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『グレインズのダンジョン』【3】


「そうだな。だが、相手の強さを見極められぬようでは三下も三下。雑魚も雑魚よ。よいか小僧、二度と舐めた口を利くものではないぞ。儂は王獣種なので、自分よりも遥かにか弱い生き物は相手にはせんのだけれども……耳障りが過ぎるとうっかり殺してしまうかもしれん。ほれ、蠅とか。ブンブン煩いと殺してしまうじゃろう? な?」

「…………」


 こく、こく、と震えながら微笑む師匠に頷き返すヨルド。

 師匠のあの顔は、多分本当に“そう”思っている。

 ヨルドは師匠にとって蠅と同じ。

 自分の周りで小煩く飛び回ればぷちりと潰して、殺しても仕方ない存在。

 鬱陶しく騒がなければ、“生かしておいてもいい”程度。


「まあ儂、賑やかなのは嫌いではないんじゃけれども」


 賑やかと煩い別、という事ですね。

 分かります。


「…………」

「?」


 そう言うと、師匠は無言のまま、そして笑みを浮かべたまま新たな勇者アイカ様の方を見る。

 そうだ……そういえば師匠は勇者を見極めるためにこの世界に来たのだ。

 この世界に召喚されてきた勇者が、勇者足り得る者なのかを……。


「ふむふむ、まだ幼いな。力も心もただただ未熟。どのようになるかは未知数か。よいよい、それもまた可能性」

「え、えっと……」

「とはいえ、勇者が倒すべき魔王はタニアがテイムモンスターにしてしまったんじゃよな」


 ちら、とタニアとその横でタニアを守るように佇む長い黒髪の男。

 勇者を睨みつけ、不機嫌そうに顔を背ける。

 ……行動そのものはまるで子どもだな。


「ま、魔王? え? 魔王をテイムした?」

「正確には儂が魔王ステルスに()()()したんじゃよ。この辺りは幼児に危なすぎるからなぁ。ライズたちの修行が終わるまで、守ってやっておくれって」


 ほとんど脅しそのものでしたけどね。


「お前たちも修行に来たのならライズたちと『パーティークラン』をするとよいぞ」

「パーティークラン……?」

「これをつけろ」


 師匠の手元に魔力が集まると、見た事もない魔法陣が形成される。

 それから生成されたのは、腕輪だ。

 複数の腕輪がポコポコ出てきて、俺も近づいて拾ってみる。


「この世界のパーティー上限人数は五人といっただろう?」

「はい、そうですね」

「この腕輪は『情報共有の腕輪』。経験も多少なりと経験され、戦闘の参加度合い、貢献度の度合いにより経験値が共有される。それをつけて、しばらくの間はライズとセレーナの戦闘を見学しておるといい」

「! つまり、五人以上でもパーティーを組んでいると同じになる、という事ですか!」

「うん、まあ、分かりやすく言うとそうじゃな」


 すごい、さすが師匠だ。

 そんなすごいアイテムを、生成してしまうなんて……。

 それも魔石の類を使っていない。

 ただシンプルにそういう機能を持つ道具。

 いや、すごすぎる。

 どうやって作ったのか、まるで想像がつかない。


「全員のアクセサリー欄が一つ潰れるけれど、これは確かにすごいアイテムですね」

「あ、ああ、まるで神の遺物だ」

「あ、ありがとうございます! え、ええと……」

「儂か? 儂は八雲(やくも)という。ライズとセレーナの師匠だよ」

「え、ライズさんとセレーナさんの!?」


 これに一番大きく反応を見せたのはヨルドだ。

 立ち上がって思い切り人差し指を師匠へ向け口を開く。

 が、すぐに指を下ろして口を閉じる。

 いい判断だ。


「ここに来た用事はもう済んでいるから、ダンジョン踏破でもしようか」

「し、師匠ったら……そんな簡単な事のように言わないでください。愛夏様は召喚されたばかりなんですよ! タニアもいるのに……」


 頰を膨らますセレーナが可愛い!

