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異世界を賭けた異世界による物語の為のバトルロワイアル ~Alice's in the Another World!~  作者: 月夜空くずは
第二章 明けない夜の永い尾話
80/100

080 変身

「おま――何を言っているんだ! 駄目だ! そんな真似看過できるか! 反対だァーッ!」


 当然、俺からは猛反対だ。

 そもそもこの取材とやらも、彼女が異世界に行くことを控える交換条件のようなものだったのに、さっそく交渉を無かったことにするとはいったいどういう真似だ。


『ふ~ん……一応今から異世界に行くなら武装の補充はあるだろうけど……でも本当に戦えるの? 鍵の一本も持てないような非力じゃなかったっけ』

「ああそうだ! 戦えないだろう君は!」

「一応私、戦えますよ? アリスちゃんとは違って何かと物語のサポートが必須ではありますけど――」

「…………」

「あ、あはは……なんだか不満爆発って感じですね」


 そりゃそうである。俺は真っ向からムッと睨みつけるように見ると、ニコは乾いた笑いを浮かべながら一歩二歩距離を取った。不満を覚えられる自覚はあるらしい。


『ま、別にいいんじゃないの? この女の戦闘力とか知っておきたいし、守るならついでに守っておけばいいし。あと死ぬ時はそれはそれで仕方ないし』

「簡単に言う……!」

『こっちの戦い方を別の語り手に知られるのは不公平だからねぇ。あ~あ、誰かが取材とか称してベラベラと話さなければ文句はなかったんだけどなぁ~』

「……む」

「駄目ですか、アリスちゃん? 私はアリスちゃんの手伝いがしたい気持ちで言ってるんですけど……」

「……ぬ、ぐ」


 あ、あら? なんか気が付いたら俺の方が押されているというか、なんか駄々こねているみたいな扱いになってきたような。


 ……守るならついでに守っておけばいい、だったか。さも簡単に言ってくれたが、考えてみれば確かに一理あるかもしれない。

 勝手に知らないタイミングで異世界入りされるよりは、俺の監視下で飛び出していった方がまだこちらでも守れるといいますか。


「うう…………ん」

「お願いです、アリスちゃん。ちょっとでも良いから手伝わせてください……!」


 ちょっと。ちょっとかぁ~~~。

 ちょっとってどこまでの範囲なのだろう。王国の市民の避難誘導とか、そういう感じなら彼女でもできないことはないのではなかろうか。うう~~~ん。


「……わか、っ、た。うん。手伝って、もらう……ッ」

「なんか苦虫を噛み潰したような顔してますけど……はい! 許可を貰えばこっちのもんですね! 追加の取材交渉成功です!」

「あーっ! 貴様っ、そういう魂胆か貴様っ!」


 閑話休題。


「ッ……アリス! ここから王国に跳べるか?」

『ちょっと離れてるけど、大体イベントの範囲内よ。この辺のガラスから跳べるわ』

「? アリスちゃんってどうやって異世界に入っているんですか?」

「鏡とかガラスみたいな反射する物か、小さな穴があればそこから異世界に渡れる。この辺の物から王国に跳べるってさ」

「へぇ……それは凄い便利ですね。私は時間帯が条件なので、簡単に出入りできなくて……」


 まあ、シンデレラが彼女の物語ならその条件なのだろうとは以前から考察していたので、不便さとかはわかっているつもりだ。


「じゃあ、アリスちゃんと相乗りする感じで異世界に移動ってできます? 私の場合ならできるんですけど」

「……どうなの?」

『そうね……鏡とかなら三人ぐらいが限度かな。小さいと一人しかくぐれないけど、大きな鏡とかなら複数人連れていけると思う。ほら、ハーメルンの笛吹き男も池の水面で現実世界に連れて行けたでしょ』


 そういえばそんなこともサラッとしていたな。思えばあの時点で複数人連れていけることは実証済みだったって訳か。

 なら問題は無い。ガラス張りの建物なら周辺にいくらでもある。これなら俺とニコを異世界に移動させることは可能だろう。


「ああ、ちょっと待ってください。異世界に跳ぶ時はせーのでお願いします」

「? 何かあったのか?」

「いえ、ちょっと“MyPod”をあっちに持っていきたいので……異世界に渡る時にちょっと放り投げる感じで浮かせると、変身に巻き込まれずに異世界に物を持ち込めるんです」


 MyPod――数年前に流行していた音楽再生デバイスだ。PCと繋げて音楽をダウンロードすれば自由に音楽を聴けるというもの。

 実際ニコが取り出したのはまさにそれで、ちょっと懐かしさすら感じる。


「持ち込めるって……そうなのか?」

『いや、私は初めて聞いたし知ったけど……本当にできるの?』

「ふふん、私が見っけた裏技ですっ」


 MyPodを手で遊ばせながら胸を張るニコ。

 なるほど、そんな方法があるのなら俺もスマホを持ち込めるんじゃないか――ああいや、あっちの世界じゃ多分電波が通じていないから無用の長物と化してしまうか。


「それじゃあ、行きましょうか!」

「おう……とりあえず、無茶だけはするんじゃないぞ」

「はい。でも音楽は自由に流させてくださいね。これがあるのと無いとじゃ集中力が全然違うので」

「……まあ、ご自由に」


 ガラスに手を当てながら適当に受け流す。

 そのまま俺はニコの手を取って、異世界への扉を押し開いた――


 ■


 視界が開ける。明るく塗りつぶされていた世界が切り替わる。

 場所は……森の中だ。でも王国の城壁が遠くに見える。王国からそう遠くない場所に出たのだろう。


「……さて、ニコ。まずは王国に向かおう。そこで情報収集を――えっ?」


 振り返り、繋いだ手の先のニコに視線を送る――と、そこにニコの姿は無かった。いや、居るっちゃ居るけど、色々違う。


 そこに居るのは灰被りの少女ではなく、黒髪ロングの姫カット。ちょっと現代的な雰囲気を感じる和装を纏っている、いわば和風な少女だった。


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