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異世界を賭けた異世界による物語の為のバトルロワイアル ~Alice's in the Another World!~  作者: 月夜空くずは
プロローグ 少女と鏡に落ちて
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004 仕方のない諦め

「――はーっ、はーっ……!」


 数十分……いや、それは体感であって実際は数十秒程度か。

 背中を叩きつけられて吹っ飛ばされて、転がるように逃げた先にあった洞窟に、それこそ転がり込むように隠れて――今に至る。


『ダッサいわね……立ち向かうどころか一方的にやられるだなんて』

「しーっ! 静かにしろっ! あんな突然襲われたら誰だってああなるって!」

『静かにも何も、私の声はアンタにしか聞こえてないわよ』

「つーか君は何処にいるんだよ! 聞きそびれたけど!」


 のっしのっし、と近くを通り過ぎていく怪物を横目に見ながら洞窟の影に縮こまり隠れる。

 この洞窟は隠れるのにはうってつけでも、奥行きの無いからあの怪物にバレたら終わる。逃げられず追い詰められる。だからできる限りバレないように努めるのが俺に出来ることだ。


『アンタの方がうるさいわよ……今私はアンタの頭の中を借りている状態よ。やろうと思えばアンタだけに姿を見せることだって出来るけど』

「頭ん中……?」


 思わず頭に手を当てるが、それで分かることではなかった。

 ……相変わらず、自分の物とは思えない華奢な腕に、繊細で絹のような金髪だなぁ。髪の毛はサラサラと砂のように頭に当てた手のひらをすり抜けていく。


『それと、宇宙服って言った意味、体感した? 普通アンタの体だったら今の一撃喰らった時点でお陀仏よ?』

「お、お陀仏……」


 ……確かに、言われてみればそうだ。

 鞭よりも早く、丸太よりも太い尻尾が背中へモロに直撃したのだ。普通なら死んでいたっておかしくないと今更ながら思うが……そうか、都合が良いとかどうとか言っていたのはこういうことか。少しずつ理解出来てきたぞ。


「じゃあ……えっと、あの襲ってきた怪物はなんなんだよ!?」

「アレはジャバウォック。私モチーフの敵役ね。多分私の気配に呼び寄せられてきたんだろうけど――」

「そんな難しい説明じゃなくて! もっと簡単に!」

「……ゲームで言う、モンスターよ。ほら、戦うとお金や経験値を落とすやつ」

「モンスタァ?」


 チラリ、と怪物の方を見る……が、まだこちらには気がついていない。

 あれがモンスター。敵役。

 ……いや、そう言われても全く実感が湧かないんですけど……!


「……それで、結局俺はどうすれば良いんだ? こんな女の体で逃げられるのか?」

『やろうと思えば俊敏に逃げられるわよ。でも戦って。その方が今後の役に立つ』

「いやぁ無理無理、逃げ足がたどたどしかっただろ!? こんな体じゃ無理だ!」

『いや、出来るわよ! 私の体ナメんじゃないわよ!』

「いやいやいや! 無理なモンは無理! それに今は俺の体だ!」

『……あ』

「あ……?」


 少女の声と俺の声と、輪に交ざるようにボフゥと流れてくる生暖かい風。

 サララと流れる髪の毛が風の湿気で湿るのを感じ――振り返ってみれば、さっきまであんなに遠かったはずの怪物が、またしても至近距離にまで迫っていた。


「な――おわぁ!?」


 立ち上がってあたふたと逃げると、ガチンと何かが噛み合うような音を背中越しに感じる。多分だけど、あの怪物が俺を食おうと噛みついた音だ。

 手を足のように使った四足歩行で逃げ出す……が、逃げられたのは洞窟の奥。言うなら逃げ場の無い袋小路だ。


『ああもう! 早く“武器”を取り出しなさい!』

「武器って……何処にあるんだよ!?」

『そんなこともわかんないわけ!? ……まさか、仮契約だから!?』


 頭の中でも混乱の声が聞こえるが、それ以上に俺の精神の方が混乱している。

 突然の出会い。突然の死。

 訳が分からないうちに、訳も分からず死ぬだなんて――


(……あ、そっか)


 ……なんだ、別に“普通”じゃないか?

 橋の上から飛び降り自殺を図ったその時点で、死ぬのは決まっていた。それがほんの少し生きながらえただけだ。


『……!? ちょっと! 何諦めてるのよ!?』


 諦めるも何も、元々そういうもの――死ぬ筈だったのだから仕方ないだろう。

 頭の中のうるさい声も、この怪物に襲われている現状も、全部ぜんぶ、死ぬ間際に見た幻だ。


『あのねぇ! 今アンタが死んだら私も困るのよ! まだ始まったばかりなのに諦めないでよ!』


 ……ああ、あの怪物――死の象徴がもう間近に迫っている。

 おかしな夢物語はここでおしまい。ぐぱぁと開いた怪物の不気味な口は、俺を一口で喰らい尽くそうとして――


「――《アタック・スキル「ウルフズクロウ」》――ッ!」


 その死の象徴は、不思議な掛け声と共に吹き飛ばされた。

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