 ……ではなく。


「レベル程度で強くなったと思えるのなら、上げればよい」


 これにはみんな無言になる。

 レベルという力押しでやってきた俺とセレーナ、そしてヨルドには凄まじい精神ダメージ。


「なるほど、だから師匠は俺たちに“レベルはそのままで、強化した魔物”と戦わせたのですね」

「ふふ」


 意味深に笑う師匠。

 レベルは、確かに強さの基準となる。

 だが、俺やセレーナのような『限界突破』を行った者にとって、それより先に行くためには自らの『技術』を高めなければならない——。

 そう、言いたかったのか。


「いかに自分たちがレベルでの力押しをしていたのか、自覚はしたであろう? ……まあな、この世界ならそれでもいける。お前たちはそこまで高みを目指す必要はないだろう。それにあまり高めすぎて神化(しんか)してしまっても可哀想じゃし」

「しんか……?」

「魂の核が神のレベルに到達する事を『神格化』または『神化』と呼ぶ。二種類の呼び方があるのは体があるか、ないかの違いじゃ。体がある場合は『神化』と呼ぶ。ちなみにこの世界の神は体がない神じゃな」

「は、はあ……」

「まあ、そのあたりはよく分からんじゃろうから深く考えでもよいよ。その領域は今のお前たちでは到底辿り着けない」


 師匠から珍しく笑みが消えた。

 ごくり、と生唾を飲み込む。

 レベル上限の限界を突破してもなお、その領域は遥か彼方。

 師匠の動作一つ一つが規格外すぎて納得しか出来ない。

 俺では到底師匠の領域には辿り着けないだろう。

 鍛えれば鍛えるほどその差が感覚的にも解ってくる。

 努力でどうにかなるものでは、ない。


「それに守りながら戦うのは、まだやった事がないのではないか? 今まで二人だけで旅してきていたし、タニアやタニア並みに弱い異界からの勇者を連れて最高レベルのダンジョンを歩くなどそれだけで修行になるじゃろ」

「「えっ」」

「やってごらん。守りながら戦うのはとても難しいぞ。重りが多ければ多いほど動きづらい。儂は一番奥の間で待っているから、頑張って辿り着きなさい」

「っ」


 重り、と言われた時、嫌な予感はした。

 だが嫌な予感がしたから避けられるものではない。

 なにしろ、相手は師匠なのだから。


「うっ!」

「ライズ!」

「らいず!? どーしたのっ!」


 タニアとセレーナが駆け寄ってくる。

 俺の手の甲に刻まれたのは、師匠が言う通り『重くなる』呪い。

 そう、呪いだ。

 おそらく解除条件は師匠のところへ辿り着く——。


「っー!」

「だ、大丈夫!?」

「…………」

「じゃ、なさそうね!?」


 せめてセレーナが『聖女の祈り』のような呪い解除系の力を習得していてくれたなら、こんな呪いは意味もないのだが……。

 まずい、これはまずいぞ。

 手が重すぎる。

 地面から持ち上げる事が出来ない……!


「ふ、浮遊!」


 浮遊の魔法でなんとか地面から解放されたが、浮遊を使い続けるにも魔力を消費する。

 持続魔法ではないから、定期的にかけ続けなければならないのも問題だ。

 加えて浮遊魔法で無理やり地面から浮かせているから、違和感もものすごい。


「い、一刻も早く師匠のところへ行かなければ」

「きょ、今日の師匠もおにちくぅ……!」


 思わず勇者殿たちや、タニアを振り返る。

「俺がこんな状況ですが、本当に行く?」という意味を込めて。


「たにあ、いく!」

「え、タ、タニア? ほ、本気?」

「うん。すてるすいるから、だいじょぉぶ」


 ——ハッ!!

 そ、そうか、そういえばステルスがいた!

 俺やセレーナと同等のレベルを持つステルスならば、俺が本調子でなくともタニアを守ってくれる!


「わ、私たちも行きたいです! レベルを上げたいので……。あの、でも……魔王が仲間に? なったのなら、私たちはなにと戦えばいいのでしょうか? セレーナさんは、魔王とは違う敵がいるって言ってましたよね?」

「え、ええ……」


 ここに来てまさかの魔王と共闘は、確かに困惑する。

 アイカ様は、自分で言っててもよく分からなくなったのかステルスと俺たちを交互に見比べた。


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