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異世界を賭けた異世界による物語の為のバトルロワイアル ~Alice's in the Another World!~  作者: 月夜空くずは
第二章 明けない夜の永い尾話
88/100

088 八つ当たりの殺戮ショー

――――今のモンスターの状況だぁ? また薬草狩りかよ。他に給料の良い仕事なら俺経由で紹介してやれるぞ?


――――あー、はいはい、わかったよ。今回も特別だぞ? あんまり部外者に情報を流すのって良くないことなんだからな。


 ……そんな会話を経て手に入れた新しいモンスターの分布図。以前貰った分布図に加えて新たなモンスター群が追加されている。

 追加されたのは王国から北の方角。以前モンスター討伐依頼で話題に出た“北方山脈”と呼ばれる場所だ。ギルドの情報だとドラゴンが巣くっているらしい。


『……で、わざわざ北方山脈にまで足を運ぶだなんて、精が出るわねぇ』


 山の頂上から下を見下ろしていると、アリスからそんな呆れ半分な言葉を頂いた。

 ここは北方山脈の南部――まあ、大雑把に言うなら王国に最も近い山って感じ。この周辺にもモンスター群が発生しているらしい。


 王国から離れているから別に問題は無い……という見立てだったが、観測部という組織の情報によれば少しずつ南下しつつあるらしい。もしかすると王国付近にまで近づく可能性があるとか。


「元々いつか片付ける予定だったのが少し早まっただけだ。精も何もないよ」


 ……まあ、王国に害を出そうが出さまいが語り手絡みのイベントである以上、俺の手で片付ける予定だったのだが。

 いつか片付けるつもりの予定が優先順位の上位に入っただけの話である。


『……ハァ。あのさぁ、アンタ本当に大丈夫? 普段と調子が違うっていうかさ、自棄になってる節とかない?』

「大丈夫だ。無理はしていないよ」

『ならいいけど。私と一蓮托生だってこと、忘れないでよね。無茶して脱落なんてされたくないんだから』

「わかってる、わかってるよ……わかってるさ」


 アリス宛てというよりは、まるで自分に言い聞かせるように呟く。

 もうこのイベントに特典(アタリ)は無い。ハズレしかないくじ引きのようなものだ。だけどそんなことは関係ない。俺は語り手の勝手な争いごとからこの異世界を守りたくて戦うのだ。


 語り手の軍勢に襲われた馬車の客たち、語り手に操られたリヴィアさん。緊急事態で生活に支障が出ている王国の住民――その原因が語り手にあるのなら、同じく語り手である俺が片付けるしかない。その信念に間違いは無いと信じている。


「……! 居たな。アレがモンスター群」

『確かに南に向かって進行しているわね。ゆっくりだけど』


 深呼吸をして思考をリセットしたところ、ちょうど真下の谷間にモンスターの群れが列をなして進行しているのが見えた。

 モンスターが何を考えて移動しているのかは分からないが、このまま移動を続ければ北方山脈から北方平原、そして王国にへとたどり着いてしまうだろう。それだけは防がなければならない。


