白さぎ
大好きなK叔母へ
未だ明けやらぬ薄闇の街を走りだす。
大きく吸い込んだ空気で鼻腔が痛いぐらいに冷え込む冬の朝。
シャッターを下ろしひっそりと寝静まっている商店街を走り抜け、街を流れる川に架かった橋の石段をたらたらと下りる。
いつもの川沿いの道を走る。お地蔵さまに頭を下げ、橋のたもとに佇む茶色い虎猫に「ニャア」と挨拶してひた走る。
変わりないいつもの朝の風景。
と、その時、白い影がサッと頭上を掠めた。
驚いた私は思わずたたらを踏んだ。
川の中程に真っ白な鳥が長い首を伸ばし、つと立っている。
「あ」
その凛とした様子に唐突にあの人の姿が重なった。
美しい女だった。
上背のある凛とした立ち姿はまさしく目の前に居る白さぎのように美麗で眩しく、幼い頃から私の憧れの叔母であった。
大好きな人を喪った悲しみは何時までも消せないほど深い。
それでも、人は前を向いて生きてゆかねばならない。
そうしていつしか薄らいでゆく記憶に留まるその人の面影がふとした瞬間に私にあの日を思い出させる。
ー1995年1月17日ー
あの悲しく痛ましい震災の日から26年が経つ。
「K叔母ちゃん、会いにきてくれたんやね。」
いつの間にかぼうと立ちすくんでいた私の潤んだ眼前を白さぎが大きく羽ばたいて飛び立った。
白さぎの向かう先には見晴るかす丘陵が広がり、群生する水仙の花が朝日を浴びてきらきらと輝いていた。
ー明けない夜はないー
私は思い切り冷たい冬の空気を吸い込み、顔を上げて再び走りだした。
あの悲しく痛ましい震災の日から26年が経ちました。何年経とうとも消せない悲しみを抱いた全ての人達に少しでも光が差すことを願って。
喪った全ての人達が少しでも温かい光に包まれますように。合掌。
ご一読ありがとうございました。
石田 幸