第二話 闇魔法
「ねえ、ガブリエル。どうやったら闇魔法を使えるようになると思う?」
私の前にいる人物に話しかける。肌、髪、着ている服全てが純白で、この世のものとは思えない神の気配があった。これは、半分正解で半分間違っている。
この世のものではないという点は正解だ。彼女(性別は無いらしいが)は私が天界から引きずり下ろ……召喚した、いわば天使。天界というのも良く分からないが、ガブリエルみたいなのがいっぱい住んでいるらしい。
そして、神というのは違う。人間にとってみたら天使も神も同じくらいの神々しさを感じるが、天使にとっても神というのは異次元の存在らしい。例えるなら人間がダンゴムシで、天使が月で、神が太陽。
「……はぁ、何度も言っているでしょう。私ごときでは分からないと。そういうのはもっと『上』の方が決めているので。」
ガブリエルは心底嫌そうな顔をしてため息をつく。何しろ召喚されるたびに聞いているから、最初こそ天使を召喚できる私に興味を持っていたのだろうが段々うざくなってきている風だった。まあ、それでも聞くが。
「ところで、今日は何の用ですか?」
「特に用ってものはないんだけど、もう少しで学園に入るっていうのに前より一層話かけられなくなったからね。暇になっちゃったから。」
「そんなんだったら召喚しないで下さい!私だって暇じゃないんです。」
「え、本当?暇なイメージがあったけど、例えば何してるの?」
「うっ……それはですね。例えば……あっ、勝手にこの世界の魂がよその世界へ行かないよう見張ったり、逆によその世界の魂がこっちに入ろうとするのを防いだり。」
「ふーん、それ大変なの?」
「えっ、も、餅論です。た、大変に決まってるじゃないですか。」
「焦りすぎて字が違うけど……ま、いいや。とりあえず今日は制服届くまで暇だから。久しぶりに国王……お父様にも謁見するしね。」
「そういえばこの前言ってまし……」
何か言いかけたが、最初から何も無かったかのようにスッと存在自体が消える。それと同時に扉が開いた。
「姫様、制服が届きました……また『おままごと』ですか?もう学園に入られるお年ですから、子供っぽいことは辞めて下さい。」
私だけしかいない部屋に、お茶の入ったグラスが2つ置いてある。1つは私ので、もう1つはさっきまでガブリエルが飲んでいたものだ。
「ガブリエルにお茶だけあげたいから、そこに置いておいてくれるかしら。」
「……」
椅子に無造作におき、少々乱暴に扉を閉めて行った。後には静寂だけが残る。
お気づきのように、私はここ王宮では嫌われ者である。何故かと言うと平民の出だからだ。両親どっちかが貴族とか、血筋を辿れば貴族がいると言う訳でなく純平民、the平民。
父は小さな料理屋のコック、母は冒険者の受付嬢と何の変哲も無かった。だから、私も普通に生まれてくる筈だったが。しかし、何をどう間違ったのか私には聖女という称号を持って生まれてきた。
聖女はハルレル聖教会が神の使者と定め、教会内でかなり上の立場にいる人達。聖魔法を使うにあたっては右に出る者無し。
普通なら生まれた後すぐに『聖なる儀』(マジで名前ダサい。教会が決めてるからいつか変えてやる)を行い、職業やら称号やらを確認するのだが、田舎だった為されたのが一年後だった。さっき言った通り、聖女は貴重だから王宮騎士が私を迎える為に派遣されたんだけど、その時ちょうど村が魔物の襲撃を受けて私の両親は死んだ。
そして、この国では聖女は王家の一員となるという法律があって、私はそのまま王家の人となった。問題はここからだった。歴史が長いここルイト王国では、過去にも数名聖女が生まれてきたこともあった。しかし、それは全て貴族からであって世界的にみても聖女というのは割と身分が高い人が多かった。
しかし、どういう訳か貴族のkの文字も無い私が聖女になった。勿論、最初の方は〇〇家の隠し子だとか、実は闇に葬られたあの家の末裔だとか色々調べられてが、どの報告書の結果にも純平民の三文字しか無かった。
そして、この国は貴族至高主義で貴族以外は人じゃないという奴らが割と多い。特に王家なんかそうだ。だから、こんな聖女とは言え平民を王家に入れていいのかということが凄い論争になった結果、一応受け入れられたものの嫌われ者で無視されるようになった。
「さて、そろそろ着替えますか。」
ちなみに『おままごと』は私への陰口の代表例だ。魔法で強化されている私の耳は、王宮内のことなら大抵何でも聞こえる。そして、メイド達が私の陰口を叩く時は大体この『おままごと』に関することが多い。
『おままごと』と言われている原因は、聖魔法での天使召喚。外に出たことがないので分からないが、これは私だけが使える魔法だと思っている。少なくとも王宮内の図書館のどの文献を漁っても、このような魔法は見受けられなかった。自分で色々試している内に分かったことが1つ、召喚した天使が私以外の目に触れられることは絶対に無い。だからさっきも存在が無かったかのように消えたのである。
召喚してもメイドが来たら霧のように消える。そして、どの文献にも載ってない。だからどんなに説明しても理解せず、ただの妄想として対処されている。そんな訳で私がメイド達につけられたあだ名は『狂姫』。私の方も説明するのが面倒くさくなって、おままごとしているふりをするようになった。
「……謁見するのめんどくさいなぁ。」
今から謁見する国王つまり一応私のお父様になる訳なんだけど、ここ8年ぐらいはまともに会話すらしていない。廊下ですれ違うけど目すら合わせず、最初からいないものとして扱っているようだった。別にお父様に限った話でもなくて、お母様、上にいる2人の兄と1人の姉、下にいる1人の弟にも無視されている。
じゃあ何故今日は会うのか。それは私が学校に入るから。今までは王宮内の家庭教師が私に勉強を教えてくれたけど、聖女として本格的に学ばなければならない歳になったのでより多くのことが学べる王都にある学校に行く。その報告という名目で今日は会う。
「誰とも会いませんように。」
心の中で祈りながら、部屋を後にした。