13.不仲アピール
二人がいくらお熱かろうと、今日も教室では普通に授業が行われている。
そんな最中のしがない休み時間のことだ。
「優ちゃん、さっきの授業のここなんだけど……」
「ああ、それなら……」
「なるほど……そういうことか、ありがとう!」
「優ちゃん、この学校の図書館って、どこにあるんだっけ?」
「今度案内しようか?」
「本当?ありがとう!」
「優ちゃん、今日のお昼はどうするの?」
「……いや、あの……」
「?」
「……すごく周りの注目を集めているから……」
周りの生徒たちは確かに遠巻きで二人の様子をうかがっていた。
休み時間になる度に繋は優に話しかけていた。それもそのはずだ。女子校にいきなり放り込まれて、すぐ近くにいる知り合いが優だからだ。
「ごめん……やっぱり不都合だよね……」
「いや、まあ、私も嫌なわけじゃなくて……」
「でも、それで余計な噂が立つなら……」
「うん、だから、ごめんなさい……」
その瞬間には繋は優が謝る理由が分からなかった。
「でもやっぱり、やらなきゃいけないの!」
優は眉を細めた状態から一転強気になる。
「それじゃあ、僕はなるべく話しかけずに……」
「ううん、大丈夫、これは全て私の責任で片付けるから、……繋くんは悪くないよ」
勇ましく、しかし少しだけ物悲しく優は語ったのだった。
それは昼休み明け最初の授業が終わったときの話だった。
先程の一件から優に話しかけるのを遠慮している繋は、ただ黙々と机に座って教科書を整理するなどしていた。
すると、突然横から指を差された。
「能代さん、先程の小テストの点数は何点でしたの!?」
いまだにこの奇怪な口調には慣れないなあ、などと思いつつ、繋は鷹揚にそちらの方へ振り返る。――いや、ここの見知らぬお嬢様に話しかけられるのって、普通にイレギュラーの極みだな。
そうしてみて驚いた。というか、それが当たり前だった。
「優……ちゃん?」
そこには繋を指差しながら高所得構えをして、居丈高に振る舞う優の姿があった。
ただミディアムボブの髪型が内側に巻かれているのが少々垢抜けており、お嬢様感を脱して普通のキラキラ女子高生感も多少ある。ちなみにこれはもっぱら平日にそれなりの確率で見られるヘアアレンジである。
「あらあら、どうしたのですかその間の抜けた表情は。わたくしに負けるのを恐れてらっしゃいますの?」
明らかにキャラではないことをしている優に、繋は「これが責任というやつか……」と感じる。
「えっと……9点だったけど……」
「あらあら、わたくしの勝ちですわね、ほら、満点ですわ!」
「は、はあ……」
突然空中に投げ出された優の小テストの答案を見て、繋はなんとも言えない表情になる。
「あらあら、わたくしに負けたのがそんなにショックなんですの?」
さっきからあらあら言い過ぎじゃないかと心の中でツッコミを入れつつ、それでももっと本質的なツッコミは湧いてこない。いかんせん出来事が唐突すぎて、何がおかしいのかが分からなくなってくる。
「あっ、はい……」
――とりあえず、こう答えておくことにしよう。
「まあ、精々学問に励むことですわ、おっ―ほっほっほ!」
どこで習得できるのか分からない高笑いを披露すると、優は何事もなかったかのように自分の机についた。
(何がしたいんだ……?)
周りの生徒の注目はいつも以上に集めているわけだが、優の考えていることは分からない。――あの奇怪な口調にポイントがあるのだろうか。繋はしばし思索に耽る。
また授業が終わり、次の休み時間になる。
繋はやけに視線を感じていた。
(……優ちゃん?僕、何かしたんだろうか……?)
否、おそらく「責任」とやらに関係があるのだろうが、やはりその意図は全く分からなかった。
……そして繋は、分からなかったゆえに、次の授業中にこっそりと優に「家で詳しく聞かせて」と告げておいた。
――やはり、普通に会話をしているのを見られるのはまずいかもしれないから、これが一番いいだろう。
今日もまた、ナチュラルに家で二人きりの状況を作り出してしまう繋だった。
帰宅も別々に、二人は帰る。繋が先に家に帰っていた。そして当然のように、家に帰ってきた優は例の扉を明けて繋の部屋に入ってきた。
そこには、もじもじときまり悪そうに部屋に入ってくる優の姿があった。
「えっと、とりあえずベッドにでも……」
「うん」
とりあえず、自然な流れで一つの部屋のベッドに男女が二人並んで腰掛ける。失礼、詳述が過ぎた。ちなみに繋は至って真剣に一人暮らしの部屋の中で相手に快適に過ごしてもらえる場所を追求した。
「その、(聞いても)いいかな……」
「……うん、いいよ」
極めて恥ずかしそうに、優は答える。
「みんなに喧嘩している所を見せて仲が悪いアピールをしようかなって!」
「……」
優は勇気を出してそう告白した。
繋は黙り込む。
「そっか……まあ、仲が良いって思われるのがまずいわけだしね……」
「うん、……ごめんね」
しめやかに並ぶ二人は、顔を落としながら佇んでいた。
「あっ、そうだ、ご飯食べる?」
「えっ?」
「いや~、なんというか、お詫びといいますか……やっぱり学校で変な態度とられるって、気分良いものじゃないと思うし……」
「いや、そもそも僕が原因なわけだし……」
「だから、そんなに気に負わないでよ~」
「あ、うん……」
「それじゃあ、私の部屋にどうぞ」
「はい……」
という具合に、あたかも日常のごとく優の部屋に移ってお食事が始まったのだった。
いつもの教室のいつもの昼休みにて。
「あらあら、能代さん?」
「う、うん」
高圧的お嬢様ムードの優さんにどう対処していいか戸惑いつつ、繋は優の方に振り返る。
「あなた、確かピーマンが嫌いなんですよね?今度作って差し上げましょうか?」
「あーピーマン嫌いだな~」
――とりあえず繋は同調しておくが、この吹っかけ方で大丈夫なのか?とは少し思ってしまう。
「え?あ、作るの?」
「あっ……」
まずかった。
料理を作るなどという一般の高校生男女に完全にあるまじきことを匂わせてしまった。いや、匂わせどころではなく裏では本当にやっているのが気まずい所なのだが。
「えー、っと、すごく困って嫌だな~!!」
無理やりに対立を強調としようとしてみるが、絶望的に繋は下手だった。
そして優は恥じ入りながら廊下へ走り去り、繋はそれを追った。
「優ちゃん!」
階段の踊り場まで追いかけていき、繋は優を呼び止める。……案外優が速かったので、足を止めさせるのに時間がかかった。
「わたし、もうだめだ……」
「くじけちゃだめだよ!!」
「……」
「僕らが仲悪いんだって、しっかりアピールしないと……」
「うん、でも……ご飯作ってくるアピールは流石に取り戻せないでしょ……」
「そ、そうかもしれないけど……」
繋は少し微妙な表情になりながら、消え入るようにそう言った。
自信無さげな繋を見て却って冷静になったのか、優は、
「そっ、そっか、もう少し頑張ってみるよ!」
と言って教室まで帰った。




