サイド:黒幕を捕まえろ
白を基調とした部屋は清潔感があっていい。
いささか趣味の悪さのせいで台無しになっているが。
そこまで乱暴に扱うつもりもないようで、縄で手足を縛られたまま小部屋のベッドに放置されている。
まあ、馬車の揺れが心地よくて半分寝かけていたが。
あくびを噛み殺して、袖口に仕込んでいたナイフで縄を切る。
ポーチと家紋の入ったナイフは取られたが、幸いなことに身体検査はされてないので制服に仕込んだわずかな武器は手元にある。
性別もバレかねないから助かった。
ひとまず、ここがどこか調べることにする。
無駄に豪華な家具は中に何も入ってなく手がかりはない。
見張りはいないようなので、続く部屋の扉を開ける。
それなりに広い部屋は、さっきと同じように白を基調とした部屋だが、ゴテゴテした飾りのついた統一感のないものになっている。
ここは誰かの部屋のようだ。
おそらく、雇ってる側の。
まずはクローゼットを開けると男物の服ばかりが入っている。
軽く中を漁ると家紋が刺繍されたハンカチを見つける。
バーネイ伯爵家の家紋。
去年、ハリエットがバーネイ伯爵の令息と町を歩いてたな。
この家は出世欲が強いというか、権力を我が物にしたがってるからな、ハリエットと共謀してるのかもしれない。
誰の家かわかったし、散策して見るか。もちろん、誰にも見つからないように。
予想よりも使用人の数が少なく、楽に移動ができる。
当主の部屋らしき場所で大きな音が響く。
耳をすませればかすかに会話が聞こえてくる。
「私は……を連れて…………」
「申し訳……しかし……これを」
「………利用できるなら………」
会話が終わりそうなので身を潜める。
ガタガタと激しい音がなり、止んだ後で三人の男が部屋から出てくる。
誘拐してきた奴らだ。
「これじゃ盗賊なんかと変わりませんね」
「俺らの仕事じゃないっすよね。先輩?」
「――ああ、すまん」
「どうしたんすか」
一番若い男が不思議そうな顔をして、眼鏡をかけた男が口を開く。
「娘さんですか?」
「ああ」
好きこのんでやってるわけじゃなさそうだし、なんか理由がありそうと考えていたが――娘、ね。
一旦それはいいとしてバーネイ伯爵はっと。
ひっそりと天井裏に移動する。埃が積もってるから使いたくはないけど仕方がない。
バーネイ伯爵の部屋はものすごーく荒れていて、暴れたのが一目瞭然だ。
「これでは計画が台無しになるではないか」
誰もいない部屋で大声で喋り出すバーネイ伯爵は黒いファイルをめくる。
俺の目に入ったのは大それた計画書。
実行するのは自由だけど、されたらクレヴァンの名が廃る。
阻止はさせてもらおう。さすがに仕事をなくすわけにいかない。
天井裏から下りる。
「な、何者だ⁉︎」
驚き慌てたものの、目の前にいるのが(埃をかぶった)小娘だと思うと強気になる。
実際は男なんだけども。
「ほう、これが。中々の上玉ではあるな」
不躾な、品定めする視線でこちらを見たまま、バーネイ伯爵はベルを拾って鳴らす。
バーネイ家の優秀な用人は、俺がバーネイ伯爵を気絶させて彼の服で拘束をし、ついでに計画書に俺が目を通した後で、息を切らしてやってきた。
先ほどの三人組だ。
「ナイフ、返してくれる?」
俺がここにいることで唖然としているが構わず続ける。返事がないので俺は一人で喋っていく。
「いっそ、全員捕まえた方が早いか」
リーダー格の男が我に返って、俺に尋ねる。
「一つ聞いてもいいだろうか」
「どうぞ」
「その男を突き出すのか」
「そのつもりだけど」
好戦的に笑えば、男はナイフを俺に返してやるべきことがあると言う。
「そいつに聞かなければならないことがある。突き出すのは少し待ってくれないか」
「へぇ、どんな?」
「人質に取られてる娘の居場所を聞きたい」
「なるほど。――リックならどこに隠す?」
そういって俺は黒いファイルを天井に向かって投げる。
ファイルを見事キャッチして降り立ったのは、クレヴァン家の使用人セドリック。
ファイルをパラパラとめくり動きが止まる。
「信用出来る味方がいるならそこに、いないならここでしょうね〜。例えば、近づかないように言われてる場所ってありません?」
三人が顔を見合わせる。
「別棟……」
「なら、そこですね〜。けど、動かないでくださいね。すぐに終わりますから」
気づけば、にわかに騒がしい。
クレヴァン家総出で俺を連れ戻しにきたらしい。
その後、リーダー格の男は無事に娘と再会。しばらくクレヴァン家で預かることになった。
人質取られて従うしかなかったみたいだからな。
バーネイ伯爵は捕まり、使用人たちは問題がなければ自由の身になり、バーネイ伯爵を手伝っていたならそれなりの処罰をすることに決まった。
進んで手伝っていたのはほぼいないから、大抵は軽い処罰ですんだ。
ハリエットもバーネイ伯爵の計画に手を貸していたとして、秘密裏に投獄されることとなった。
ロッドは留守番中。




