公爵家のご令嬢は慕われてる
今日は朝から校内が騒がしい。
何か行事があるわけでもないのに。
よく見ると騒いでるのはご令嬢だけだ。
ついでに言うと、公爵家の赤髪縦ロールイザベラとその取り巻きたちである。
あまり近づくこともできないので、気にしない方向で素通りする。
ま、イザベラのことは幼少期からの付き合いだし良く知ってる。
男爵家の令嬢シャーロット・ルーチスとしては、話しかけることは難しいし、そもそも取り巻き連中はイザベラを慕いすぎてるきらいがあるから俺が近づいても見下されるだけってもんだな。
というより、自ら近づきたくないのが本音である。面倒。
この騒ぎ、昼頃には全校生徒全員が知ることとなるのだが、内容を聴いて冷や汗が流れたのは内緒だ。
騒ぎの内容ってのが、昨日王子が昼休みに女子生徒と仲良く歩いていたって言うことで、どう考えても俺のことだよな。
おおかた取り巻きたちが目撃してたんだろう。
元はと言えば王子が1人で迷子になるからだ。まったく、あいつはどうして毎回毎回、厄介ごとを作り出すんだよ。
見つかるのは時間の問題として、赤髪縦ロールことイザベラというより取り巻きがどうでるかを悩んでいると、エメリが声をかけてきた。
「たぶん、シャーロットさんのことですよね?」
「間違いなく、そう、でしょうね」
心配そうな顔をするエメリに、心配いらないと笑いかける。
ある程度の対処はできるはずだ。
出来なきゃ父上の大笑いが待ってる。笑われてたまるか。
むしろ問題は、俺1人に標的が絞られない場合と、仲良くしてる友人たちが被害を受けることだな。
「大丈夫。身を守る術は父から教わっていますから、もし私のことを訊かれてもエメリたちは同じ男爵家同士つるんでいただけだと、他人のふりをしてくださいね」
ついでにエメリたちが被害に遭わないようにしておく。
納得できない表情をしているが、途中から集まってきた友人たちも説得をしてくれて、なんとか了承してくれた。
公爵家を敵にまわすかもしれないのは、彼女たちにとって脅威だ。
知り合ったばかりの友人1人切り捨てるのと、家族全員が路頭に迷うのと、天秤にかけたらどちらに傾くは分かっている。その方がいい。
ただ、仕事がやりにくくなるだろうことが不安だけど――。
トン、と友人の1人が俺の額に扇子を当てる。
「シャーロットの言葉、一旦は飲み込みますわ。ですが、一矢報いてやるくらいの覚悟がわたしたちにあることは覚えていてくださいね」
「その気持ちだけで嬉しいかな」
それやられると困るんだけどと思いつつ、心配してくれる友人たちに俺は笑顔を見せた。
友人としての彼女たちの純粋な優しさに少しだけ罪悪感を覚えたが、上手く周囲に溶け込めてるということにしておく。
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嫌がらせが始まったのは俺の予想よりも遅い一週間後で、普通のご令嬢なら平穏な学校生活に影を刺すような嫌がらせが始まった。
令嬢たちに人気の恋愛小説ほどはならなくても大っぴらにやるかとちょっと期待したが、どれも人に気づかれないよう仕込んでいるようで、コソコソしたものが多かった。
ま、イザベラに知られないようにするにはそれしかないよなぁ。
足を引っ掛けて転ばしてきたり、ロッカーの前に怪しげなうごめくプレゼントボックスが置かれていたり、手柄を立てたいヤローどもが声をかけてきたり(鳥肌がたった)―――。
大変だったのは、昼食に頼んだ紅茶が辛かったことだな。エメリたちと一緒いるので、吹き出すわけにいかず、顔に出さないよう必死だった。
大方、金を積んでやらせたんだろう。
さすがに全てかわすのはおかしいので、数回に一度引っかかることにしているが、丸見えの罠にかかりにいくのは、バカっぽく感じてしまうが仕方がない。
あとは時間のある時に、首謀者を調べることにする。
別にイザベラが指示を出しているわけじゃないのは分かっている。
つり目の赤髪縦ロールのイザベラは気が強そうに見える(実際その通りだ)が、裏でコソコソやるのは性に合わず、陰湿な手を嫌い、正面を切って戦うのが彼女である。
もっとも、あいつは誰に対しても平等に接することのできる貴族社会じゃ珍しい奴だ。
そんなわけで、イザベラが黒幕ってことはありえないのだ。まぁなんだ、付き合いが長いから今回の噂についてもイザベラは真相を分かってるだろうし。
つまりは首謀者はイザベラの取り巻きで、彼女こそが王妃にふさわしいと盲信している連中だ。
嫌がらせに関わった連中は注意人物リストに載せておく。
一応、王子の人間関係も把握する必要もあるし、あいつは警戒心がなさすぎて危なっかしい。
令嬢なら王妃候補から外して、令息なら友人候補から外す。
心を入れ替えない限りは―――。
イザベラは悪役令嬢の位置ですね〜。