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異世界を賭けた異世界による物語の為のバトルロワイアル ~Alice's in the Another World!~  作者: 月夜空くずは
第二章 明けない夜の永い尾話
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056 夜間の現状

 座り込んだままの少女――いや、タダの少女ではない。語り手の少女。

 戦う意思が無いと言ったか……いや、ずる賢い男(ハーメルンの笛吹き男)の例がある。そう言って油断をさせたところで不意を突いてくるかもしれない。いやでも、実際何もしてこない訳だし、懐疑的に見過ぎるのも――


『……それで、これはどういう状況なのよ』


 ……と、頭の中でグルグルと考え事をしている最中でアリスが口出ししてきた。堂々巡りしていた思考が断ち切られて意識が現実に引き戻される。


「どういうも何も、今自白しただろ? この子は語り手で――」

『だったら、戦って勝敗を決めるのが普通よ。なんでこんな呑気してるのよ』

「それは……ぉぅ」


 そうだ、コレはバトルロワイアル。語り手同士の戦いだ。

 だったら語り手同士がこうして巡り会ったのなら、こちらが望まなくても戦闘が起きるのが当然なのだが……


「……?」


 ……どういう訳か、相手は初手から白旗を振っている状態だ。視線を向けると、彼女は不思議そうに首をかしげている。

 どうもさっきから彼女の内面を読み取ることができない。一体何を考えている子なんだ……?


「……あー、なんだ。その、立てるか?」

「はい、ありがとうございます」


 困惑半分に手を差し伸べてそう声をかけると、少女は礼の言葉と共に俺の手を掴んでくれた。宣言通り、俺に対して敵意とかは無いらしい。

 そのまま引き起こす……と、案の定その少女は背丈が俺以上あった。さっきまで見下ろしていた少女を今度は見上げるのは首が忙しい。


「ええっと、名前はなんていうんだ?」

「…………」

『語り手がそう簡単に名前を明かすかっての』

「そっか……んじゃあ、君は何故こんな森の中に? 戦う意思が無いのなら、どうしてこんなところに迷い込んでいるんだ?」

「それは……その」


 俺の質問に対して、少女はなんて答えようか悩んでいる様子だった。


「……まあいい。とりあえずここを離れよう。森の中にいつまでも居たら、またさっきの獣に襲われるかもしれない」

「そうですね……でも何処に行くんですか?」

「この近くにアーカディア王国って街がある筈なんだ。いったんそこを目指そう。多分こっちの方角に街道が――」

「街道ならそっちですけど……」

「……ソーナノ」


 地図を取り出して歩き始めたその直後、少女から指摘を受けて振り返る。90度別の方向だった。

 ……うーん、恰好がつかないなぁ!


 ■


 少女の言う通りの方向を少し歩くと、街道に出るのはあっという間だった。

 そしてその街道をしばらく道なりに進んでいくと大きな壁が見えてくる。レンガを積み上げたような壁。恐らく城壁と呼ばれるものだろう。


 アーカディア王国は地図によるとそこそこの大きさを誇る王国――中心に城を構えた中枢中核都市のような場所らしい。

 それ以上の詳細は地図に書かれていないが、あとは足で情報を集めることにするつもりだ。村で稼いだ金銭もまだあるし王国での活動に不便は無いはず。


 しかし、今の俺は王国についてよりもこの少女に関する情報収集の方が重要だったりする。道中に歩きながら拙い会話を交えてようやく円滑なコミュニケーションが取れる程度には打ち解けた。


「なにぃ? ずっと森の中で生きてたって?」

「はい。二日は森の中で彷徨っていました……私、語り手になってまだ間もなくて、今回が初の異世界入りなんです」

「そりゃ大変だったな……二日も森の中は大変だったろうに」

「いえ、新鮮で楽しかったです。いえ、むしろサバイバルだと聞いてこの世界に飛び込んだので、準備は万端でしたから」


 ……コミュニケーションが取れても、未だに不思議で底の読めない子という評価は変わらないのだが。

 まあ、彼女がどんな物語と契約したのかは知らないが、飲食の心配は恐らく要らなかったのだろう。そう考えるとサバイバルにしてはかなりイージーな部類だ。軽いアウトドア感覚になるのもまあ分からなくはない。


「でも危なかったな……その結果、他の語り手に襲われるだなんて。あ、聞きそびれてたけど怪我とかしてないよな?」

「ちょっと手のひらを擦りむいたけど、特に怪我はしていないです。擦りむいた手も血は出てませんから」

「そっか、それならよかった」


 会話を交えていく度に少女との会話はより円滑になっていく。表情も最初の時と比べて幾らかわかりやすくなった……気がする。どうやら最初の頃は緊張で表情や言葉が出にくかっただけらしい。


「ちなみに貴女は何処から来たんですか? 突然森の中から助けに来てくれたみたいでしたけど……」

「ここから南のエルディア村って場所から歩いてきた。本当は街道を歩く予定だったんだが、迷っちゃって。でもおかげで助けに入ることができた」

「その節はありがとうございました。もし助けが無かったらあのまま死んでいたと思うので……」

「そりゃゾッとする話だな……ん、ようやく着いたな」


 ……長会話もここまでだ。俺達は王国の門の前にたどり着いた。

 門はとても大きく、まるで大きな巨人用の扉だ。鋼鉄製の両開きの戸が開けっ放しになっている。

 あとはこの門をくぐれば、王国に入ることができる――なのだが、


「失礼、君たちは……なんでこんな深夜に門外に出歩いているんだい?」


 ……と、そこで突然声をかけられた。

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