2 私はリヴィア姫
ヒロインの登場となります。
長い廊下は大人が数人横に並んでも平気なほど広く、丈夫な石造りの壁は外敵からの多少の攻撃など問題ないといった安心感がある。
壁や床などには特に装飾の類は見られないが、逆にその質素な雰囲気が一番合っているとさえ感じさせる。
天井付近に浮かぶ光球は広い廊下を隅々まで照らし、闇を寄せ付けない。
氷で作られた窓の外 (厳密にはバリアの外)では相変わらず勢い良く吹雪いており、外界との拒絶を感じさせる。
そんな廊下を奥から数人の大人が小走りぎみに向かってくるのが見える。
先頭にクラーゲン王国国王バルド王、やや後ろ両脇に臣下のフェア神官と国王騎士団団長のロスが追随する。
「一体あやつは何を考えておるのじゃ!!」
歩を進めながら考えていたが結局わからず、つい声に出てしまう。
「申し訳ございません。王族のみ入室出来る場所であったことと、姫様が他言無用であると側近にきつく言い聞かせていたらしく、把握するのに時間が掛かってしまい……」
「騎士団長殿、そう自分を責めるものではありませんぞ。予想のはるか上を行くのが得意な人物もおりましゅうて」
視線を下に落とし、不甲斐ないと歯を強く噛む団長に神官が「無理無理」といったジェスチャーを送る。
「ぬぐぅ……まさか宝物庫でまた悪戯でも画策してるのではないだろうな!?」
乗せている控えめながらも立派な王冠を素手で曲げてしまうのではないかという勢いで頭を抱える。
その思考には過去の苦い思い出が走馬灯のように駆け巡り、「宝具、いや禁呪書か!?」とぶつぶつ念仏のように口から漏れ出す始末であった。
責任感の塊である騎士団長のロスは王の姿を見て「かくなる上はこの命で……」と物騒なことまで言い始め、その横では神官が「カッカッカッカ……」と呑気に笑っていた。心の中ではワシ関係ないもーんといった面持ちであったのだろう。
宝物庫とはクラーゲン国設立以来多くの秘宝や書物が数多く保管されている。その中には聖なる力を宿したものや邪悪なものまで封印されているため、王族のみしか入ることの許されない最重要保管庫であった。
そのためこのラズィーゲル城は宝物庫を守るために建てられたと言っても過言ではなく、そんな重要な場所に出入り出来るのは現国王であるバルド王とその娘である姫様のたった二人のみであった。
また宝物庫に行くためにはその重要度から普通の者には辿り着けることはなく、王族とごく一部の関係者にしか行き方がわからないようになっていた。
王の足取りは徐々に加速していき、付けているマントが置いて行かれないように必死にしがみ付いているようにさえ見える。
長い廊下の途中にある扉の手前まで来ると騎士団長が扉を開けるために前に出る。扉の先は一見空き部屋のように家具はほとんど置かれおらず、壁に本棚と真ん中に読書用に机と椅子があるのみであった。
王は迷わず本棚の前に進み、おもむろに本を並べ替えていく。並べ終わったと同時に部屋の中央に魔法陣が浮かび上がる。
すでに騎士団長により机と椅子は部屋の隅に運ばれていたので、魔法陣の中央へと三人が乗る。すると魔法陣が光を放ち辺りの風景が一瞬にして移り変わる。
「いやはや移動魔法陣は便利ですなぁ」
と神官が呟く。
この移動魔法陣とは決められた魔法陣同士がセットとなっており、魔法陣間の移動が可能である優れものである。
魔法陣の先は先ほどの廊下とは違い、明かりは最低限で足元がやや暗く、幅も大人が二人通れるくらいの広さであり、何よりも壁が蒼岩石という特殊な石で造られており、魔法阻害の効果がある。
すでに描かれている移動魔法陣はともかく、ここで魔法を発動させようと詠唱しても不発に終わったり、あらかじめ魔力を閉じ込めている魔石を使おうとしてもその効果は激減するという優れものであった。
王は無言で奥へと進み、二人も追随して行った。
騎士団長の鎧の擦れる音が響き普段よりも音が大きいと感じさせる。
少し進むと広い場所へと出た。
そこにはある青年が頭を抱えた状態で壁際に座り込んでいた。
そのまま三人が彼に近づいていくが青年は全く気付いていない。気付かないほど悩んでいたのだろう。
