1.エルシー、女だとバレる(ただし本人は気付かない)
「ねぇ、あれって幻の赤薔薇姫よね? スタイルが良いしダンスもとても上手。私だったらあのテンポはついていけないわ。羨ましくなっちゃう」
「そういう君も小柄だがこの魅力的なチャームポイントがあるじゃないか。踊るたびに揺れる、男を引き寄せるね・・・」
そう言って男は女の胸をツーとなぞる。
情熱的な音楽に合わせて激しくステップを踏んでいる男女がダンスホールの皆を魅了する。
他に踊っている人はおらず、ヒールと革靴のステップを踏む軽快なリズムとヴァイオリンやピアノ、フルートが奏でる情熱的なメロディ、招待客の囁く声が聴こえてくる。
二人のダンスに魅入りながらも招待客たちは異性と体を密着させ、男は卑猥なセリフを口にする。
しかし、そこで顔を赤らめる純情な女はここにはいない。遊び慣れた女たちはそれを受け流して逆に相手を煽る。
そんなやりとりがそこかしこでされている、この仮面舞踏会。
その中で一人、ワイングラスを片手に呆れを滲ませた溜息を吐く女がいた。
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「はぁ・・・・全く。そんなにも注目されたいのかしら」
ダンスホールの中央で踊っている男女が1組。女の方は幻の赤薔薇姫と会場中で囁かれている。
「はぁ・・・・」
本当の赤薔薇姫は私なのに。
数年前、友人に誘われてふらっと参加した仮面舞踏会でちょーっとやらかしてしまったのだ。
パートナーとしてその友人の兄に付き添ってもらい踊ったのだが、久しぶりに体を動かすことに興奮してついつい夢中で踊ってしまったのだ。
そして私の容姿も含めてついた二つ名が、「幻の赤薔薇姫」。
私は腰まであるストレートの燃えるような赤髪に少し吊り上がった大きなブルーグレーの瞳をしている。
体型はスレンダーで、胸もちょっとしかない。だから、今踊っているあの女のように出るところは出て引っ込んでるところは引っ込んでるナイスバディな体型ではないのだ。
まあ、彼女が赤薔薇姫だと言われたら信じる人の方が多いだろう。
おそらくこの髪色からついたであろう赤薔薇姫になりすますには、赤いウィッグを被ればいいだけの話だ。
あとは、ダンスが上手ければ完璧だ。
私はあれ以来、仮面舞踏会には参加していないのでさらに「幻の」とついた。
あれはもう2年以上も前の話で、ちょうど忘れ去られるという頃に誰とも知らない彼女が幻の赤薔薇姫になりすまして仮面舞踏会に出てくるようになったのだ。
私は普段は、男装して騎士として働いている。
騎士には近衛騎士団、第一騎士団、第二騎士団、第三騎士団、魔法騎士団がある。
私はそのうちの魔法騎士団団長の役割をもらっている。
部下は男ばかりだが、私が女だと気付いた者は誰もいない。
だが1人だけ、よく周りを観察している勘の鋭い奴がいる。
肩までの黒髪を後ろで縛ったオレンジ色の瞳の男だ。
いつもはチャラいが、観察している時は目をスッと眇めるのだ。
私も何度かその目で見られたことがある。
別に女だということを隠しているつもりはないが、あの目で見られるとなぜかヒヤッとして背筋が凍りそうになる。
私は今日、総レースのオフショルダーの大きくスリットの入った黒いマーメイドドレスを着ている。
髪型は前髪は編み込んでいて、ポニーテールに黒薔薇を挿している。
誰も私が魔法騎士団団長だとは思わないだろう。
そう考えていた私は気付かなかった。
顔半分を覆う銀の仮面から覗くオレンジの瞳の男がこちらをじっと見つめていることに。
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今俺の頭の中は大変、混乱していまーす!
俺が所属している魔法騎士団のエルク団長がいるんですよ!
しかもドレスを着て!
前々から感じ取ってはいたが団長は女性だったらしい。
今は防御に特化した騎士服ではなく、体のラインがハッキリとわかるドレスを着ていて、団長は明らかに女性とわかる丸みを帯びた体つきをしている。
・・・・胸はもうちょっとほしいかなぁ
ハッ!
いけないいけない! こんなこと考えてるなんて団長が知ったら後でしごかれる!
嘲りの表情で鬼のような罰(鍛錬)を課すのが目に見えるようだ・・・!
ただこれで団長の弱みをひとつ握ったことになる。
あとはどうやって外堀を埋めていこうか。
俺は昔助けてもらった時から団長に惚れているんだ。
男だと思っていても諦められなかった。
時々女性のような仕草をするなぁと感じていたら、やはり女性だったのだ。
もう遠慮はいらない。
これからどんどんアプローチしていこう。
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