4 動き出したカウントダウン
日が暮れ、城内の光球も光力を落としつつ自然な明かりを保つ。
夜になればこの光球も魔力を充電するために、月明かり程度の光量で辺りを照らし出す。
この光球は周りに漂う魔力を吸収することで光を放ち、呪文を唱えることで完全に暗くなるので、眠りを妨げることもない。
魔石は便利な道具としてこの国を支えている。
予め魔力を注ぎ込むことで、内封された魔術がいつでも使えるため、熱を発生させたり、水を生み出すなど様々な生活の基盤を支えていた。
光球のように自動で魔力を充電するといったことはないが、それでも便利であることに間違いはない。
もちろん使い方次第で戦闘にも応用できるため、王国騎士達の武器や鎧にも使用されている。
そんな日が沈み切って夜も更けてきた頃、城内の明かりが一つ、また一つと暗くなり、住民達は寝静まって騎士達が交代で城内を見回っている中、一室だけ煌々と光を漏らしている場所があった。
その場所はもちろんリヴィア姫の寝室であった。
「さてさて、明日はどうやって皆を驚かせようかしら? 楽しみすぎて眠れないわね」
女性の、それもお姫様の寝室といえばゴージャスで可愛らしいものであると誰かが言った。
しかし現実は違っていた。
たしかに部屋自体は広く、一人で寝るには大き過ぎるベットがあり、ドレッサーやドレスを収納する棚がある所までは合っている。
何がおかしいのか、それは部屋の半分を占めるほどに大きな工房があったことだ。
壁には丁寧に並べかけられた道具が鎮座しており、ワークベンチの上にはプロご用達のハンドツールが広がっている。
「よーし、もうすぐ完成ね。これで明日は素敵な誕生日になること間違いなしね!」
いい仕事した! といった表情で使い古された手袋を外し、手の甲で額の汗を拭う。
何を隠そうリヴィア姫は悪戯をすることに余念がない。
ないなら作ればいいのよ! ということで数々の作品が生み出されてきた。
フェア神官の使用していた記録媒体型の魔石も姫様の力作であり、通常一つの魔石に一つの魔術という常識をあっさりとぶち壊し、その情熱によりいくつもの魔石を融合させる複合魔石を開発したのだった。
術者の視覚を読み取り、記録、記録した映像を転写するなどいくつもの技術がふんだんに使われていた。
無駄に洗礼された技術は飛躍的に国を豊かにしていったが、全ては姫様の悪戯という多大な犠牲の上に成り立っていたのであった。
「後は魔力をここに注いでっと。……よーし出来たっ! ふふん、明日が楽しみね! 絶対に盛大に誕生日を迎えてやるんだからっ!」
作品の出来に満足したリヴィア姫は頭につけていた遮光ゴーグルを外し、無造作にベットへとダイブする。
女の子らしい華奢な身体でベットが子気味良く音をたてながら、リヴィア姫の身体を包み数度バウンドさせる。
腰まで伸びていた髪はリヴィア姫を中心に扇形に広がり、大きいと感じていたベットを埋める。
しばらくベットの心地よい感触を身体全体で感じた後、リヴィア姫は呟く。
「……明日はどんなことがあるかなぁ」
額に手の甲を当てて思案する。
「まずは美味しいもの食べて~、……って太っちゃうかなぁ? でも剣術も毎日嗜んでいるし、父上のようにはならないよね! それに女の子には別腹っていう強い味方がいるんだし、平気平気!」
遠くの部屋で誰かがクシャミをした気がしたが、やはり気のせいだろう。
すでに頭の中が食べ物でいっぱいなリヴィア姫は食べる物をリストアップしていた。
頭で描いたリストアップは明日には確実に忘れられられているだろうが、きっと夢の中で食べることが出来るだろう。
だが食べる物を想像するのに飽きたのか、突然深く息を吐く。
「……ふぅー、私も明日で20歳かぁ。きっとこれからもずっと楽しい日が続くよね」
感慨深いものがあるのか、珍しく柄にもない事を言っちゃったなっと思いながら、ふかふかで大きめの枕に顔を埋めながら、リヴィア姫は静かに意識を手放す。
この先も続くであろうハチャメチャで、エキサイティングな日々に想いを馳せながら。
ドレッサーの上では明日の誕生日で付けていくために、宝物庫から持ち出したペンダントが置かれていたが、月明かりもない部屋であるにもかかわらず、鈍く光り続けていたのだった。
まだこの時は誰にも想像出来なかったであろう。この先に待ち受けている確実なる終わりに。
……たった一人を除いて。
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リヴィア姫が眠りについていた頃、別の場所ではある人物が明かりもない部屋で何やら作業を行っていた。
闇に紛れるように黒いローブを頭から被り、身体全体を覆っているため男なのか女なのか判断がつかない。
その人物は明日のリヴィア姫を祝う誕生日会場の舞台下に何かを仕掛けており、その只ならぬ雰囲気に真っ当なことが行われているようには到底思えなかった。
しばらくすると見回りの騎士であろう二人が会場に訪れた。黒いローブの人物は鎧の音で気付いたのか、近くの物陰へとすばやく姿を隠し息を潜める。
二人の騎士は会場を少し見回した後、特に問題がみられないと判断したのか、来た道を戻っていく。
騎士達が去ったあと、先ほどの続きをし始めた黒いローブの人物だったが、作業が完了したのか、手を止め立ち上がった。
その後ろ姿は異様な雰囲気を感じさせ、身体全体が震えており、笑いを噛み殺しているのだろうか? 途中から肩を大きく動かしているのがわかる。ひとしきり笑ったであろうその人物は、大きく裂けた口から低く小さな声で言った。
「……遂に始まる。本当の終わりが」
闇に消えていくように黒いローブの人物は去っていった。あとには不気味なまでに静かな会場だけがとり残され、不吉であるといわんばかりに鈍い明かりが小さな天窓から差し込むのだった。
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