「行くぞ、アリス。サポートは頼んだ」

『はいはい、無茶させないように頑張りますよっと』


 俺達は上で、敵は下だ。地の利はこちらにある。

 ならば、それを十分に活かして戦う方が良い。それにモンスター群には魂石を落とすモンスターが多く存在している。武装の消費は実質考えなくていい。


――《ウェポン・スキル「金の鍵」》


「ふ――ッ!」


 金の鍵を可能な限り全力で地面に突き立てる。ボゴン、と岩の砕ける音と共に半分ほど鍵は地面にめり込んだ。


――《ウェポン・スキル「金の鍵」》

――《ウェポン・スキル「金の鍵」》

――《ウェポン・スキル「金の鍵」》


 その作業を繰り返す。

 崖の端からスタートして、半円を描くように鍵を突き立てていく。

 計六本。地面に突き刺さった鍵に向けて俺は追加でもう一枚トランプを引き抜く。


――《マジック・スキル「巨大化」》


 そのうちの一本に命中した金の鍵は巨大化し、更に地面へと突き刺さる。雷のような裂ける音を響かせながら地面を半円形に抉り、破壊し、崩落させた。


 山の上部で瓦礫の土砂崩れを起こせば、その瓦礫は必然的に下へ――谷間にいるモンスター群に向かって落ちていく。

 瓦礫の山はモンスター群の前衛に降り注ぎ、下敷きにした。


『ちょっと! そんな殺し方したら魂石が回収できないでしょ!』

「……落とした部分にはゴブリンが多いからいいだろ。残った後衛は魂石を落とすだろうしさ――」


 アリスの文句をいなしながら、俺は走り出して崖から跳び下りる。

 足場を失った体は重力に引かれて加速する。下へ下へ、モンスターへと肉薄する――!


――《ウェポン・スキル「金の鍵」》


「――――!」


 地面にクレーターを作る勢いで鍵を振り下ろし、着弾する。

 弾ける肉片。塵に還る血液。

 オークだった生物を木っ端みじんにした直後、残心も取らずに即攻撃に転ずる。


 水しぶきのように弾け飛ぶスライム。

 左右に分け隔てられたゴブリン。

 首のないウルフィン。

 足を失ったオーク。


 以前、少女の戦い方を“むごい虐殺”だと口にしたのが馬鹿みたいな殺戮だ。

 華麗さもかっこよさも無い、泥臭い戦い方。頭の中のモヤモヤを吐き捨てるかのような暴力。

 腕の筋肉が疲労を訴えようが、鍵の刃が欠けて無くなろうが構わず惨殺を続ける。


 ……頭の中には少し前の出来事。

 ニコはどうしているだろうか。二度と異世界に足を踏み入れないでいてくれているだろうか。拒絶のやり方はもう少し丁寧に上手くできなかっただろうか。

 頭の中は同じこと、似たようなことをぐるぐる考えていて――ああ、邪魔くさい。


「ハァ、ハァ、ハァ――ッ、ハァ……!」

『カタル! 北の方向から大物の気配よ! これは……まさか、ドラゴンじゃないの!?』


 残党を粉微塵にしてやっている最中、脳にそんな警鐘が響いた。なんでもドラゴンとかいう敵が近づいているらしい。

 ……正直今は、うっとおしいのが増えたとしか感じられなかった。


「グオオオオォ――!!」

『空中にいるモンスターと戦うのは分が悪いわ! 一度撤退して――』

「……逃げるのも面倒だ、ここで墜とす」

『え……?』


 ガチン、と鍵を地面に突き立てて、更にその上に飛び乗ってしゃがむ。

 曲芸師のようにバランスを保って、俺はトランプをふとももから引き抜いた。


――《マジック・スキル「巨大化」》


 足元の鍵にトランプを当てて効果を発現させる。その効果は大地を深々と貫く勢いで巨大化させるもの。

 足元で巨大化した鍵は勢い良く俺を打ち上げ、宙に飛ばす。


――《ウェポン・スキル「金の鍵」》


 武器を手に、まるで弾丸のようにドラゴンに迫る。迫る。迫る――


――――……あんなの演技さ。本当に怖い大人は本性を隠す。本音を言うなら、一緒にいる間いつ襲ってやろうかとずっと考えていたよ――


 刹那、あの時口にした言葉を思い出す。

 彼女の未来を想って、俺は敵意を向けた。腹の内で何を思おうともその事実は変わりない。


――――消えろ。二度と顔を見せるな。これ以上俺を本気にさせるな――


 歯を食いしばる。我慢だ。耐えなくては。

 ……本当は楽しかった。彼女のマイペースに乗るのも、まあ悪くはないと思えた。

 だからアレがどんなに言いたくない言葉だったとしても、俺が言わなければあの子は身を危険に晒し続ける。それだけは許してはいけない――


「ぁあ――」


 刹那の発露。弱気は覚悟に固まった。

 なぁなぁとした弱気な考えはもう十分だ。自棄に近い感情が頭を支配する。


「――面倒ごとを抱えンのは、俺一人で十分だってんだ――!!」


 思考から現実に戻り、ドラゴンを視界に収める。

 そして啖呵を吐き捨てながら、ドラゴンの脳天から背骨、尻尾の先端まで、通りすがりに切り裂いた――


 ■


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