9 ケイ氏の本気
美女の眠る部屋から大分進んだ三人。また激しく流れる水路と合流した。その水路に沿って奥へと奥へと水の流れる方へと進んで行く。
三人は途中、休めるようなちょうど良い場所を確保し、一旦休憩する事にした。
「大分進んだけど、一体何処に繋がっているのかしら」
「んー、このー渓谷はー、結構ー大きい。だーから、他のー川にー繋がっていーる、かも?」
リヴィア達は知らなくて当然であるが、ここメイア渓谷は幾つもの支流がある。上空から見ると、まるで雷を絵に書いたような形だ。
本流自体は西防から始まり、ロンダーク王国へと続く渓谷なのだが、途中で枝分かれしている。どれも、本流に比べればかなり小さい規模の川であるが、ケイ氏はその何処かに繋がっていると予想していた。
「であれば、この水路に沿って歩くのが一番ですね。支流に繋がっている可能性が高いですから」
ケイ氏の持ってきていた携帯食糧を口にしながらラリィが答える。
ちなみにこの携帯食糧は、クッキーのように乾燥している甘い食べ物だ。水が欲しい。
「そうね、もう少し休んでから出発しましょう!」
時間的には既に夕方手前と行ったところだ。本来であればとっくに中継基地を越えた頃だったろう。
しばらく休憩し、体力も改めて回復した三人は再び歩き出す。
「あの獣さんがこっちから来たってことは、きっと外に繋がってるよね!」
「だーねー」
しかし、辿り着いたのは大きな縦穴の空間だった。
「そ、そんな……」
あの狼ならば、壁を三角飛びする要領で登って行けたのだろう。しかし何の装備も持たない素人が、建物四階建て相当の壁をよじ登るのはかなり厳しい。それに縦穴は水路とも合流していて、壁には水流が激しく流れ込んでいる。
「登る……しかないですね……」
縦穴のある空間の中央を割るように流れる水路が、登って落ちた際に死が待ち受けてると思わせる。
縦穴を見上げると、外は夕暮れでオレンジから紫へと鮮やかなグラデーションが空を染めていた。
「暗くなると登れなくなるわ、早く登りましょ」
「ここは俺が登って上から引っ張り上げましょう」
早速登り始めるラリィ。少しずつ少しずつ、登っていく。しかし、登って気付くラリィ。
(こ、これはキツ……い)
何故なら縦穴は上に行くほど、すぼまっていくツボ型の穴だったからだ。クライミングの経験のないラリィでは、なかなかレベルの高い壁であった。
下ではラリィが落ちてもいいようにと、ケイ氏とリヴィアが構える。
ラリィが登る、それに合わせてケイ氏もリヴィアも下がる。
ラリィが登る、それに合わせてケイ氏もリヴィアもラリィの下にポジショニングする。
ラリィが登る、ケイ氏とリヴィアもそれに合わせて下がって落ちる。
ラリィが……ん?
「ら、ラリィぃぃい!」
「あーれー」
「アンタら何やってんだーーっ!」
ラリィは目をひん剥いて、叫びながら手を離して水路に飛び込む。
上のラリィを見ていた二人はうっかり、水路近くまで来てしまい、足を滑らして落ちてしまったらしい。
そのまま浮ぶケイ氏に二人は掴まり、最初にここへ訪れた時と同じように激流に呑まれていったのだった。
「がぼぼぼっぼぼ」
「がぼっぼぼっぼ」
「がーーぼーー」
______________________
ドドドド……
「ぷはっ!」
「ぷはぁ!」
「ぷひぃ!」
激しい流れから、身体を放り出される三人。そのまま無重力を感じた後、落下する。
「「ウワァアァアァア」」
「あーーーーれーーーー」
ドッボーン
そこは地下水路から生まれた天然の滝であった。高さはそれ程ある滝ではないので、三人は無事水面に顔を出す。
「「ぷっはぁ」」
「ぷひぃ」
「た、助かったぁ」
「はぁ、はぁ、外に出れた……」
予定とは違うが、何とか外に出る事に成功した三人は岸に上がって、ずぶ濡れの服を絞ったり、現在地の把握に努めた。そしてケイ氏が何とか現在地の把握に成功する。
「わかーっただー、ここはロンダーク王国のー北西ー部に位ー置する、場所だーよ!」
「ふんふん、それで? ここからロンダーク王国までは遠いの?」
「んあー、結構近いかーら、すぐにー見えてくるだーよ」
三人は何だかんだで近道出来ていたようで、ロンダーク王国の北西部に位置するオアシスへと流れ着いたのだった。
「んーっ、これはーちょうどー、いーい!」
「「?」」
