6 音速、高速、バナナボート
「よいしょっと……おいで〜キアラちゃん」
「うん〜! ほいっ!」
北の街へ向かうため、白虎に送ってもらう事になって白虎の背中へと乗るリヴィア達。先頭からレッド、交渉人、ヴァル、ニコレット、リヴィア、キアラの順で乗り込む。
「凄いね、とってもふかふかしてるわ」
「こりャいい乗り心地だなァ」
「精霊に乗るなんて……考えたこともなかったわ」
「わーい、白虎ちゃん! よろしくねぇ!」
「私ダケ……会話出来ないなんて……グスン」
約一名悲しい顔マークを出しているが、それぞれ驚きと感動でハイテンションな一行。全員が乗り込んだ事で、白虎がガルルッと咆哮をあげで進み出す。
「わ、わわ! さすが風の精霊ねっ! 凄い速いよっ!」
「ひゅああああ! あははははっ!」
リヴィアとキアラが最後尾でキャアキャア騒ぐ。次第に白虎の身体の周りを風が包みだし、フワッと浮力を全身に感じるリヴィア達。
「そ、空を……!」
「ひゃぅぅうう! イケイケ〜!」
「ははっ、こりャすげェなァ」
「す、凄い……」
空を駆け始める白虎にリヴィア達はさらに興奮する。空なんて飛んだことないのだから、当たり前だがその感動は物凄い。広大な草原を白虎はスイスイと空へと上がっていく。
大地が遠くなるにつれて、周りの景色の雄大さに一行は息を呑む。遠くに森が見え、西には大きな山や、その手前を山脈が南北へと連なっている。東にはさらに続く草原が広がる。太陽の光がキラキラと世界を照らしている。
リヴィア達の瞳はキラキラと輝くようにその景色を見つめる。この世界が美しいと改めて感じる。その感動は口にするのは難しい。代わりに身体が自然と震える程、凄過ぎると訴えている。
白虎は南北を貫く山脈を横に、北へと駆けて行く。その先には大きな森が広がっていたので、空を飛べる今なら一気に越えられるだろう。そんな事を思っているとレッドが声を掛けてくる。
「掴まれ。振り落とされるぞ」
「え? 今なんて……ーーーーーーぶぁぁあ」
リヴィアは感動に浸っていたので、一瞬何を言ったのか聞きそびれたが、その油断が命取りとなる。白虎が高速で駆け抜けることで……。
「ひぁばぁばばぁぁ……」
その速さは一気に音速へと到達する。全員が必死な思いでしがみつく。リヴィアは既に体勢が後ろに上半身を持っていかれて、限界まで伸びた腕が吊りそうなほどピンとしている。キアラが後ろから「ふぎぎぎぎ……」と必死に踏ん張ってリヴィアの身体を支える。
リヴィアの顔は端整で整った顔の持ち主であるが、風圧によって唇は閉じることが出来ず、瞼も既にべろべろに風に煽られている。目の乾燥を潤そうと涙が流れるが、そうはさせまいと風によって後方彼方へと吹き飛ばされる。
空中音速バナナボートと化した白虎は、そのままの速度で駆け抜けるのであった。その後に残されるのは奇声をあげるリヴィアの叫び声だけであった。
後に、この森には女性の怨念が奇声となって空を駆け回るという、謎の逸話が残る事になるが、それはまた別の話であった。
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ここは北に位置する街、名をノイズァといい、起伏の大きな土地に街が並んでいるような場所であった。水源となる川が山から流れており、のどかなで落ち着いた雰囲気である。この街は亜人国家の領土にあり、住んでいるのはもちろん亜人達であった。
平地は広大な田園が広がり、上に行けば行くほど大きな建物が連なる豊かな街で、まるで街が山のようにも見える。
のどかと言っても、街の中心は賑わっており、農作物の多く取れるこの地域は、多くの商人達がやって来て食材を買っていくのであった。自給自足出来るこの街は他の街からすれば、食料を取り揃えるのに必要不可欠な場所であったため、商人自らが買い取りにやってくるのであった。
そんな街の中を一人の少女が駆けて行く。ハァハァと息を乱し、つまづきそうになりながらも必死に走っている。やがて裏路地へと逃げ込むように少女は進む。そのボロボロのフード付きのローブを着た少女は裏路地を少し進んだ建物の影で、手をついて息を整えている。
「ハァハァ……、こ、ここまで来れば……」
とても小柄な少女は、まだ幼さの残る可愛らしい声であった。何から逃げているのか、少女は周囲を警戒しつつ、おさまらない心臓の音を静めるように深呼吸を繰り返す。
「母さん……」
そう呟き、少女はフードから覗く小さな唇を噛み締める。すると少女が来た方向から、男性達の声が聞こえてきて、足音が近付いて来るのを察知した少女は、再び駆けて行く。裏路地の陽の光が届かない闇の中へと少女は消えていく。
そして、少女が先程までいた場所に複数の亜人達が現れる。
「チッ……どこへ行きやがった」
「こっちに入っていたはずだ! 探せ!」
「「おうっ! 」」
そしてその中のリーダー格でありそうな風貌の亜人が告げる。
「いいか、必ず見つけ出して俺の所に連れてこい。でなければてめぇら……分かってるだろうな……」
「「「へ、へい!」」」
「で、ですがザイン様、あの小娘に一体何の価値があるんですかぃ?」
「いいから黙って探せっ!」
「ひ、ひぃ!」
ギロっと手下達らしき亜人を睨みつけるザインと呼ばれたリーダー格。怯えたように亜人達は返事して、十字路を二人の人組で三方向に急いで探そうと駆けて行く。
一人残ったリーダー格の亜人のザインは、それを見送ると舌打ちをして表通りの方へと戻っていく。
「待っていろよ。必ず見つけ出して殺してやるからなっ。小娘……」
そう言ってザインは人混みの中へと進んでいくと、ザインに気が付いた周りの亜人達が声を掛けてくる。
「おや! ザインさんじゃないですか! どうしたんですかこんな所へ」
「いやぁ、私用でしてね。こうして一人ふらっとやってきただけですよ」
先程までの鋭い目付きが、まるで嘘のような表情で声を掛けてきた亜人男性に答える。すると他からも。
「やだねぇ、領主様自らこんな場所に来るなんて。危ないから誰か付き添いでも付けたらいいのに」
「アハハ。そんな事ありませんよ。この街は安全ですから、マダムも心配いりませんよ」
そう言って気の良さそうな亜人女性に紳士らしく答える。この街の領主であるザイン・ナ・バルディアのもう一つの顔であった。
(チッ……めんどくせぇ奴らだ)
心の中で毒づくザインは笑顔をそのままに、周りの声を掛けてくる亜人達に挨拶をしながらその場を去っていくのであった。ザインがいなくなった後も、周囲の亜人達はザインの人望の厚さと、紳士的な態度に「いい領主様でよかった!」「ありゃあ出来た男だよ、全く」と褒め称えるのであった。
ザインの裏の顔を見たら卒倒する事間違いないのだが、そんな事は誰も知らないのであった。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
表と裏の顔って誰にでもあるよね? よね?
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