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異世界を賭けた異世界による物語の為のバトルロワイアル ~Alice's in the Another World!~  作者: 月夜空くずは
第二章 明けない夜の永い尾話
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087 異世界の情報網

「……ハァ~~~」


 ギルドのBARカウンター席で俺は突っ伏して大きくため息を吐いた。

 ため息の内訳は色々だ。反省とか後悔とか罪悪感とか、ニコに対する心情が六割で今後どうしようかという曖昧な悩みが四割だ。


 異世界の王国は一応元通りな感じになっていた。

 商人とかは外を歩いているし、食料品の出店も以前通り出ている。


 ただ、空気は緊急時のように緊迫したままで、商人たちの足は何かに追われているように早足だし、出店も食料を買い溜めしようとしている住民で溢れている感じだ。


 それと、ギルドの中に人が全然いない。恐らく人員の大方は王国防衛戦線とかいう作戦――つまるところモンスター討伐に赴いているからだろう。


「……それで、お嬢さんがこんなとこ、こんな時間に何の用だよコラッ」


 そんな俺を見たフェリクスさんがカウンターの向かいから新聞紙のような紙を片手に尋ねてくる。最初はギザな感じだったのに後半は自が出ていた。

 ギルド内には今のところこの男しか居ない。カウンターの奥に人の気配こそするが、表に出ているのは彼一人である。


「……酒をくれ。金ならある」

「お前さん生活が厳しいんだろ、んなところで浪費すんな。ってか、子供に酒は駄目だ」

「なんでさ。いいだろ別に……」

「ガキに酒の味は分からないからだ。つまりもったいないってこと」

「……発育とかへの悪影響って理由じゃないのか。この世界、医学的視点はそこまで伸びてないんだな」

「よくわからんがナメられてるのはわかるぞオイ……!」


 フェリクスさんは広げて読んでいた新聞紙のような紙をくしゃりと折りたたんで、青筋を立てて睨みつけてくる。

 分析のつもりで呟いた言葉だったが、ナメた口だと認識された様子。まあ、現地の人からすればそう認識されてもおかしくない言い方だった。内心反省する。


「それで……アレからどうだったんだよ」

「……? アレからって?」

「だから! 俺が手伝った件だよ! 無事に薬草とか花は集められたか? ここには居ないみたいだけど、もう一人の子は無事だよな?」

「ああ……それは、まあ」

「なんかハッキリしない言い方だな。無事ならそれで良いんだけどよ」


 モヤモヤしている様子でフェリクスさんはカウンターに置いていた白磁器のカップに手を伸ばし、口元で傾ける。香りからして珈琲みたいだ。


「……? ちょっと貸してくれ」

「あ、オイ! ……ったく」


 フェリクスさんが珈琲を飲んでいる隙を突いて、テーブルに畳まれていた新聞紙のような紙――いや、情報誌と名付けられた実質新聞紙だ――に手を伸ばして手繰り寄せる。

 内容にちょっと気になる記述があった。身を乗り出して内容を速読する。


「“週刊ファンタジーニュース”……渡来人の痕跡再び、薙ぎ倒された木々に無数の爪痕……?」


 目に留まったのは新聞の左下にあるような、小さなコーナーだった。

 そこには“渡来人”という存在を証明しようとしている記述があって、今回は森の中での異常に関してだった。


 なんでも、森の中に無数の爪痕が残されていたり、謎の力で根元から薙ぎ倒されていたり――そんな話。

 後半はよくわからない伝説話と結び付けられていて、急に胡散臭くなっていた。


「……お、なんだいお嬢さん。君も渡来人の話に興味があるのかい?」

「え、なんで急にギザな振る舞いになったの」

「フッ、何、恥ずかしがることは無いさ。俺もその手の話は大好きだから――な!」


 そう言いながらフェリクスさんはカウンターの下からドン、と大きな本――いや、本型のファイルを取り出した。

 ……恐る恐る出されたファイルを開いてみる。中身は新聞紙の切り抜き――それも、“週間ファンタジーニュース”で埋め尽くされていた。


「……! キングゴブリンの巣、謎の壊滅。討伐者は誰も名乗りを挙げず、渡来人の偉業の可能性――これってまさか……」

『嘘でしょ、昨日の出来事がもう掲載されているの……!?』


 キングゴブリンを倒したのは俺だ。そしてそれは昨日の話で、そんなに時間は経っていない筈。だというのに、もうこんな情報として出回っているのか……!?


「……これ、もしかしてフェリクスさんが自分で集めてるんですか?」

「まあな。俺の趣味の一つって訳さ。こういう謎に満ちた話は聞いてて心が躍るんでね……」

「ホント、男ってそーゆーの大好きよねー」


 ピョコン、とカウンター奥の暖簾からそばかすの女性が顔だけを出してそんなツッコミを入れて来た。

 確か以前フェリクスさんをしばきまわしていた女性だ。名前は、えっと……


「おいイロハ! お前それだけを言いに来たのかよ! 仕事に戻れ!」

「アンタも暇してるだけでしょーが。ごめんねぇ、野郎の話し相手になるだけじゃなくて変な趣味にまで付き合わせて」

「いえ、大丈夫です」

「変な趣味じゃねぇ! 男のロマンだ! 戻れ戻れ!」


 フェリクスさんにしっしと手で追い返されると女性――イロハさんは抵抗することなく店の奥にへと消えていった。


『……ふーん、これは良い情報網になるかもしれない。カタル、この男とは友好関係を築いておきましょう。ギルドに顔が効くのも含めて私たちの役に立つ』


 新聞紙の切り抜き集を見ていたアリスからそんな指示を受ける。

 確かに、この異世界視点での語り手の情報というのは、俺達現実世界の人間からは分からない。それをこういう形で知ることができるのは貴重な情報源になるだろう。


「フェリクスさん、もしよかったらまたこの渡来人の話について教えてもらっても良いですか? 情報誌とか買えないので……」

「おう、いいぜ。いやぁ、異性はイロハみてーにみんな馬鹿にするもんだと思っていたが……まさかお嬢さんと趣味が合うとはな。気に入った。お嬢さん、名前は?」

「カタルです」

「カタルか。君は渡来人の話が好きなんだな。良いぜ、また暇があればその時は語り合おうぜ」


 意気投合した様子でフェリクスさんはキメ顔でそう言ってくれた。

 意外な場所で、意外な情報の情報網を手に入れることができた。今後活用できるかは分からないが、アリスの提案通りこの縁は大切にすることにしよう。


「えっと、フェリクスさん。ちょっと折り入って頼みごとがあるんですけど……」

「? 良いぜ、話は聞くさ。要件はなんだ?」


 共通の趣味を持った仲間だと思ってくれたのか、フェリックスさんは打ち解けた様子で俺の言葉を聞いてくれる。


「今のモンスターの状況について教えて欲しいんですが――」


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