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翼竜の巣【後編】


それからセレーナが巣の中にいた少女を川で洗い——めちゃくちゃ暴れていて、とても大変そうだった——、俺のタートルネックの上着を着せてマントで作った布靴を履かせ、髪を整えた。

翼竜たちが少女に話しかけ、落ち着かせてくれなければ色々大変だっただろう。

俺たちには「がうがう」としか聴こえない言葉で、翼竜たちと話をする少女。

彼女は名前もない。


「うーん、やはり名前はあった方がいいよな」

「そうね……他の翼竜たちも冒険者に狩られないように、私たちが名前をつけて『ネームド』にした方がいいわね。そうすれば意思疎通出来るものね」


魔物はテイムして名前をつければ、意思疎通が出来るようになる。

しかし、この翼竜の群れはいささか違う。

二十体以上いる群れをすべて引き連れて行く事は出来ない。

だからネームド……名づけだけ行い、テイムをしない事にする。

そうすれば、拙い言葉だが意思疎通が最低限出来るようになるのだ。

この少女の両親を探すのは無理だろうから、せめてこの少女が安心して暮らせるところ……預けられるところを探さなければ。

これから世界一周する俺とセレーナの旅に、こんな幼い少女をつき合わせるわけにはいかないからな、うん。


「この少女にも名前をつけた方がいいな。うーん……セレーナはどんな名前がいい?」

「そうね……うーん……タニア、はどうかしら?」

「いいんじゃないか?」


俺たちが師匠のところで修行していた間に亡くなってしまった、近所のおばあちゃんの名前だな。

うん、いいと思う。

懐かしいな……よくアップルパイを焼いてくれたな……。


「どうかしら、タニア。あなたの名前。嫌だったら他のを考えるわよ」

「…………」

『タニア、よいと思います。タニア、お前に名前が授けられたのだぞ。返事をしなさい』


レトムが話しかけるが、少女は俺たちを睨むばかりで返事はない。

うーん、これは……翼竜たちをいじめた悪い奴、と思われている感じが……する。


『タニアも連れて行くのですか?』

「いけないだろうか? それともこのままこの群れの中で育てていくつもりなのか?」

『それは……』


少し考えたようなレトムは、姉だという翼竜を見上げる。

うん、話し方を注意してからだいぶ話やすくなったな。


『タニアを連れて行って欲しいそうです。やはり人の世界の方が、タニアは幸せになれるだろうと』

「…………そうか」


 母代わりだったという翼竜が長い首をゆっくり背ける。

 兄弟同然に育った幼い幼竜も母と同じく首を窄める。

 その姿に心が痛んだ。

 だが、別種である以上、仕方ない。

 今ならまだ間に合うかもしれないのだ。

 タニアが立ち上がって母代わりだった翼竜の体に触れる。

 けれど翼竜はタニアを見ない。


「……マァム。その翼竜の名前だ。マァムとは古い言葉で『母』を意味する。どうだろうか」

『…………』

「大丈夫よ、また会いに来るわ、たとえ生きる世界が変わっても、生きていればまた会える。タニアはあなたの事を忘れる事はない。この子を人として育てる。約束するわ」

『…………』


 涙が滲むのを見た。

 魔物である翼竜に感情……いや、親子の情が生まれていたのだ。

 驚いた……こんな事があるんだな……。


「がう、ごぅ、がう……」

「あうう、あぐぅ、ぐぅ」


 そこからは俺たちにも分からない会話が繰り広げられた。

 母代わりの翼竜、マァムが、タニアになにかを語って聞かせ、最終的にタニアは泣き出してしまったのだ。

 レトムが訳してくれた内容によれば、マァムはタニアに俺たちと一緒に行くように説得をしてくれたらしい。

 しかしタニアはそれを嫌がり、ここに残ると繰り返していた。

 そんなタニアの願いを、マァムは「だったらもう私たちは親子じゃない」と突き放したそうだ。

