい奴らだけだ。それも男前よりの方。


え?僕はって?

自分で言うことじゃないけど、僕は綺麗寄りの顔をしているので残念ながら転校生のお眼鏡にはかなわなかった。本当に残念ながら。



陛下がそれにひっからなければいいが、転校生のイケメンハント能力は謎に強いから安心ができない。

普通なら、転校生の独特な容姿ーーもっさり黒髪と瓶底眼鏡ーーを目にして惹かれるなんてありえないけれど物好きなやつはいくらでもいる。残念なことに、俺がずっと一緒に仕事をして来たやつらは物好きな奴らだった。


仕事ができる・家柄が良い=まとも、とはならないと学んだ。



「えぇとですね……このお二方が召喚されまして……」


「二人召喚されるなど聞いたことはないが、間違いはないのだな」


「はい、しかし判断がまだ出来かねます」


「おい! 無視するな!」


「すでに判断してしまいたいくらいだが、そうもいかんか……お前たち、黒髪の神子を部屋へお連れし状況説明をしてさしあげろ」


「はっ」



独り言のように呟いた初めの言葉は僕たちには届かず、陛下は周りの男たちに指示を出し、転校生はどこかへ連れていかれた。もちろん素直にいうことを聞くわけも無視されることを許すわけもない転校生は暴れていたので、もはや連行されるような感じだった。


そして残された僕は、やはり選ばれたのはあいつなのかと少なからず落胆した。

いきなり異世界に飛ばされて何とか現状を理解し、先を考えると不安しかなかった。

けれどあの学園や周囲や家から離れられたことに俺は安堵したんだ。帰れなくたって本当は良かった。なのに選ばれたのは転校生で……はぁ、本当に……あいつ●しとけばよかった。



「さて、顔を上げよ」



陛下の言葉に項垂れていた顔を上げる。

あげた先には陛下の本当に美しい顔。転校生が発作イケメンハントを起こすのも分からなくもない。僕はノンケだから邪な感情は湧かないけど。



「あの、陛下。失礼を承知でお願いがあるのです」


「なんだ、申してみよ」


「出来れば痛くしないで処分して欲しいのです」


「処分? なんの話だ」


「え、ですから私を殺すのではないのですか?」


「神子を殺しはしない」



……ん?



「神子って、だって神子はあいつなんでしょう?」


「お主にはあれが聖なる神子に見えたか?」



いや、そこは僕が見えたか見えてないかではないでしょうよ。そりゃ勿論ファンタジー世界で言うような聖なる神子になんて見えやしないけども。あれは容姿だけでなく、中身までもが失格だ。あいつの場合"性なる"なら合うかもしれないが。

いやいや、待て待て、そうではなかった。



「え、と、違うのでしょうか? 私はてっきり別室で説明を受けるということは、そういうことかと思ったのですが」


「あぁ、そういうことか。お主らの二人どちらが神子か、どちらも神子か、はたまたどちらも神子ではないかは、現段階では分からぬ。タイミングの悪いことにそれが分かる神官は神子を迎える準備に追われて高熱を出して役に立たん。神官が復帰するまでは、どちらも神子としての待遇をする」



そういうことか。

でもそれはつまり、神子ではなかったと分かった場合の保証はないということ。



「その神子か神子でないかの判断というのは、何か特別な儀式めいたものを行うものなのでしょうか」


「儀式は行なわぬ。神官にしか分からない神子としてのなにかがあると聞くが、詳しくは聞いておらん」


「そうですか」



ならば調べるしかない。

そして、神子になりきるしかない。

そうしなければ俺は処分される。あのモジャ瓶(もじゃもじゃ瓶底眼鏡)に2度までも平穏を壊させてなるものか。


目指せ僕のスーパー優雅な異世界神子ライフ!



「まぁ、どっちが神子かなど一目瞭然だとは思うのだがな」



闘争心に燃える僕の耳には、陛下の言葉はとどかなかった。

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