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異世界を賭けた異世界による物語の為のバトルロワイアル ~Alice's in the Another World!~  作者: 月夜空くずは
第二章 明けない夜の永い尾話
58/100

058 撤収後のおはなし

 いつもの河川敷に戻ってきた。当然今回はちゃんと元の姿に戻っている。

 空は真っ暗で、時間は……12時過ぎくらいか。以前のハーメルンの笛吹き男騒動の時よりは短いが、想定よりは異世界に長く滞在していたことになる。

 まあ、九割ぐらいは俺の方向音痴が原因なのだが。


『それで、どう思う?』

「へ? 何が?」

『あの語り手についてよ。突然現れて戦う気はないとか言っておいて、突然姿を消すだなんて……行動が読めなさすぎるのよね』


 それは、まあ。うん。確かにその通りである。

 どうしてあの少女は突然姿をくらませたのか、理由が全く不明だ。別れ際に謝罪を口にしていたから悪意があるとかじゃなさそうだが……


「そうだな……それと、彼女は一体何の物語だったんだろう」

『戦う気は無いって言っていたし、戦闘向きの物語じゃなかったのかもね』

「戦闘向き? そんな概念があるのか?」


 初耳である。ってか、それをいうと不思議の国のアリスも元々は戦闘向きの物語ではないように思えるのだが。


『多分だけど、武装(デッキ)がハズレなんでしょ。武装が整ってないというか、アンバランスというか……たまにいるらしいのよ、武装が防御特化で攻め手に欠けるような物語とか』

「契約した物語が無欲って場合もあるんじゃないのか? 叶えたい願いが無いとか」

『ありえるけど、だったらこのバトルロワイアルに参加するかなぁ? みんな欲望があるから参加しているものだと思うし……仮に私だったら毎秒文句を言ってやって無理やり戦わすけど』


 ずっと頭の中から戦え戦えと脅されるだなんて、おっかない話である。

 ……しかし結局、現状では少女について何も分からないのが結論だ。あの子はなんだったのだろうか――


「一度家に帰って、仕切り直しをしよう。情報整理は明日に持ち越しだ」

『そうね。新しい入り口も見つけなおす必要があるし、その意見には賛成よ』

「……また同じ時間帯に行けば、あの少女に会えるかもしれないしな」

『会ってどうすんのよ、あんな奴。アンタの判断が鈍るだけだから、できることならもう会わないで欲しいんだけど』


 ……そういわれても、あの少女のことが気になるというか、思考の隅に引っかかる感じがする。アリスの言う通り、すでに判断が鈍りきっているかもしれない。

 俺はモヤモヤを感じながらも仕切り直しのために家に帰還するのだった。


 ■


「――ふぅ」


 ボスン、とベッドに横たわる。疲労感は無いけど、精神的には十分疲れた。

 帰り道に寄り道して買ったアンパンを口にして夜食を摂る。アリス曰く『アンパンは粒あんを買いなさい。そっちが正解ルートよ』と謎のこだわりを見せてたのでやむなくアンパンにした。

 美味しいんだけど、正直もっとガッツリとしたものが食べたかったなぁ。


「あむ……あの子、異世界を脱出できたのかな」

『多分したんじゃないかしら。もしかしたら脱出を急いでいたから急に姿を消したのかもね』

「だと良いんだけどなぁ……むぐ」

『何よ、そんなにあの語り手が心配な訳? 一応言っておくけど、私たちの敵なのよ。不殺は良いけど、同情とかするのはやめてよね』

「だって無抵抗なんだぞ。正当防衛ならともかく、一方的に嬲り殺しなんて俺はしたくない」

『だからあまちゃん野郎なのよ、アンタは……』

「あまちゃん野郎で結構だ。あむっ、むぐ」


 自棄っぽくアンパンを頬張って完食する。甘いものを補給できたこともあって、疲労感で鈍った頭がちゃんと回転し始めた気がする。

 少女――銀髪で、服装からしておそらく西洋の子だ。だからきっと西洋モチーフの物語だと思うのだが……


「…………」


 チッ、チッ、チッ、と静寂が自室を支配する。

 西洋モチーフの物語なんて、それこそごまんといる。特定する方法なんて、もっと決定的な情報が要る――


(あの子が突然いなくなったのは、鐘の音が鳴ってから――)


――――多分これは……時報みたいなものね。多分城の方から鳴っているんでしょうけど。


「……なあ、この世界と異世界の時間って同じなのか?」

『? 正確に測ってるわけじゃないから断言はしかねるけど、大体同じだと思うわよ。』

「時間……時報の鐘……」


 チッ、チッ、チッ。

 時計の音が耳に残る。あの鐘の音は時報だ。時間は12時を知らせるもの。異世界から帰還後に腕時計を確認したから間違いない。


「……もしかしたら」

『? 何かわかったの?』

「ああ。推測だけど、彼女の正体……物語についてわかったかもしれない」

『! 本当!?』

「明日図書館で確認しながら結論付ける……でも、だったら確かに戦闘向きじゃない物語だな」

『何よ。もったいぶらないで話しても良いじゃない』


 頭の中から催促するように言われるが、あいにく自信が無いことは口にしないタイプというか、結論を急ぎたくないというか。

 明日図書館で詳しく確認しながら、確信が持てたら話したい。


『……まあ、結局わかったのならそれで良いけど。でもさ、勝てそう?』

「だから俺は自分からは襲わないぞ。戦うのはあの子がやる気な場合か、何かを傷つけようとした時だ」

『何かって、何よ』

「それは……まだ未定。でも理由なくあの街を荒らしていたら止めに入るつもりではいる」


 あの素敵な王国を、語り手の力で滅茶苦茶にする――そんな行動に出たならば、俺はあの子を止めてみせる。あの子に武器を向けることだってできる……筈だ。

 でも実際にそんな想像をするのは……ちょっと難しそう。抵抗感がある。


『……だからアンタはあまちゃん野郎なのよ、カタル』


 ……そんな情けない思考をしていたせいだろうか。ぼそりと呟かれた言葉が、妙に胸の内に刺さったような気がした。


 ■

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