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異世界を賭けた異世界による物語の為のバトルロワイアル ~Alice's in the Another World!~  作者: 月夜空くずは
第二章 明けない夜の永い尾話
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057 唐突な別れ

 不意に声をかけられ、その方向を向くと、一人の人間が俺たちの元へ歩いて来て、しゃがんで俺の背丈に目線を合わせてくれていた。

 全身を金属製の鎧で固めた姿から、この王国の兵士なのだとなんとなくわかる。恐らくここの門番なのだろう。


 ……そうだった、俺もこの少女も子供の姿だ。そんな子供二人がこんな深夜に出歩くだなんて警備員みたいな立場の人間に声をかけられても不思議ではない。


「俺たちはその、ええっと――」

「ご両親は? いや、そもそも君たちは王国外に住んでいる人間だろう。どうしてこの王国にやってきたんだい?」

「あ――あうあう」


 どうしよう、突発的だからなんの言い訳も考えていない。

 俺はなんて言おうか悩んで、でも何も良い感じの言い訳が思い浮かばなくて――


「私たちは孤児なんです。村を追われて、森の中を歩き続けて、ようやく人の居る街にやってきたのです」


 そんな中、突然少女はまっっったくの嘘を平然と口にした。


「む、村を追われて……? ああいや、なにがあったのか事情は聞かないが……そうか、孤児か……でもその、それにしては服装がしっかりしているな? 身寄りのない孤児ってのは、もっとこうボロボロの服を着ているもんだと」

「この服は親が唯一残した形見のお洋服なんです。お母さんは裁縫の得意な人で、妹と私のために夜な夜なせっせと作ってくれて……」


 俺の肩を背後から掴んで少女は嘘を語り続ける。止まる気配はない。

 ってか、俺はこの子の妹扱いか……なんだろう、収まりどころとしては相応だとは思うがなんか気恥ずかしい。


「父が流行り病に倒れて、母も同じく……それで病が広がる前にと迫害された私たちは遠い遠い旅路を超えて此処に……」

「ちょ、設定盛りすぎじゃないか……?」

「……うぅ、グスッ……」


 ペラペラと虚言を口にする少女を前にこれ以上語らせるのを止めるべきか――そう考えていると、兵士が突然鼻を啜った。

 何やら目には涙をいっぱい浮かべて、ポロポロと涙を流している。もしかして、今の話を聞いて泣いてらっしゃる……?


「ううう……わかった、わかったよ……君たち、苦労したんだね……グスッ。ああ、通っていい……苦労したんだね、まだこんなに若いのに……」

「あー、えっと、そのー」


 今の話は全部嘘です、だなんて――元々言うつもりは無いが――とても言えそうにない様子で、兵士は顔をグシャグシャに涙と鼻水で濡らしながら同情してくれた。

 な、なんだろう……一ミリも事実が無いのにこんなに泣かせてしまったことへの罪悪感みたいなものを感じる。


「……えっと、君もなかなかやるねぇ」

「…………ぶぃ」


 平然と嘘をついて入場の許可を得た少女に向けて感心半分、恐れ半分にそう言うと、少女は小さく微笑んでVサインを俺に見せるのだった。


 ■


「わぁ……わぁ、わぁ……!」


 門を通り過ぎて街の中に入るとその景色は圧巻だった。

 地理の教科書の写真で見たような西洋の建物たちがズラリと立ち並んでいる。まるでそういうテーマパークにでも来たみたいだ。


『カタル、浮かれるのは良いけど今後の方針はどうするのよ』

「あ、ああ。そうだったな……それで、君はこれからどうするんだい?」


 クルリと振り返って俺は少女に声をかける。

 少女も王国の建物たちに心を奪われていた様子だったが、俺の声を聞いてこっちを向いてくれた。


「そうですね……ここなら異世界からの脱出も叶いそうですし、一旦現実に戻ろうかなと……」

「そうかそうか、その方が安全だな――」

『ッ、じゃなーい!! なに呑気な会話してるのよアンタ! いやアンタたち! 語り手同士でしょうが! 戦わなくてどうすんの!』

「うっ」


 頭の中からの叫び声。思わずくらりと眩暈を覚える。

 ……ああくそ、そういうの止めてもらえないかなぁ。俺は片手で頭をかかえながらなんとか踏みとどまった。


「?」

「ああいや、失礼。こっちの相方が騒いでさ……俺の物語は戦うのを希望してるんだけど……俺自身は戦う気が無いんだ」

『カタル!』

「ッ、だって仕方ないだろ! 俺はあくまで守るために戦ってるんだ! 自分から襲い掛かる気は微塵もない! この主張は変えないからな!」

『ッ~~~! アンタねぇ……! このあまちゃん野郎がぁ……!』


 頭の中はたいそうご立腹だが、俺は俺の意思を変えるつもりは無い。だからあまちゃんとか言われようが全く気にしない。ってかあまちゃん野郎って表現なんなんだよ。初めて聞いたわ。


「……変わった人ですね。さっきの獣みたいに、みんな戦おうとするものだと思ってました」

「恥ずかしながら望みが無いんでね。そういう訳なんだけど……お互いどうする? 君が何かに危害を加える気が無いのなら俺はどうでもいいって感じなんだけど――」


 と、その瞬間、大きな金属音が鳴り響いた。

 ゴーン、ゴーン、ゴーン。

 大きくて鈍い音がゆったりと等間隔で町中に反響する。


「これは……この街の鐘の音?」

『多分これは……時報みたいなものね。多分城の方から鳴っているんでしょうけど』

「え……」


 十二回ほどだろうか。鈍い鐘の音はそれで止まった。

 ……話題を遮られたな、と思って少女の方を改めて振り向くと、少女は血相を変えて立ちつくしていた。


「……? どうかしたのか?」

「ッ……! ごめんなさい! 私はこの辺で……!」


 そんな謝罪の言葉と同時に、踵を返して少女は突然駆け出した。


「え――あ、ちょっと!?」


 止める暇も無い。名前もまだ知らぬ少女は建物の陰へと姿をくらませてしまった。

 突然のことにびっくりしたが、俺は思わず少女の後を追いかけた。大丈夫だ、この身体能力があれば追い付くのは容易――!


「――! あ、あれ? あらら?」


 曲がり角を曲がった先。そこに少女が逃げ込んだ筈なのだが……どういう訳か姿が無い。

 う、嘘だろ……!? 完全に見失ったというのか!?


「んな、あ、ありえねぇ……!?」

『何が「ありえねぇ」よこの馬鹿ッ! 完全に見失ったじゃない!』

「あ痛い!?」


 ポカーン! と後頭部を叩かれる感覚。振り返るとそこには実体化した少女の姿があった。さっきの会話の件もあってたいそうご立腹な様子だ。


『ったく……語り手に対する認識といい対応といい、説教することは沢山ね』

「説教って、俺はそんなことされることはやってな――」

『だ! ま! る! とにかく、あの女に逃げられたことだし、一度私たちも撤収するわよ……まったくもう』

「撤収? でもここで撤収したら、またあの森の中からやり直しになるんじゃないのか?」

『そこは心配ないわ。この街のマナの流れを掴めたから、今度はこの王国から直接スポーンできる。ほら、そこのガラスから帰るわよ』

「マナ? スポーン? ……なんかよくわからんけど、わかったよ」


 激おこなアリスにこれ以上反発して怒らせるのはあまり良くないと思えた俺は、彼女の言葉へ素直に従って撤収を選んだ。

 鏡は無いが、代わりになる反射物――ガラスの窓はこの街に沢山ある。俺はガラス窓に手をついて、押し開くようにして帰路の門を開いた……


 ■

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