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異世界を賭けた異世界による物語の為のバトルロワイアル ~Alice's in the Another World!~  作者: 月夜空くずは
第二章 明けない夜の永い尾話
59/100

059 灰被りの少女

「本棚は……ここだな」


 あの後中途覚醒を繰り返しながら睡眠を取って、早朝に図書館へ出発した。

 親に「今日は遅くなるかも」と伝えてあるので異世界に長居する準備はバッチリだ。またあの少女に会ってやる。目的は無いけれど。


『それで、何がキーワードになりそうなの?』

「キーワードは二つ。一つ目は“時報”だ」

『時報って、あの鐘の音のこと?』


 12時を報せる鐘の音色。あの音が鳴った直後にあの少女は姿を消した。その物語には心当たりが一応ある。


「有名な話だからな……日本人あら一度は耳にしたことがある。でもそれの原典が近いかもしれない」

『二つ目は?』

「二つ目は彼女の見た目だ。銀髪――これを解釈して、“灰被り”と捉えた」


 俺はポツリと呟きながら一冊の本を手に取る。

 タイトルは“アシェンプテル”……別名を“灰かぶり姫”、あるいは“シンデレラ”だ。


『それがあの女の契約してる物語だっていうの?』

「多分な……」


 シンデレラは有名な話だが、あらすじはこうだ。


 シンデレラは、継母とその連れ子である姉たちに日々いじめられており、奴隷のように扱われていた。

 そんなある時、城で舞踏会が開かれ、姉たちは着飾って出ていくが、シンデレラにはドレスが無く、参加することができなかった。

 そんな舞踏会に行きたがるシンデレラを、魔法使いが――あるいは、その他の存在が――助け、準備を整える。しかし、魔法は12時に解けるのでそれまでに帰ってくるようにと警告される。


 そんなこんなで、舞踏会に参加したシンデレラは城で王子に見初められる。だが、そんな中で12時を知らせる鐘の音が鳴ってしまう。

 零時の鐘の音に焦ったシンデレラは階段に靴を落としてしまう。その唯一残された靴を手掛かりに、王子はシンデレラを捜すことになる。


 姉2人も含め、シンデレラの落とした靴のサイズは、シンデレラ以外の誰にも合わなかった――しかし、シンデレラはその靴を履くことができた。

 結果、シンデレラは王子に見出され、妃として迎えられる――というのが大体の物語だ。


『なるほどね……シチュエーションが似てるかも』

「異世界から帰還する条件が、12時の鐘の音なのかもしれない。だったらあの慌てようも、姿を眩ませたのも納得できる」

『なるほどね……今回もいい線いってるんじゃないの?』

「魔法使いとかかぼちゃの馬車が登場しないのも、靴がガラス製じゃなかったのも原典の方だからだと思う。いや、靴はちゃんと確認してないけど、ガラス製なら足音とかでわかるだろ?」

『その原典ってどういう意味よ。子供向けとは違うってこと?』

「まあな。本当は怖いグリム童話ってやつさ」


 アシェンプテル――グリム童話版では、魔法使いが登場せず、かぼちゃの馬車なんかも登場しない。それに靴はガラスではなく金や銀の靴だ。

 あと靴は偶然落としたのではなく、ピッチという粘性のガムのようなもので王子が意図的に脱がせたなんて違いもあったり。


「最後には妃として迎えられて、姉たちへの復讐も済ませて……シンデレラの欲望はもう物語の中で満たされている」

『だから戦う気が無い――無欲っていう訳か。なるほど、面白い着眼点ね』


 ポン、と開いた物語の本を閉じる。

 推測は以上だ。恐らくだが現状の情報だとこれが最も真相に近い物語だと思う。


『それで、作戦とかはどうするの? どうやって戦う?』

「物語を見たところ、彼女自体に戦闘力が無いから、近接戦を挑めば早いかもしれない。でも“シンデレラの両肩に止まった白鳩に姉が両目ともくり貫かれ失明する”なんて記述があるから、もしかしたら近接戦も危険かもしれない――って、何戦わせようとしてるんだよ! 俺は戦わねぇ!」

『ちぇ~、でも作戦は考えてくれたわね』

「無意識に乗せられちまったよ……まったく」


 本を本棚に戻しながらため息をつく。戦う気は無いと散々言っているというのに、何を言わせるんだか……


「それで、あの王国のマナ? とか言ってたよな。アレに関してはどうするんだ?」

『そうね……私、場所の探知ができるから指示通りの方向に向かってもらえる? そこから異世界に飛び込めば一発であの王国に行けるわ』

「なるほどね……わかった。どこまで行けばいい?」

『そうね、えーっと――』


 ■


――ガタン、ゴトン。

 定期的に揺れる車内は、人気が少なかった。長い車内に人が二人程度しか乗っていない。


(……まさか、電車で隣町まで行かされるとは)


 王国から異世界に行くために、電車に乗る羽目になるとは考えもしなかった。もっと近場だと思っていた……が、アリス曰くkm単位で離れているとのこと。まあ確かに異世界でも日が沈むまで歩くほどの距離が離れていたもんなぁ……


『わぁ……わぁ! すごい、すごいわ! どんどん景色が動いていく……!』


 憂鬱な俺とは真逆に、アリスは楽しそうに歓声を上げていた。普段冷静な彼女から発せられているとは思えない雰囲気を感じる。


『ねぇ、毎日これで移動しない!? そしたらきっと毎日が楽しいわよ!』

「できるならヤダ……」

『ええ~! なんでよ!』


 ああクソっ、電車に乗るのはタダじゃないんだぞ……!

 しかしまあ、珍しくテンションの高いアリスの声を聞けるのはちょっとだけ楽しく感じられたような。

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