093 死神狩り
「ハ――死神を殺せるものか、小娘……!」
――《ウェポン・スキル「大鎌」》
死神が吠える。大鎌を構えて俺に向かって突撃する――!
「ニコ、下がれ! 前衛は俺が務める!」
「はい! 援護します!」
散開するように俺達は別方向へ跳ぶ。
ニコは援護のため後方に。俺は攻めに転ずるために前方へと一気に詰める。
浮遊しながらかなりの速度で迫って来る死神に、俺は手にした武器を横から切り払うように放った。
「! 何――!?」
ギィイイイン、とエンジン音を響かせ唸る鍵。
鍵の側面を走る度に火花を散らせるチェーンのビーム刃。
交差し続ければ続けるほど、ビームチェーンソーは死神の大鎌の刃を削り、摩耗させ続けていた。
「ッ、コイツ……!」
「さっきの威勢は何処にいったんだ、死神さんよォ……!」
挑発のような言葉を吐きながら、力づくで得物を大きく振り払う。敵は武器を置き去りにして後方へ大きく浮遊して引いた。
置き去りにされた大鎌を力で振り払うことに全身を使っていて、即座に追撃することができなかった。容易く距離を離されてしまう。
「下2mm……今!」
「!? ぐぅ……!」
その引いた先を事前に狙っていたかのように、ニコの矢が死神に迫り命中する。
まるで炸薬でも入っているのかと思えるほどの衝撃だ。死神の外套を抉り、その下にある体に命中し爆ぜる。
「ッ、こいつら、コンビネーションが完璧だ……!? クソ、まずは後衛から狩る……!」
――《ウェポン・スキル「小鎌」》
計三本もの小鎌が三連続けて俺に向かって飛来する。
鋭く十分な凶器だが、あまりに軽い。鍵を三回斬り払うだけで容易に打ち落とすことができた。
――《ウェポン・スキル「大鎌」》
だが、この攻撃は俺への足止めだ。本命は後方の……!
「――ニコ!」
「はい! モーマンタイですよ!」
――《ウェポン・スキル「無銘刀」》
打ち合う大鎌と刀が閃光を散らした。白昼だろうと眩しさを感じる。
鎌という武器は特殊な形状をしているから鍔迫り合いなんて難しい――いや、そもそも成り立たないと思っていたが、器用にもニコは自分から鎌の内側に踏み込んで、斜め後ろに向けて刀を振るうことで成立させていた。
手練れている――と、思ったがよく見れば冷や汗だらだらだ。本人からして間一髪の技だったらしい。
「ハァ、ハァ、あ、あぶね~……!」
「戦いの中で騒がしい音楽を鳴らすとは、ナメているのか貴様……!」
「フン! 作業といったら、この曲を流すって決めてるんですよ――!」
刀で鍔迫り合いを続けながら、空いている胴に向けてニコはチンピラじみた蹴りを入れた。
刀と大鎌が競り合っている間はニコと死神の間合いは離れない。
ダメージがあるかは分からないが、それによっていくら蹴りを入れようと間合いが離れることなく攻撃を続けられていた。
『カタル! 両背中の武器を使いなさい! 初めての武器だけど、ソイツで背中を狙い撃つわよ!』
「ああ! ッ、おお……こうなるのか」
両背中に装備されている鍵状のビーム砲を使おうとする――と、ビーム砲は俺の両腋の下をくぐって前方に向けられる。なるほど、こうやって使うのか……
鍵の先端に付けられた鍵山には照準器が取り付けられている。二丁のビーム砲それぞれの照準を合わせるのは難しそうだが、せめて一本は確実に当ててみせる。
俺は右腋の下の鍵の照準を合わせて息を深く吸い込み、呼吸によるブレを無くす。
「――――」
狙撃は当然、おもちゃの射撃の経験だってありゃしない。
だが成功させてみせる。誤射は決してあり得ない。確実に、敵を貫いてみせる……!
『エネルギー、十分よ! 撃って!』
「ッ……!」
誤射しないようにニコのことを脳裏に入れつつ、敵に集中する。
鍵先の銃口にはエネルギーが集まっている。これをただ、敵に向けて放出するだけ――!
「!? ぐお――――!?」
「っ!? 熱! あっつ!? そして鎌あぶなァ!?」
右腋の下から放たれたビーム砲は、狙い通りに死神を撃ち抜き、そのまま押し退けた。悲鳴みたいな声が聞こえたが、誤射はしていない。していない、筈だ……多分。ごめん、ちょっと自信無くしてきたかも。
「し、師匠! 今命の危険を感じたんですけど!? ってか競り合ってるところに衝撃波を横からドーンってぶち込まれるの怖いんですけど!?」
「わ、悪い……! 文句なら後で聞く!」
ビーム砲を背中に背負いなおして、再びディンプルキーを構える。
さっきまで消失していたビーム刃を剥き出しにしてチェーンを回転させて、再びニコの流している音楽に負けないほどの爆音を奏でる。
「アリス! この武装で宙を飛んだりできないか!?」
『オッケー、それなら……うん、コーカス・レースを使いなさい!』
「使えるのか!? だってトランプは今は装備されてないし、使えないんじゃ――」
『頭の横! そこにスイッチがあるから押して!』
「? こ、これか……?」
左手でペタペタと手探りでそれらしい物に触れる。
おそらくだが、こめかみ辺りにそれらしいボタン? のようなものがあった。試しに押してみる――と、
――《オーバーリミット、残り1:00、0:59、0:58――》
「うわなんか変形した……!? ってかあの!? なんか始まったんだけど!?」
頭とか腰回りの一部の装甲が変形し、その上妙なタイムリミットまで始まった。
なんだよこの制限時間みたいなの!? 爆発とかしたりしないよな……!?
『一分間だけか……カタル! こいつは疑似的なコーカスレースよ。時間切れまでに仕留めなさい!』
「突然すぎるだろ……! 仕方ない……!」
突然すぎる指令だが、こうして彼女に振り回されるのは今に始まったことではない。俺はディンプルキーを両手で握って一気に前へ飛び出す。
腰回りに付けられたブースターのような装置が跳躍力を更に加速させてくれた。確かに、細部は異なるが使い心地はコーカス・レースと大体同じだ。
「はぁああああ――」
「ッ、速い――!?」
死神の目の前へ距離を詰める。バーニアによる加速も相まって一瞬で目の前に躍り出た。
いける。この間合いで敵は武器を持っていない。まるで先ほどの“詰み”をまんま敵にお返ししてやったかのような状態だ。
このままチェーンソーで切り裂いてやる――!
「――ッ、たぁああああ!!」
そのまま上段に大きく振りかぶった鍵を死神に向けて振るい、その上半身を肩から腰まで斜めに切り裂いた。




