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異世界を賭けた異世界による物語の為のバトルロワイアル ~Alice's in the Another World!~  作者: 月夜空くずは
第二章 明けない夜の永い尾話
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081 灰被りの正体

「え~~~っと……どちら、様……?」


 握った手の先に問いかける。いや……本当に、本当にどなたなんですか……!? 

 全く知らない和風少女が俺と手を繋いでいて凄くびっくりしてる。


「……? アリスちゃん? どうかしたんですか?」

「あっ、その口調と呼び方はニコ! いやどうかしたって……どうかしてるのは君だぞ!? なんだその姿!?」


 そもそも一緒に手をつないで異世界に入ったのだから、手をつないでいるのはニコで間違いないのだが……それでもこんな変貌されたらびっくりする。


『ねぇちょっと待った、今その姿って、どっちなのかしら。本来の姿? それとも物語の姿?』

「! なあニコ、その姿って……どっちだ(・・・・)?」

「へ? そりゃ物語の姿ですけど? 戦いがありますからね! シュシュ!」


 そんなことを言いながら軽快にシャドーボクシングの真似をするニコ。

 清廉な雰囲気の容姿でそんな真似をするのはなんだか浮いているというか違和感しかない。いや、それよりもその容姿が物語の姿だということは――


「――もしかして、今までの姿って“素”の姿だったのか……!?」

「まあ、はい。そうですね」

「ってことは……シンデレラじゃない……!?」

「……シンデレラ?」


 俺は容姿を主に推測してシンデレラだと思っていたが……どうやらこれは根底から推測を間違えていたということになる。


『な、生身で異世界に転移してたとか……正気!?』

「そ、そうだ! 今まで普段の姿で異世界探索していたのか!?」

「あはは……この姿だとサバイバルって感じじゃないですからね。サバイバルグッズも大量に持ち込むことができないですから」

「……そういや、あの時戦う武装が無かったのも、俺の武器が持てなかったのも、普段の姿だったからなのか」


 なんというか、思っていたよりも無謀な真似をしていたんだなこの子は……!

 戦えない生身で語り手だと特定されて、襲われてただなんて考えただけでゾッとする状況だ。あの時何の抵抗もできない状況だったんだな、この子は……


「ですけど! 今回の私はやる気モードです! モンスターをバンバン倒して見せますよ!」

「そういう事情だったのなら、今までみたいに戦えないことはない……よな?」

「はい! ちゃんと武器も召喚できますよ!」


 そっか、なら多分大丈夫だろう。どこまで戦えるかは未知数だが、自衛は最低限できそうだ。


「ならよし。それじゃあ、改めて王国に向かおう。イベントとやらに関する情報があるかもしれない」

「はーい! またあの夜みたいに門番に嘘ついて通りましょう!」

「いや、もう嘘つくのはいいだろ……この前通りかかっただけで顔パスで泣かれたし……」


 意気揚々と嘘をつく宣言をするニコに苦笑いを浮かべながら、俺達は森を抜けて王国に向かうことにした。

 以前みたいに数十分以内には到着できる距離だろう。道中は問題ないだろうし、このままギルドにでも向かうことにしよう。


『ふむ……シンデレラじゃないならあの女、正体はなんだろう……』


 そんな道中、頭の中で懐疑的に見ているアリスの呟きが聞こえたような。


 ■


――緊急! 緊急! 住民の方は家から出ないように! 商人、旅人等は中央の噴水広場に集合してください! これは訓練ではありません! 緊急! 緊急――


 王国に到着する目前で聞こえたのはそんなサイレンのような警告だった。

 どういう原理か分からないが、所々に配置されているオブジェクトからスピーカーのように女性の避難告知が鳴り響いている。


「……こりゃ大事だな」

「真昼間なのに人が全然いませんね……」


 街道の真ん中をとぼとぼと二人で歩きながら呑気な会話を交わす。

 昼間は街道に行商人のような馬車が走っていたりするのだが、今日に限っては例外の様子。馬車一台どころか旅人一人すらいない。


「ああっ、君! 大丈夫だったかい!?」

「へ? ……ああ、門番の人」


 堂々と正門を歩いてくぐろうとしたところを、慌てた様子の門番の人に呼び止められる。

 まあ、慌てている事情は何となく推測できる。この緊急事態に女二人で出歩いていたら――しかも同情されるほどの訳アリだったら――心配されるもんだ。


「せっかく生き延びてきたのに、こんな時に身を危険にさらすんじゃないよ……! はいコレ、宿代! せめて今日だけは外じゃなくて宿で安全に過ごすんだよ! 隣の子も仲間かい? 君もどうか今日だけは安全に過ごすんだよ……!」

「……オイ、ニコ。君の嘘のせいで俺への風評がなんか申し訳ないことになってるぞオイ」

「…………あはは」


 オイ、空笑いするならせめて俺と視線を合わせろオイ。

 我が身と同じぐらいかそれ以上に心配してくる門番の人から宿代を受け取りながら、俺達はなんとも言い難い表情を浮かべて王国内に入る。


 ……このお金、どうしよう。断りにくくて受け取ってしまったが……募金とか何かで門番の人に還元できないだろうか。申し訳なさをヒシヒシと感じるのであった。


 ■


 そんなこんなでギルドの近くに到着したのだが……何か急に騒がしい。まるで大勢が集まっているような、そんな人の気配を感じる。


「ん、ちょっと待てニコ」

「んにっ」

「……そっか、エルディア村の時も緊急事態にはギルド前に戦力を集めていたな。少し待ってくれ」


 そのまま直進しそうになったニコを止めて、こっそり物陰から覗き込んでみると、案の定全身に鎧を着た人や屈強そうな男なんかが集まっていた。あきらかに今から戦いに行きますという感じである。


「どうします? 直接聞いて情報を尋ねてみます?」

「……いや、俺達の容姿だとトラブルを招きかねない。もう少しだけ様子を伺おう」


 十中八九、どこか避難場所とかへ連れていかれる。だったらここで盗み聞きする他ないだろう。

 俺達は荷物の陰に身を潜めて、ギルドの喧騒に聞き耳を立てるのだった。

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