4 白い魔獣
「えっと……つまり……」
「ジハードちゃんっ!」
そう言ってキアラはとても笑顔で草原を走り回る。その姿を呆れたように目で追いかけるリヴィア達。ハハハ……っと乾いた笑いまで聞こえる。
キアラの話によってジハードちゃんはキアラの中に生きているということが判明。さらにはダラックはもう悪い事はしないと宣言していた。そして、今装着しているドラゴンクローはジハードちゃんが顕現している姿であり、共に戦ってくれる……との事だった。
「もぅ……なんでもありね……」
リヴィアは半目になってそう告げた。しかし、ニコレットは重い表情で「ナーゴの力にそんなものが……」と呟いていた。
「つまり、アレかァ? 獣耳っ娘がダラックをぶっ飛ばしたおかげで魔王化を防いだって事かァ?」
「ドウヤラそのようデスね。信じられませんが……」
「で、でも良かったじゃない! 心を入れ替えたって事は、そうやって魔王になろうとしていた人を改心させることが出来れば、未来は救えるって事よね?」
「あァ、だがダールのようなのは無理って事だろォ?」
「恐ラク、乗っ取られた時点で手遅れ……という事でしょうネ」
「んん……ニコレットはどう思う? …………? ニコレット?」
「えっ? ああ、うん、ごめんなさい。ボーッとしてて聞いてなかったわ」
ニコレットは相変わらず重い表情のまま考え事をしていたが、リヴィアが話を振った事で、その考え事を頭の隅へと追いやる。
「大丈夫? 何か悩み事?」
「い、いいのよ? 大したことじゃないから」
「そお? 何かあったら言ってね! 力になれるかもしれないからっ!」
そう言ってリヴィアはニコレットの手を握る。ニコレットはグイグイ来るリヴィアに圧倒されるが、「……大丈夫よ」と言って誤魔化すのであった。
すると緑の生体兵器がニコレットとリヴィアに近付いて来た。
「ニコレット殿。ここは恐らく魔力が満ちている時代のようデス。なので魔法なんかも使えるのではないデスか?」
「へ? あ、ああ、うん。試してみる」
変な声をあげるニコレット。リヴィアはそんな動揺を見せるニコレットに違和感を覚えつつも、魔法を唱えるニコレットを見つめていた。
「清風領」
すると杖から風が巻き起こりリヴィア達を優しく包んでいく。
「わぁ! 魔法が使えた! やったねニコレット!」
リヴィアは魔法が使えた事で喜び、ニコレットに声をかけるが、ニコレットの様子が違う事に気が付く。額には汗が流れてものすごく集中しているようだった。
「? ニコレット?」
「……だ、ダメ! 抑えきれないっ!」
そう言ってニコレットの杖から莫大な量の風が吹き荒れる。暴走する魔力が荒れ狂い、一瞬にして辺りを嵐のような風が舞い踊る。急ぎ、魔法を中断するニコレット。すると嵐は破裂するように霧散していくのだった。
突然の魔法の暴走にリヴィア達は驚き、その場から動けずにいた。ニコレットはハァハァと息を乱して膝に手をついている。リヴィアがハッとしてニコレットへと駆け寄る。
「ニコレット! 大丈夫!? ニコレットっ!」
「ハァハァ……だ、大丈夫よ……でも、この魔力は一体……」
ニコレット自身も何が起きたのか分からず困惑している。リヴィアは緑の生体兵器に向かって叫ぶ。
「ちょっと! どういう事なのっ!」
「ェ、エット……分かりません。魔力測定値も安定していて何が何やら……」
汗マークをバイザーに表示させて焦っている緑の生体兵器。
「魔力の……質が違う……」
「え?」
ニコレットの言葉にリヴィアが反応する。
「魔法というのは結局人間達が扱えるように工夫されて作られたものなの。だから、魔力の質が違うだけで全く別物の魔法になってしまうんだわ」
「ど、どういう事? 魔力の質?」
ニコレットが原因を何となく突き止めるが、リヴィアには理解出来ていないようだった。そこへヴァルが説明を付け足す。
「つまりだ、嬢ちゃん。料理するのに材料が違えば全くちげェ料理になっちまうってこったよォ」
「な、なるほど」
リヴィアにも分かりやすく説明したヴァルに、感心するリヴィアだった。
「時代のせいかしらね、まるで違う色の魔力を練り合わせるような感覚だったわ……」
「そ、そぉ……魔法って難しいのね……」
せっかく魔法が使えるようになったのにと、しょげるリヴィアであったが、ニコレットが一つ試したいことがあると言って、続けて魔法を詠唱する。
「だ、大丈夫なの?」
「なるほどな、まァ見てなって」
