5 準備が肝心
朝から城内ではリヴィア姫の誕生日会に向けて大忙しであった。
会場の仕込みはほぼほぼ終わっていたものの、何か問題があるといけないので入念にチェックをしていく。
広い会場には一番奥に舞台が設営されており、料理を並べられるように長方形の長めのテーブルが並べられ、その上に敷かれた真っ白なテーブルクロスが、地面につくギリギリまで垂れている。直前まで料理が運ばれてくることはないが、シワの確認など細部まで侍女達がチェックを行っていた。
会場の中央には、入り口から舞台へとレッドカーペットが敷かれており、カーペットの両脇のスペースには来賓用にいくつもの円形の大きなテーブルが規則的に並べられている。しかし舞台の手前は少し広めのスペースが用意されていて、大勢の人が舞台前に集まれるようにと配慮がされていた。
各テーブルの中央には大きめの花瓶に色とりどりの花が活けられており、視覚的にも来賓の方々を楽しませるという工夫が施されていた。
会場の外では王国騎士団が勢揃いしていた。
城の真ん中には中庭のような広場があるのだが、普段はここで騎士達が鍛錬を積んでいたり、ちょっとした行事にも利用されるほどの広さがあった。
左の部隊から
ジオラル・メイス副団長率いる第一騎士団(主に城壁付近に駐屯)
ハイド・ブラン副団長率いる第二騎士団(主に城内の警護担当)
ラリィ・トゥテラ副団長率いる第三騎士団(憲兵としての役割を担う)
そして三部隊の前で壇上に鎮座するのは騎士団団長ロス・ウォーガンであったのだが。その姿見て各部隊内でヒソヒソと声が聞こえてくる。
「あの兜取れないらしいぜ」
「知ってる、姫様がまたやらかしたってな」
「それだけじゃないぜ? 眉毛ないんだってよ?」
「……え!? じゃあ、あのキリッとしているように見える眉毛は……」
「自分で書いたに決まってるだろう?」
城内の情報網はある程度確立していたらしく、噂が広まるのはとても速い。王の間で起こった出来事でさえも末端の兵の耳へと届くのだ。
ロスは「な、なぜ……クッ、ここまでか」と、すでに広がってしまっている事実に目を背けられず、自害を考え始めたその時。
「カッカッカ……昨日は儲けさせてもらったのぉ」
ほっこり顔のフェイ神官が、会場の方からこちらに向かって歩いてきたのだった。
その言葉と表情を見て全てを察したのか、騎士団長の怒気が吹き荒れる。
羞恥心に耐え切れず、誰もいない土地を探し、余生を静かに暮らそうと夢想してロスであったが、マッハで殺意メーターの針を振り切る。背中に背負った大剣を強く握り、ロスは間合いに入った瞬間に叩き切ってやる! という強い意志で、体勢を整える。
その姿を見ていた三人の副団長が「わー、わー!」と慌てて止めに入る。
「うむうむ、今日は大事な日じゃて、心して各々の責務を全うするのじゃぞ。」
「「「ハハーー!」」」(大勢の騎士達)
人型のミノタウロスを相手に、三人の勇敢な副団長達が奮闘しているのを横目に、フェア神官が部隊の士気を高めるというなんとも言えない状況がそこにはあった。
「うぉおおおおお! フェア・ノラードォォォオォオ!」
「だ、旦那、落ち着いてくれぇえ!」
「総長! お気を確かに!」
「うわぁぁ、もうお止めくださいロス団長ぉぉぉう!」
後ろからハイドが抱え込み、ジオラルが大剣を抜けないように右手を抑え込む。正面からは下半身をラリィが必死に抑え込んでいる。
しかし、まるで聞こえていないかのようにフェア神官は、片手を上げ、手のひらをヒラヒラしながら再度会場へと向かっていくのであった。
中庭が盛り上がっていたその頃、会場内ではある人物がコソコソと準備を進めていた。
壁際の人目に付きづらい場所で作業していたのはリヴィア姫その人で、実は侍女達は場内に入ってきた瞬間に気付いていたのだが、触らぬ神に祟りなしといった面持ちで自身の作業へと戻っていた。
時折聞こえる「うーん」「あれ?」「よし!」という声に聴き耳を立てる侍女達であったが、巻き込まれたくないという一心で手を動かし誤魔化すことにした。
「よーし完っ璧ね! しからば退散、退散っと!」
会場の壁際をぐるっと一周するように仕込みを終えたリヴィア姫は、鼻歌を歌いながらご機嫌といった様子で会場を出ていく。場内には安堵の声が漏れたのだったが、続いて広場に獰猛なケンタウロスを疑似的に召喚したフェア神官が入ってくる。
「どうですかな? 準備の方は滞りなく進んでおりますか?」
会場の指揮を任されているフェア神官は、侍女達にその進捗を確認して回る。
リヴィア姫の行いを伝えるべきか悩む侍女達だったが、予想はしていたとでもいうように神官が告げる。
「リヴィア姫の事でしたら問題ありませんぞ。ささっ、準備の続きを進めてくのですよ」
ホッとしたように侍女達は明るい表情で残りの会場の準備を仕上げていく。
日が落ち始める頃に誕生日会が行われるので、多少余裕がある。フェア神官はこれなら問題ないと思ったようで「後は頼みましたよ」と言ってまた会場から出て行くのであった。
会場の外からはケルベロスの遠吠えが響いてくるが……気のせいだろう。
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