ケイ氏曰く、そもそも西防から人が訪れる事は滅多になく、王国側はいい顔をしない。そのため、ギャバンの側近であるケイ氏が同行する事で、この衝突を和らげる作戦だったのだという。
「ギャバンさん……そんな事まで……」
改めてギャバンの懐の深さに感謝する二人。そして、少し遠回りになるが、この近くにはシルトという小さな街があり、そこには行商人や旅人が訪れることが多く、宿屋には困らないらしい。更に運が良ければ王国まで馬車に乗せてくれるとの事。そうすればすんなりと王国に入国出来るため、このまま進むよりもいいとの事だった。
「分かったわ! それじゃあ、まずはそのシルトって街まで向かいましょ!」
「よーし、きたーっ」
「「?」」
……なぜか今日イチにケイ氏のテンションが高い。二人は驚きつつもズンズンと進んで行くケイ氏を追いかけるのだった。
完全に夜になった頃、リヴィア達はシルトの街に到着する。街自体は遠くから見ても、夜なのに明るいなぁと思うくらいに明るい。外側をグルッと壁で覆われているが、あまり頑丈そうには見えない。
「ねぇ、こんな無防備な壁で街は平気なの?」
「へーき、へーき、それよーりも、宿屋ーだーよ」
外敵に対してノーガードでいいのか心配なリヴィアとラリィ。ご機嫌なケイ氏は宿屋探しに夢中だった。そして、この街では一番安い宿屋で部屋を取る。しかし、考えてみたらリヴィアもラリィもお金が無い。 しかし、ケイ氏は太っ腹に横っ腹で全額出す。
そしてニコニコしてケイ氏は二人を宿屋に残し、夜の街へと消えていくのだった。
「な、何だかケイ氏、超元気なんだけど……」
「で、ですね。まぁ今日は色々ありましたし、ゆっくり休みましょう」
「それもそうね、じゃあまた明日」
「はい! お休みなさい」
そんな二人は部屋の中を照らす電球に興味津々でスイッチを付けたり消したりと騒いでいた。
そうして、夜も賑やかな街での一日は終わったのだった。
朝になり宿屋での朝食に感動する二人と、何故か肌にハリのあるケイ氏がいる。
今日は王国行きの馬車がないか、探してなければそのまま徒歩で向かう計画を三人でしていた。
「そう言えば、馬車ってどういう物なの?」
「んー、馬車はー、動物にー引っ張ってーもらうー乗り物だーよ?」
「動物に……ですか? それはまた怖そうな乗り物なんですかね?」
「大丈ー夫、たーだ、お尻、いたーいかも?」
お尻? という何だかよく分からないながらも、馬車にワクワクする二人。早速朝食が済んだ後に探しに出掛ける。
街の出入口付近に、少し広い場所があり、そこに馬車は集まっていた。初めて見る乗り物に興奮する二人。馬にもかなり興味津々だ。森で見た動物に比べ、首が長いなぁなど二人がはしゃいでいると突然声を掛けられる。
「よう、田舎から来たのかぁ? 嬢ちゃんたち」
「「?」」
馬に跨るカウボーイのような出で立ちの男がリヴィア達に声を掛けたのだった。どことなくやる気のなさそうな目をした男で、無精髭やダークブルーの短髪にそれなりのガタイである事が肩幅や胸の厚さ、腕の太さから分かる。
二人は一目であっ! ジオラルっぽいわーと思った。何となく親近感の湧く男に、二人は近付いて話を聞く。
「実はここには昨日来たばかりの田舎者なんです」
「ほぉ? そんなに馬車が珍しいなんて、どっから来たんだぁ?」
「クラーゲン王国です」
「んー? 聞いた事ないが……まぁ馬車もない場所って事だな」
馬からその男は降りて二人に握手を求める。
「俺ァ、ヴァルってもんだ。この後、ロンダーク王国に用事があるんだが乗ってくか?」
「! 私達もロンダーク王国に用事があるんです! ぜひ、ご一緒させて下さい」
「そいつァ、好都合だな! んじゃ契約成立だナ」
「はい! 私はリヴィア! こっちがラリィよ!」
「よろしくお願いします!」
「あぁ! よろしくナ! 嬢ちゃんにボウズ!」
こうして二人は無事にロンダーク王国への足を手に入れたのだった。しかし、二人は気付いていなかった。ヴァルと名乗った男がハットの下で不敵な笑みをしていた事に。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
本気と書いてマジと読むんですっ!
良かったら↓評価☆やイイネ↓ポチってね!
✧‧˚\\\\٩(*´▽`*)۶////✧‧˚