心配するリヴィアだったが、ヴァルが何を試すか予想が付き、どうなるかを大人しく見届けることにする。
「精霊召喚 風魔霊獣」
ニコレットがそう叫ぶと、ニコレットの目の前に小さな風が集まり始め、みるみる大きな風の球体を作り上げる。しかし、予想よりも大きかったようで、ヴァルやニコレットの表情が段々と険しくなっていく。
「これが……精霊……」
リヴィアはその球体を見つめ、どんな精霊が出てくるのかワクワクしていた。駆け回っていたキアラも先程の魔法の暴走でこっちに戻って来ており、リヴィアの横へとやって来る。
「ニコ姉の……お友達?」
「そ、そうみたいね。それにしても……」
未だに膨らみ続ける風の球体は直径が三メートル程に広がっていた。少し怖いとさえ思えるその光景にリヴィアは生唾を呑み込む。
そしてようやく、風が安定して綺麗な球体が霧散して中から一体の精霊が現れる。
「こ、これは……」
「チッ……こりゃあ不味いかもなァ……」
ニコレットとヴァルの言葉と表情に、リヴィアがえ? え? っとなっていた。
その風の球体から現れたのは大きな四足歩行の魔獣であった。真っ白な毛並みに黒い模様、緑色の風を身に纏い、丸い耳。しかし、そのしなやかな身体からは筋肉ががっちりと付いているのが分かる。さらに鋭く長い牙が上の顎から突き出ており、猫のように鋭い目でコチラを睨んでいた。
「白虎……まさか……」
ニコレットがそう呟くと白虎と呼ばれた魔獣は唸り声をあげてコチラを威嚇してくる。
「ちょ、ちょっと待って! なんか怒ってない? ね、ね、キアラちゃん?」
「わぁーとってもキレイな虎さん! でも、なんて言ってるか分からない」
「えっ!」
キアラでも通訳が出来ない魔獣にリヴィアは焦る。そもそも、精霊とは姿形は見たことあるものだとしても、その言葉は精霊語なので、動物とはまた違った言語である事をリヴィアは知らない。
「ぺいやばいるな、ぱるなまかるのあ?」
「????」
ニコレットが妙な事を言い始めたので、戸惑うリヴィア。しかし、緑の生体兵器が「あれは精霊語デスよ」と説明してくれる。
グルルルルルル、ガオオッ!
「! ダメね。言葉が通じないわ……」
「えええっ!?」
ニコレットが横に首を振る。リヴィアは「え? やばくない? あれ、絶対に怒ってるよね?」とキアラの肩を揺する。キアラはガックンガックンされながら「あうあうあう〜」となっていた。
ヴヴヴ……ガルルッ!
白虎は狙いを定めるようなゆっくりと進み始める。ニコレットもヴァルも咄嗟に戦闘態勢をとる。リヴィアは「ヒィイイイ」と声を上げ、緑の生体兵器に「アンタ何とかしなさいよっ!」と声を荒らげるが、「ソンナァ……精霊相手に物理攻撃は効きませんヨォ」と泣きそうな電子音で抗議する。
そうこうしている内に、白虎は円を描くように高速で空中を駆け回る。
「不味いわっ! 避けてっ!」
「避けるって……! きゃあああっ!」
ニコレットが叫び、リヴィアが悲鳴をあげる。キアラがリヴィアを強引に引っ張ったからだ。勢いで地面に手をつくリヴィアだが、倒れる寸前に耳元を風切り音が通り過ぎていくのを聞いていた。
直ぐに顔を見上げると、風切り音の去っていった方向にあの白虎がいた。その身体には緑色の刃が肩や背中、足の甲などから生えていた。その刃は風を凝縮して出来た刃であり、触れたものをスパスパと切り刻む威力があった。
「お姉ちゃん大丈夫っ!?」
「あ、ありがとうキアラ! 切り裂かれる所だったわ!」
「おい、ネェちゃん! あんなのどうしろってんだァ!」
「くっ……」
ヴァルがニコレットに問いかけるが、ニコレット自身もこんな事になるとは思っても見なかった。再び高速で駆け回る白虎。次第に目で終える速度では無くなり、風が吹き抜ける音しか聞こえなくなる。
「ど、何処!」
「周りを高速で走っているだけよ!」
「あの野郎ォ、走りながら近付いて来てやがるぞっ!」
「中央ニ固マルのてデス」
段々と円を狭めていく白虎。リヴィア達は中央に固まる事で、なんとかこの状況を打破する手がないかと考える。しかし、刻一刻と白虎は近付いて来ている。
(も、もうダメっ!)
そんな絶対絶命のピンチのリヴィア達に、呆れたようにやって来る人物がいた。
「お前達……何を遊んでいる」
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
魔力の暴走やべぇっす!たぶん!
良かったら↓評価☆やイイネ↓ポチってね!
✧‧˚\\\\٩(*´▽`*)۶////✧‧˚




