誘拐
王子が卒業まで約3ヶ月。
王子の相手はイザベラに決まったとまことしやかに噂が流れる。
それは同時に不穏な空気を運んでくる。
本気で娘を正妃の座にしたいと思う奴らは、なりふり構わず何か仕掛けてくるだろう。
公爵家も陛下も未然防ぐために対策はしているようだが、完璧に見えるものでもどこかにほころびはあるもので、実際、事件は起きた。
イザベラの行きつけ。
ノラ猫と遊ぶために、校内でも人気のない場所にイザベラがいた時だ。
ピエールの卒業以来イザベラは一人で学校内を歩くことも多く、今まで大きな事件がこの学校で起きたこともないせいか、安心しきっているのも理由の一つだ。
作業員に変装した三人組の男がイザベラを囲んで、後ろから捕まえる。
運良く通りかかった俺はすぐさまイザベラを守るための行動を起こす。変装がどうのとか言ってる場合じゃねぇ。
走り出した俺は手の空いてる男めがけ飛び蹴りをかます。
突然のことに驚いたのは一瞬、すぐにイザベラが叫んだ。ったく、自分の方が危険に晒されてるってのに。
「私のことはいいから、早く逃げなさ――」
男に布をかまされて口を塞がれるイザベラの手は僅かに震えていて、気丈にしてるだけってのがすぐに分かった。あいつもイザベラもしっかり守られてきたんだ、恐怖を感じんのは当たり前か。
さてとここで三人くらい相手取るのはわけないが、裏で手を引いてる奴も知りたいしどうするかな。
ま、イザベラが無事で俺が連れて行かれるぶんには問題ないだろ。優先順位の問題的には。
ハッタリが通じればそれで良し。ダメならこの場だけやり込めて後は諜報部に任せよう。
男たちがたちが苛立った目でふてぶてしく立つ俺を見る。それなりの熟練者らしい。俺に隙がないのをわかっている。
「フレッド様の相手がこんな女のわけないじゃない。私だと決まってるのに」
「ふ、笑い事を」
鼻で笑われる。
そりゃそうだ。頭が狂ってるとでも思うだろうな。身分もないような小娘だし。
さて、どこまでハッタリが通じるか。
俺は懐からナイフを取り出す。クレヴァンの家紋の入った大事なもの。
これを持てるのはクレヴァン家本家の血筋だけだ。本来は成人してから渡されるが俺は既に働いてるから例外で持っている。
そして、知られてないことだが柄には王家の家紋も浮き出るようになっている。
本来、王家の家紋を持てるのは王家の人間だけ、それをもっているのは……。
イザベラも男たちも驚いているようだ。
ただし、驚く内容は違っているが。
だめ押しでもう一つ。
「ルディ――様が私のそばにいるのもフレッド様との連絡役ですわ」
「……………」
俺は口元を隠し優雅に微笑んで見せる。
「なので、その女に価値はありませんわ。私にこそ価値があるのです」
「わざわざでてくるとは――」
「それでこそ、フレッド様の寵愛は増すというもの。せいぜい利用させてもらいますわ」
「面白い」
標的は俺に変わったらしいので、一安心。
助けたと思われないようにもう一芝居。
俺は男から縄を奪うと、イザベラを木にくくりつけて動けないようにする。
「残念でしたわね。イザベラ」
男たち見えない、縄ギリギリの位置に隠して持っていたナイフを木にさしてすぐに動けるようにして、イザベラの耳元で囁く。
「クレヴァン侯爵に連絡を」
男に俺も拘束される。布を被せられる前にイザベラの方を振り向いて言った。少しでも疑われることがないようにしておかないとな。
「せいぜいそこで助けが来るのを待つのね」
俺は視界を奪われた後、箱の中に押し込まれた。
さすがに今拘束を外すわけにいかないので耳をすまして、状況は把握するだけにとどめておく。
連れて行かれたのはどこかのお屋敷のようだった。
ちょっぴり楽しんでいるシャール。




