083 “イベント”戦
「それで……語り手としてはどう動けばいいんだ?」
『その地図に書かれてる丸がいくつかあるけど、そのモンスター群のうちの一つに“特典”をドロップするボスが居る。それ以外のボスは何も落とさないハズレって訳。だから――』
「アタリのモンスター群をどうにか探して、そいつを倒せば良いんだな」
場所は王国から少し離れて森の中。
あのまま王国に残っていたら他の人に見つかって厄介ごとを招くかもしれないという俺の判断だ。ここまで移動すれば厄介ごとは起こらないだろう。
俺はチラシを広げてニコと一緒に覗き込みながら作戦会議をする。
とはいっても俺が話している相手は頭の中のアリスで、作戦会議というにはあんまり情報共有が成り立っていない。なので俺が一々ワンクッション挟む必要がある。
うーん、アリスの声を直接届ける手段があれば楽なんだけどなぁ……
「でもどうやってアタリを探すんですか? 見分けたり推測するのは不可能で、特典を得るには運要素が多いって聞いてますけど」
「もしかして、倒すまでそのボスが特典持ちかどうか分からないってことなのか?」
『そうね。あと一応説明するけど、特典持ちのボスを倒したからって他のモンスター群が鎮圧されるわけじゃないから。アンタがこの王国を守るつもりなら、ちゃんと全てのモンスターを倒さないとね』
「だよな……その辺は覚悟してたよ。えっと、丸の数は、六、七、八……十二ヶ所か。相手にするには多いな……」
もしも虱潰しで戦闘を繰り広げたとしても時間が大層かかる。んでもって、そんな悠長なことをしていたら他の語り手との戦闘に発展しかねない。
「? もしかして全部のモンスターを倒そうとか考えてます?」
「そうだけど、何かあるのか?」
「いやぁ、この王国の狩人とかって結構腕っぷしが立つみたいですし、王国周辺のモンスター群は彼らに任せちゃっていいんじゃないでしょうか?」
『ま、そういうことね。彼らも馬鹿じゃないわ。自分たちの住居を守るぐらいできると思うわよ』
「……それもそうか。んじゃあ、そうなれば俺達はこの王国から離れた4ヶ所のどれか。人目につかないモンスター群を相手にしよう」
トントントントン、と俺は指先で王国から一番離れた順に丸を指さしていく。残りの丸は王国に近くて、場合によってはこの世界の人間に見つかる可能性がある。
王国から近い場所に関してはギルドの前に集まっていた彼らが自衛してくれると信じよう。語り手絡みの問題にこの世界の住民を巻き込んでしまったことに思うことは多いが、仕方ない。
「それじゃあ、この地点のモンスター群を相手にしよう。王国から遠いってことは俺たち以外の助けは無い。慎重にいくぞ」
「はい! やってやりましょう!」
俺の提案にニコは元気いっぱいに腕を上げて乗ってくれた。
……この戦いはニコの戦闘力がどれほどなのかの確認も兼ねている。彼女を危険に晒さないのが第一だが、観察を重視して戦おう――
■
モンスターには一応家族というか、社会性のようなものが存在する。
ゴブリンならゴブリンで集まって集団で生活するし、ウルフィンとかいう狼型のモンスターも上下関係とかがある。
オークのように孤立して生活するのもいるけど、基本的に集団で生活する。
でも、それは普通一つの種族での話だ。
このイベントというのはそういう自然のルールをガン無視しているらしく、ゴブリンやオークにゴーレム等々……様々な種族のモンスターがまるで一つの社会を築いているかのように集まっている。
「……いたな。数は……数えるのが面倒になる程だ」
茂みから顔だけを少し出してモンスター群を観察する。
ゴブリンが斥候のように先陣を切っていて、その後ろにオークとかゴーレム。あと適当に散在しているウルフィンと、雑多な感じだ。
「……おっとっと」
「バレました?」
「いや……ギリギリバレてないっぽい」
そのウルフィンと目が合いかけて慌てて顔を引っ込める。
とりあえずこちらから何かしら手を出さない限りは、モンスターから先制攻撃を打たれる心配はないだろう。
「ニコ、これからあのモンスター群に挑む訳なんだが……今回俺は援護に回ってニコがどれだけ戦えるのか見てみたい」
「へ? 私の戦いですか?」
「ああそうだ。もちろん危なそうならすぐ助けに入る。できそうか?」
「はい! 大丈夫です」
ニコはグッと伸びをしたり腕をぐるぐる回したりして体をほぐしている。
短い付き合いだが、彼女はできないことは無理だとちゃんと口にするタイプだ。今の返事からして多分大丈夫というのは嘘ではないのだろう。
「それじゃあ師匠――おおっと間違った、アリスちゃん。ちょっと音楽を失礼しますね」
「……あ? 音楽? ってオイ!? それまさかスピーカーじゃないよな……!?」
「イヤホンじゃ周りの音が聞こえませんから――!」
止める間もなく、ニコのMyPodに接続された小型スピーカーから周囲に音楽が流れ出す。
「――――!」
「グルルル……ッ!」
案の定というか、一斉にモンスターの視線が集まるのを直感的に感じた。
こ、コイツ……やりやがった……! ってかうるせぇ!? 爆音でゲームかアニメか分からない音楽を再生していやがる……!
「ふぅ……やっぱり作業の時はこうして音楽を流した方が集中できますねぇ!」
そんな呑気なことを言いながら、ニコは和服の袖の中から一枚のカード――いや、百人一首を取り出した。絵には筆で刀のような絵が描かれている。
――《ウェポン・スキル「無銘刀」》
語り手特有の呪文を鳴らしながらニコは手にした百人一首を軽く放ると、カードは一本の刀に変貌して柄がニコの手に収まる。
俺の身長ほどの刃渡りの刀だ。ヒュン、と軽く振る姿は、場違いな感想かもしれないが、和風な容姿にとても似合っている。
「さぁて、あとは大暴れですよ……ッ!」
そんな清廉な雰囲気を自らの手で破るように、ニコは刀を自分の肩に乗せて荒っぽく宣戦布告を宣言した。




