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異世界を賭けた異世界による物語の為のバトルロワイアル ~Alice's in the Another World!~  作者: 月夜空くずは
第二章 明けない夜の永い尾話
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084 文学少女の戦い方

 音楽はイントロが終わりAメロが始まった。

 ニコは音楽に身を委ねるようにタイミングを合わせて前へと飛び出す。


 あくまで俺は後方支援だと言っていたが、偶然にもこの音楽のおかげで注意はニコのみに集中している。援護しやすいと言えばしやすい環境だ。


 ……さて、彼女は一体どのように対処するのか。彼女の腕前がこれで少しは分かるだろう。もしも危ういと判断出来たら全力で援護――いや、前線に加勢する。


 念のため時計の針(クナイ)のトランプを構えていつでも後方支援できるように備えておこう。コレでモンスターを一撃で倒せるかは怪しいが、怯ませたりするぐらいならできる筈。


「ガゥ――!」


 点在していたウルフィンが二匹、自慢の足を活かして一気に距離を詰めてくる。

 高機動のモンスターは得物だけではなく、速度も厄介だ。飛び掛かって来たところを殺しても速度までは殺せない。

 質量でぶつかって来られたらダメージを負ってしまうだろう――


「ッ――!」


――それをニコは大雑把にズパン、と軽快な足取りで回避しながら両断した。一撃、二撃、ついでに音楽に合わせて三撃目をほぼ死に体の敵に放つ。

 死にかけのモンスターに追撃した理由の九割はおそらく、音楽の緩急が刀を振るうのにちょうど良かったからだ。


「音楽に音ハメするように斬ってるな……」

『な、なんて滅茶苦茶な戦い方よ……』


 ……素人知識だが、刀は流すように斬るものだと聞いたことがある。だがあれは強引と言うか、力任せが過ぎる。こん棒で殴りつけるような武器の摩耗を一ミリも配慮していない一撃だ。

 だが、それ故に攻撃はどれも強力。実際一刀両断されたウルフィンは背骨ごと叩き斬られていて即死していた。


「ッ――! ふっ、ふふっ……ええ? 武器は刀と弓だけにしろ!? なんでさ急に! ……うん、うん。ああ、アリスちゃんに正体がバレちゃうから?」

「おおい!? 戦ってるど真ん中で何を呑気に!?」

「――うん、右だね! ほッ!」

「ギャ――!?」


 彼女の物語がサポートしているおかげだろうか。ゴブリンが襲い掛かって来る方向にニコは見向きもせずに刀を振るい、これもまた一撃で切断してみせる。


「ッ、せいっ! ……あらら?」

『アレじゃ駄目! 頭部にむき出しになってる“コア”を狙わないと!』


 ゴブリンを斬り裂いたニコは、大きなゴーレムに向かって刀をバットの如く大きく振りかぶる――が、案の定岩の肉体には歯が立たず、悲鳴のような金属音を立てて刀身は折れてしまう。


「――――ッ!」

「ほ! ッと。――うん、わかった! これだね」


――《ウェポン・スキル「長弓」》


 トン、と跳躍してゴーレムの反撃を回避すると、ニコは追加で百人一首を取り出し、刀を召喚した時と同様に弓を取り出した。


 弓道とかで見るような大きな弓を握り、背中に現れた矢筒から矢を取り出し――って三本!? なんかあの子、矢を三本同時に取り出してつがえているんですけど……!?


「うん、うん! おーけー、こうだね……!」


 これも素人知識だけど、確か長弓って縦に構えるものであって、あんな西洋の弓のように横にして弦を力任せに引っ張るものじゃない筈だ。


 流れている音楽はBメロを通り過ぎて、サビに突入しようとしている。激しいテンポが彼女の袖に入れられたMyPodのスピーカーから鳴り響いている。


「右矢3cm、左矢2cm……真ん中を左に1cm? わかった! ――――ハァ!」


 曲がサビに突入すると同時にニコはつがえた矢を三本同時に放つ。

 ほ、本当にやりやがった……三本つがえて同時に放つなんて漫画の世界でしか見たことないし、しかもそれは西洋の弓での表現だ。

 長弓でやるのはぶっちゃけ正気じゃないとしか……!


「ゴ――!?」

「ギャ!?」

「――――!?」

『あ、()てた……!?』


 信じられないことにつがえた三本の矢はそれぞれオークの顔面、ゴブリンの胴体、ゴーレムの中心部に命中し、撃沈させた。

 ……偶然だと信じたくなる。だけどあの様子――命中を確信していた表情は、本当に()てる気で()てたのだと分からされる。


「3cm上……今ッ! 高さそのまま……ッ! あーもうめんどくさい! 雑におらァ!」

『あの微調整……多分物語がサポートしてるわね』

「そんなことができるのか!?」

『物語の人物が“人に指示を出す”逸話でもあるんでしょうね……そうね、例えるなら将軍のような上に立つ人とか』

「でも女性の将軍ってことは物語の人物じゃなくて実在する人物じゃないか……?」

『誇張されて現実味の無い逸話はもう架空の物語よ。このバトルロワイアルに参加する可能性はあり得る』

「…………」


 アリスと共に考察している間にも、ニコは弓で次々に敵を射抜いていく。

 なんか途中雑だった気がするが、それでもあの精度は異常だ。物語のサポートがあればあんなにも力を発揮することができるのか……?


 そんな疑問を抱いている頃には、既に残るはウルフィン二匹にゴブリン三匹になっていた。他のモンスターは矢で射抜かれていて地面に倒れている。仕留め終えたようだ。


「さぁて、あとは残党狩りですよ……!」

「ギャア! ギャア!?」

「うぉおおおらああああ!! ブッ倒せえええええええええ!!」


 ニコはそのまま弓を片手に跳び出して、残ったゴブリンやウルフィンに襲い掛かる。矢はもう打ち尽くしたらしく、背負っていた矢筒を地面に捨てていた。


「……えぇ」

『急に蛮族って感じになったわね……』


 バキッ! とかボゴォ! なんて生々しい打撃音が聞こえてくる。ニコが凄い顔で大暴れしている……あ、今ゴブリンの顔面を粉砕した。


「うぉおおおおお! トドメだおらあああああ!!」


 ……聞こえてくる音楽はもうCメロに突入している。荒々しい戦いは騒々しい音楽と共に終わりを迎えそうだ。


 どうやらこの手にしたトランプの出番はなさそうだ。俺はニコが暴れる様をぼーっと眺めるのだった。

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