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異世界を賭けた異世界による物語の為のバトルロワイアル ~Alice's in the Another World!~  作者: 月夜空くずは
第二章 明けない夜の永い尾話
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077 少女の“物語”

 胸を張ってニコはそんなことを言う。

 ……つまり、小説を書くためにバトルロワイアルに参加している。だがそれは願いを叶えるためではなく、参戦すること自体が願いみたいな訳で――


『ッ――ばっっっかじゃないの!? 何よそのヘンテコな動機は!? そんな理由で参戦してる訳!?』

「うわびっくりした」


 突然アリスが叫ぶもんだから驚いてしまった。

 実体化こそしていないが、もしもしていたらニコに掴みかかりそうな――俺以外に触れることはできないらしいが――勢いでお怒りである。


『カタル、ハッキリ言ってやってちょうだい! そんな理由で参戦するなんて命を賭けて戦ってる連中への侮辱よ! って』

「あ~、こっちの物語――アリスがさ、そんな理由で戦うのは良くないから止めてくれって」

『オイ、私の主張を微妙にマイルドにするんじゃないわよ』


 だってそんな強い言葉を使う気はないし。ってか、俺の動機も正直言って本気で戦っている人達に対してギリ侮辱に値するんじゃないかなぁって自覚があるし。

 でも、俺はこの子のように遊び半分で戦う気は無いのでそこは違う。その辺は俺もアリスと同意見なのだが――


「そ、そんな理由!? 私だって言われたら怒る言葉ぐらいありますよ! 私は本気です! それをそんなことって……ッ、私は遊びでやってんじゃないんですよ!」


 ドン、とテーブルを叩きながら半ギレで拮抗してくるニコに少し驚く。

 ま、まさかそこで怒ってくるとは……いまいち地雷というか、キレるポイントが分からないが……彼女の主張曰く遊び半分ではなく、あくまで本気であるらしい。


「本気って、どこまでさ。命がけで戦うほどか?」

「ええそうですよ! 私はこの創作活動に命をかけてますから! 異世界への取材だって同じぐらい命がけです!」

「それにしては隙ありすぎというか、二度も襲われてた訳だが」

「うっ、それは……その節は、助けてくれてありがとうございました……」


 怒りがこれ以上ヒートアップする前に、ニコはシュンとした表情で怒りの火を鎮めてくれた。他の客の視線が集まっていたので静かになってくれるのは助かる。

 よかった、流石に無防備すぎたという自覚は持っていたらしい。


「なにさ……だってその分バテちゃう訳でしょ。そしたら執筆の時間が無くなっちゃうじゃん……私だって危ないのは分かってるんだから……」


 ニコは隣の虚空に向かって呟きながらお冷を煽った。どうやら彼女の契約している物語からも俺と同じようなことを注意されている様子。


 ……そもそも、彼女の契約している物語は一体何を考えているのだろうか。

 契約して参戦しているということは少なくともバトルロワイアルを勝ち残りたい意思はあるはずだ。なのにニコがこんな調子で文句とか無いのだろうか?


「……その小説に命かけてるとか、そういう熱意についてはわかった。その辺を甘く見ていたのも謝る。でもさ、せめて自衛できる戦力を持つとか、安全を確保したうえで探索するとかしてくれ。ってかできるなら控えてくれ」

「うっ……はい、今度からはちゃんと対策します……小説の出だしに書きたいサバイバルシーンの経験とかは十分体験しましたし、今後は控えます……」


 非を認めてからのニコはへにゃへにゃだ。俺の言葉を受け止めてテーブルに突っ伏している。

 言質を取ったってほど大きなことではないが、これで一先ず彼女に関しては安心できるだろう。その言葉を信じることにする。


「それと、師匠は無しだ。聞かれて恥ずかしいし、そもそも師匠になった覚えが無い」

「ええー!? そんなー!」

「第一、なんで師匠呼びなんて始めたんだよ。ってか俺の物語がアリスって分かってるならそっちで呼べばいいじゃないか」

「それは……その、なぁなぁで言いくるめられそうだったので」

「オイ待て貴様」

「あ、あわわ……師匠がなんか今までで一番怖い顔してる……!」


 ふふ、結構いい性格してるじゃないかこの小娘め。


「ハァ……とりあえずその辺を守ってくれるなら、取材とやらにいくらでも付き合ってやる。それでどうだ?」

『ちょっと。確約じゃないのにそんなホイホイ情報流すんじゃないわよ』

「いいだろ別に。そんな詳しいことは知らないし、あくまで取材らしいし。できるならお前が直接答えてほしいぐらいだよ」

『やだ。まったく……あーもう、勝手に答えてなさいよ』


 そう答えると頭の中に響く声がピタリと止まった。なにも返事が返ってこなくなる。どうやら不貞腐れてしまった様子だ。また以前のように寝込んでしまったのだろうか。

 ちょっと困るけど、この事態を招いたのは俺自身だ。自分の尻ぐらい自分で拭かなくては。


「うう……わかりました。師匠呼び、気に入っていたんですけど」

「アリスで良いだろアリスで。まだそっちの方が自然だ」

「……じゃあ、アリスちゃん」

「ッ…………」


 な、なんか恥ずかしいようなむず痒いような、そんな感覚がするぞ……!?

 しかし、言い出しっぺで即撤回させるのはいよいよ師匠呼びしかなくなってしまうので、妥協してこの呼び方で我慢することにする。


 うう……中身が男なのにちゃん付けで呼ばれることになんか鳥肌が立つけど、我慢我慢……


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