 それでタニアは泣いてしまった……という状況。

 そっぽを向いたマァムにタニアは何度も縋りつく。

 しかし、マァムはそれを突き放して宙へ浮かぶと、木の枝に留まる。

 タニアが追いかけて木にしがみつくも、マァムは振り返らない。

 うう、どんどん胸が痛くなる。


「がう、ぐぅがうう」

「がうぅ、ぐぅあぅ」

「んがんが」


 他の翼竜もタニアに向かってなにか話し始めた。

 レトムを見上げると『みな、意見は同じです。人間の子どもを抱えておくのには、いつか限界が来ると思っていました』と顔を左右に振るう。

 それを聞くとなんとも言えない気持ちになる。

 引き離したいわけではない。

 たが、このまま一緒にいさせる事がタニアにとっていいとも思えないのだ。

 種族が違うから分かり合えない、とは、俺もセレーナも思わない。

 俺とセレーナが師事を受けた師匠は、異界からやってきた幻獣ケルベロス種という、大変珍しい生き物。

 王獣種とも呼ばれる師匠は、それこそ神や魔王すら一撃で滅する力を持つという。

 それ故に己を強く律しており、独自のルールとこの世界への尊敬を持ち、深く干渉する事を避けておられる。

 そんな師匠を俺もセレーナも尊敬しているし、古龍であるイヅル様は上手く同居もしているのだ。

 種族が違っても、共生は出来る。


「…………っ」

『タニアはマスターたちと行く決意をしたようです』

「そうか。……よろしくな、タニア」

「…………」

『申し訳ありません、タニアは人の言葉がまだ分からないのです』

「……ああ、構わないよ。ゆっくり覚えればいい」

「ええ、分からない事はなんでも聞いてね!」


 タニアは俺たちと同じ種族……人間だからテイムは出来ない。

 名づけを行っても、意思疎通が出来るようにはならないのだ。

 だから少しずつ、人の言葉を覚えてもらうしかないだろう。

 しかし出会いが最悪だ……俺たちは平和に暮らしていた翼竜の巣を荒らしにきた悪者にしか見えないはず。

 ……まずは信頼してもらうところから始めた方がいいだろうな……。


『それで、まずはどこへ向かえばよろしいのですか?』

「食の都『レティシアのフォブル』だ。……ああ、そうだ、レトムには話しておこう。俺たちには一つ重大な任務がある。多嵐(デッド・タイフーン)の発生を遅らせるために、世界中を回ってこの魔法石を設置しなければならないんだ」

『えっ……!? 多嵐(デッド・タイフーン)!?』


 ざわ、と他の翼竜たちも驚いたように首を擡げる。

 やはり知能の高い魔物は多嵐(デッド・タイフーン)の事も知っているのだな……。


「俺の師匠と古龍イヅル様がおっしゃっていた。間違いなく、なにもしなければ五年後か六年後に多嵐(デッド・タイフーン)が世界を襲うだろうと」

「私たちはそれを十五年後、十六年後程度まで遅らせるのが目的なの。その間に結界石を大陸中心である泉議会室(ドル・アトル)に集める。そうする事で超結界が生まれ、大陸の半分を覆い、多くの命を救える!」

多嵐(デッド・タイフーン)は前触れのない天災。召喚された勇者が古龍イヅル様の元へ辿り着ければ、かの勇者により人間たちにも多嵐(デッド・タイフーン)の事が知れ渡るだろう。この世界に生きるすべての命が警戒するのは、今や魔王だけではない。真の災いに備え、今から動かなければならない」

『なんと! そんな理由が……! 古龍イヅル様といえば、魔物の世界でもその名を知らぬものはない賢者様……』

「がうがう」


 翼竜たちもどうやら分かってくれたらしい。

 うーん、こんなに話が分かるなら、最初から話し合いがしたかったな。

 だって襲いかかってこられたら対応せざるを得ない。

 うん、仕方ない。


『そういう事でしたらこのレトム、マスターたちのために尽力させて頂きます。……まずは『フォブル』ですね。かしこまりました』

「頼む」


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