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異世界を賭けた異世界による物語の為のバトルロワイアル ~Alice's in the Another World!~  作者: 月夜空くずは
第一章 少女の涙の池、異世界への願い
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029 帰還した感想ですが

「…………ぅ、ん」


 チチチ、と鳥が鳴いている。

 体を起こそうとする――が、腰……いや、背中全体が痛い。うっ血していたような、凝っているようなそんな感覚。

 なんとか体を起こしてわかったのは、寝ている場所は河川敷で、俺はそこに設置されているベンチで横になっていたことだった。


 ……昨日の記憶が曖昧だ。特に戦った後に関してはほとんど思い出せない。

 しかし、こういう思い出せない記憶は酒で忘れているだけか、脳が意図的に思い出したくないことを忘れているかのどっちかだ。

 ならば無理に思い出そうとしなくていいだろう。そんな気がする。


「……今は、十時か。俺、何時まで寝てた……?」


 遠くに見える時計をぼんやりと眺めて今の時間を把握する。

 ベンチで寝た代償か、腕が重かったので腕時計や携帯を見る気にはなれなかった。


『それ、私に聞いてるの? 帰ってきたのは朝焼けぐらいだったと思うけど』

「多分、四時か五時ぐらいかな……んんっ」


 重たい腕を無理やり持ち上げ、空に向かって伸びをする。

 いい天気だ。穏やかで心地よくて、太陽を金髪越しに見えるとキラキラしてて綺麗だ……し……?


「……おや?」


 ……そーいえば、俺の髪の毛ってこんな金色でしたっけ?

 なんとなーく伸びで伸ばした腕に視線を向ける。いつもの細い腕だ。こんな細い腕で一体どうやってあんな馬鹿力が発揮できるのか――

 ――って、いつものなんかじゃない! 俺の体は今男のものの筈だろう……!?


「……ハッ!? お、俺、戻ってない!? 女の子のままだ!?」

『あー、そういうこと。元の姿に戻る意思を持って世界を渡らないと姿は引き継がれたままよ。前回は私が勝手に調節してたんだけど……今回のアンタ、それどころじゃなかったから』


 慌てて立ち上がると、俺の体は異世界の中で何度も利用させてもらった少女の姿だ。スカートの端が僅かに溶けているし、あの後この姿のままこの世界に戻ってきたという訳なのだろうか。


「ちょ――こんな女の子の姿で野宿してたんか俺は……!? というかどうすれば戻れる!?」


 慌てて周りをキョロキョロと見まわしてみたりする。

 も、目撃者はいないだろうか……こんなイラストの服装みたいな浮いたドレスをして、ベンチで横になって寝てしまうだなんて無防備な姿を見せていたことに恥を感じる。

 うう、誰にも見られていないといいなぁ……今日も平日だから人の通りは少ないと思うが、下手したら朝のランニングをしている人に見られていたかもしれぬ。


『姿を変えるのならもう一回世界を渡れば良いわ。でも異世界に生身で入るのはおススメしない』

「それは……まあ、そうだよな。実際異世界に渡った直後にジャバウォックとかいう怪物に襲われたし」

『一度その姿のまま異世界に入って、異世界を脱出する際に元の姿に戻る……が手間だけど安全かな』

「おーけー、じゃあしよう、今しよう。こんな姿晒せるかっ」

『ちょっと待った』

「ぐえっ――ま、またか!? 今度はなんだよ!?」


 さっさと水たまりの方へ歩き出したが、またしても片腕を握られて止められる。

 なんでさ……! 俺はこんな恥ずかしい姿を世間に晒したくないんだよ! だから離せ! 俺は現実でこんなコスプレじみた姿はしたくないんだ!


『異世界に入る前に情報収集がしたいわ。本屋とか図書館とか、本を取り扱っている施設は近くにあるかしら』

「情報収集ってなんでだよ! そういうのって異世界でするもんじゃないのか!?」


 情報収集は足で稼ぐもの――実質そんなことを言っていたのは少女の方である。語り手の居ない現実世界で痕跡集めなんてできるわけがないだろう。


『いいえ、必要な情報ならすでに大体出揃っている筈よ。あんな大量の獣の軍勢を扱う童話だなんて限られてる筈だわ』

「! ……確かに、渡来人の怒りとかリヴィアさんが言ってたもんな。じゃあ俺が戦った大量のモンスターもその渡来人――語り手の仕業っていうのか?」

『恐らくそうね。それと、情報収集とは言ったけど正しくは情報の結論をこっちで叩き出して特定するって感じ。要は最終結論ね』

「こっちの世界で特定なんてできるのか……?」

『こっちにはアレがあるじゃない。私みたいな“物語の本”が』

「……! 本を探してるのってそういうことか」


 語り手が契約する物語は、間違いなく本で存在するのだ。

 つまり、今までで得た情報を頼りに物語を特定し、相手が何の登場人物か当てるということなのだろう。

 例えば吸血鬼の物語だと特定できれば、その登場人物の弱点がわかる。退治された方法が載せられていれば――吸血鬼の場合、日光や銀の武器なんかで――その通りに退治できるのだ。


「図書館なら近くにある。市の大きめな図書館がある……んだけど」

『……けど?』


 ……流石になんというか、もじもじしてしまう。

 こんな姿――確実に世間様から浮くような恰好で、人気の多い場所を歩き回れと言うのか……?


「……この格好でいかなきゃダメ?」

『ダメ。情報が掴めるなら早いほうが良いわ。異世界に行ってる暇はない』


 ……く、くっそ、なんて羞恥プレイだ。

 見た目も声も他人とはいえ、中身が男な身としてはこの姿をこの町の住民に見られるのはすごく抵抗がある。

 ……あるん、だけど。少女の言っていることもまた正しいのである。


「ッ~~! わかった、わかったよ! この格好でやってやるよこの野郎!」

『私は野郎じゃないんですけど。んじゃ、早く向かってね』


 クソッ、クソッ、クソッ……! 俺の心配を他人事のように扱いやがって……!


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