呆れたように騎士団長が声を掛ける。
「ラリィ! ラリィ・トゥテラ副長!」
「は、はいぃいい!」
急に名前を呼ばれてびっくりしたのか、勢いよく立ち上がって気を付けの姿勢でビシっと固まる。
ラリィと呼ばれた青年は黄色短髪に薄い青の瞳とまだ幼さの残るような顔つきをしており、見た目は好青年と言った言葉が良く似合う。
しかしその実力は騎士団の中でもトップクラスであり、3人いる副団長の内の一人であった。その類稀なる実力と若さから姫様の側近として抜擢されていた。
「姫は! 今姫様はどこにいらっしゃるのだ!」
掴みかからんとする勢いで団長がラリィに尋ねる。その剣幕に圧倒されラリィは仰け反りながらもしぶしぶといった様子で目線を広間の奥にある両開きの大きな扉へと向ける。
その扉の奥こそ宝物庫であり王族のみしか入れないとされている禁忌の扉であった。
「中にいるのだな……」
急に低い声となって団長が扉を睨みつける。その睨みつけただけでも人を殺せるのでは? と錯覚させるような団長の様子に息が詰まりそうになりながら辛うじてラリィは声を発する。
「さ、先ほど一度出てこられたのですが……」
「ふむ、どのような様子でしたかな?」
少しでも情報があればと思いすかさず神官が尋ねる。しかし次の言葉に全員が固まる。
「意気揚々と魔剣グラムを持ってきて嬉しそうに自慢をしておりました」
「ま、まま、魔剣グ、、、グラムじゃとっ!?」
一瞬にして王の意識が飛翔し、今なら天をも突き抜けるぜ! といった勢いで飛びかける。
即座に神官のエルボーが王の右わき腹を貫き、一瞬で意識を地に叩きつけ呼び戻す。
その早業は副団長であるラリィであっても見逃しかねない巧みな技だった。
「ふむ、してその後はどうなったのじゃ?」
「は、はい。一通り眺めたり振り回した後、気に入らなかったらしく再度宝物庫の中へ行かれました」
「あんのじゃじゃ馬娘がぁあっぁぁぁぁ!!」
王が吠えた。
その魂の叫びはいかに強度に自信があると言わしめるバリアをも揺るがし、そのまま吹雪を吹き飛ばすのではないかという勢いに、身の危険を感じたラリィは「ヒィイィ!」と情けない声を出しながら頭を抱え、ロスは帯剣していた剣に手を添えながら「やはりここは我が命を持って……」と呟きながら目を閉じていた。
神官だけは我関せずといった様子で両耳に指を突っ込んでいた。
王の咆哮は止まらず、このままでは黄色いオーラが溢れ出始め、眉毛がなくなるといったその矢先。
ゴゴゴ…………
広間の奥にある両開きの扉が重い音を立てながら開き始めた。
その扉が二人分通れるぐらいに開いたところでひょっこりと女の子が顔を出した。
髪が白く薄くピンク色に輝き、小さく結んだツインテールが可愛らしい。小顔で端整麗しい女の子は顔だけ出した状態で広間を見渡していた。
広間に居た四人と女の子の視線が交わる。そして……。
「うるっっさいのよぉぉぉおおおおおお!!」
姫が吠えた。
その高周波は内臓を破裂させんとばかりに響き、鼓膜ワンパン三半規管ヨロシクの衝撃波を四人の大人が浴びせられて卒倒する。もはや言うまでもないが、鎧の擦れる音でさえ大きく響くこの場所での姫の咆哮は効果がバツグンであった。
泡を吹き、白目を向く四人の哀れな子羊に向かいズンズンと歩みを進める女の子。説明するまでもないがこの人物こそ今回の問題の種となってたお姫様その人であった。
口から溢れるように出ている湯気や、背後に薄っすらと見える般若のようなス〇ンドはイライラが頂点に達した乙女のなせる業なのだ。
身体が痙攣したようにビクつく四人の前まで来た姫様は、一旦姿勢を正した後、清清しいまでにさわやかな挨拶をした。
「私はリヴィア姫よ? 文句があるならワガママ聞いてからにしなさいよねっ!」
もはや聴覚を失った者に聞き届けられるわけがなかった。
最後まで読んで下さり、本当にありがとうございます。
ヒロインのインパクトって大事ですよね。
心に残るヒロインをこれからも描けたらと思いますので、
どうぞよろしくお願いいたします。
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