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異世界を賭けた異世界による物語の為のバトルロワイアル ~Alice's in the Another World!~  作者: 月夜空くずは
第一章 少女の涙の池、異世界への願い
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038 最終考察

「とはいっても、備えるって何をだよ」


 今から森に行って大物狩りをするわよ! なんて言われたら痰でも吐き捨ててシーツに包まってやる。絶対動かねぇです。

 しかし、少女はそんなことを考えてはいないらしい。頬に人差し指をトントンと当てながら考え込んでいる。


『そうね……現状できることは情報を、かな。つまり、もう一度敵の正体、能力を正確に考察しましょう』

「もう一度考察するだって?」

「ええ。そうすればおのずと対策も出てくるでしょ」


 ……確かに、敵の正体こそ考察したが対策までは考えていなかった。

 これから先、語り手を敵にすることを考えるとその辺りの考えも必要になってくることだろう。


『まず敵の正体。これは何?』

「それは――」


 キーワードを思い出す。

 “大量のモンスターを操る”。“笛の音色”。“大量のネズミの使役”。

 この三つのキーワードから、今回敵になっている語り手、その原典となる童話を考えるに――


「……語り手の契約している物語は、“ハーメルンの笛吹き男”だ」


 ドイツのハーメルンを舞台にした物語。

 笛を使いネズミを操り、しまいには子供まで操って連れ去るお話。

 モンスターの使役は物語に出てきていないとは思うが、少女曰く解釈の幅は意外に広いらしい。モンスターも操れる対象となっているのだろう。


『恐らくね。でも結構いい線いってると思うわよ』


 情報が得られたことに満足しているのか、少女は嬉しそうにうなずいている。

 現場から得られた情報を元に考えるに、きっとこれで正しいはずだ。もしも外れていたらこちらの考察不足。つまるところ負けである。


「能力は多分笛を使ったものだと思う。音色で生き物を操る的な……蛇を操るやつみたいにさ」

『モンスターの軍勢が増えた時に笛の音色が聞こえたから、きっと音色でモンスターに指示を飛ばしているっぽいわね……その例えもあながち間違いじゃないかも』


 笛の音色が聞こえる時は、決まって敵の動きが大きく変わる時だ。

 俺のトランプのように、敵も道具を持っているとすればきっと“笛”なのだろう。


『敵の能力はわかった。それで対策とか何か思いつく?』

「対策か……やったことはないけど、一応身を守る方法は思いついている」

『身を守る方法?』

「だってほら、子供だろ。今の俺の体」


 ハーメルンの笛吹き男のラストは、子供を笛の音色で連れ去ってしまうという終わり方だった。ならば、子供である自分自身の身を守らなければ話にならない。

 最悪の場合、俺自身が操られて――なんて可能性も捨てられないのだから。


『……子供じゃないわ』

「……?」

『だ! か! ら! 子供じゃないからそんなの問題ないっての!』


 ……で、なんでそんなところで反論してくるんだろうかこの少女は。

 十人に十人が子供だと思うぞきっと。ってか、リヴィアさん含め会話した人たちはみんな俺の姿を見て子供だと思っていた訳ですし。

 あ。さては、この子はもしかして――


「さては君、子ども扱いされるのが嫌なタイプだな?」

『…………』

「おう、なんか言ってみろやおう」

『ッ! 何よ、首絞められたいわけ!?』

「あ――ちょっともう絞めてる! 絞めてるじゃん! ギブギブギブギブ――!?」


 閑話休題。


『ぜぇ、ぜぇ……それで、そんな煽りをする暇があるのなら対策の一つぐらい考えついているんでしょうね?』

「はぁ、はぁ……まあ、な」


 ……とにかく、俺の体が子供である以上、語り手の子供に対する干渉への対策も必要なのである。その対策についてだが――


「……まさか、子供向けの作品に救われるとはな」

『……?』

「とりあえず対策は任せてくれ。あと必要な対策は……」


 荷物を整理しながら――とはいってもトランプのデッキとお金ぐらいしか荷物は無いが――考える。恐らくだが近接戦に持ち込めば勝てる自信がある。

 語り手のことをナメているわけではないのだが、こんな感じにモンスターを使役して戦う奴は本体が弱い、なんて偏見がある。


『対策が必要なのは……モンスターの大群の突破方法ね』

「…………」


 そうだ。たとえ本体が弱くても軍勢がこの上なく厄介だ。実際、一度撤退を余儀なくされている。

 ……正直に言うと、そっちに関してはお手上げだ。真っ向勝負で叩き潰すことしか策が無いが、それには限度がある。数が多ければまた逃げることになるだろう。


『策は無いか……でもまあ、いいんじゃないの? シンプルな戦力に対してはこちらもシンプルな策を取るしかないっていうのかな。たたかう、魔法、道具、逃げるって感じでさぁ』

「……|ロール・プレイング・ゲーム《RPG》じゃないんだぞ」


 しかしまあ、その考え方自体はその通りだと思う。向こうが純粋に戦力で勝負を仕掛けてくる以上、こっちは搦め手か、同じく純粋な戦力で挑むしかない。


「でも、戦力勝負だと向こうの方が上だ。最速で攻略して語り手本体を叩く。これしかないと思う」

『そうね……不安要素はあるけれど、その辺はアンタに一任するわ』


 ……それで対策の話は終わる。それと同時に、こちらの荷物整理も終わった。

 これで、もしも語り手と交戦する場合になったとしてもある程度は策を持って戦えるだろう。

 できることなら、語り手と戦うことなくリヴィアさんを探し出したいのだが――

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