王子×王子
放課後、下級生の令嬢と令息を前に、異様な雰囲気を感じ取った王子は一歩後ずさる。
従者たちも対応に困っている。
彼らは頭を下げて、王子に一つのお願いをする。
「絵のモデルになって頂けませんか」
彼らはお金を出し合って画材を買い、学校で集まり絵を描いているらしい。
貴族っていっても必ずしも贅沢して過ごせるわけでもない。例え裕福だとしても自身が動かせる金がほぼないってこともある。
王子は予定のない時ならと快諾をして、その時は俺が護衛としてつくようにと陛下に頼まれたので、予定は聞いておく。
当日、もう一人モデルがいると聞かされる。
もう一人のモデルは学校の王子様ことマリーヌ・キュリーだった。
天然物のキラキラしさを纏った男装の麗人である。
モデルのための衣装を着たマリーヌに令嬢たちが歓声を上げる。
そこに同じ衣装を身にまとった王子が揃うと悲鳴はため息に変わり、令嬢だけでなく令息の目も釘付けにしていた。
衣装は男物のお洒落着のような感じで、まるで劇団員のようにも見える。
「本物の王子と一緒に描いてもらえるなんて光栄です」
マリーヌが嬉しそうに笑えば、幾人かが倒れそうになり仲間に気をしっかりもてと言われている。
「こちらこそ、噂のマリーヌ嬢と会う機会が出来ては嬉しく思う」
王子がそう笑顔で返せば、黄色い悲鳴が上がる。
二人が握手を交わせば、令嬢が騒ぎだし、なぜか令息が胸に手を当て、新しい扉が開きそうだとつぶやいている。
王子とマリーヌが並ぶと想像以上に絵になっている。
ずっとポーズを決めている必要もないということで、簡単な茶菓子とお茶を用意して過ごしてもらう。
俺がやっていたせいでマリーヌは恐縮していたがすぐに持ち直していて、俺はさすが王子だと心の中だけ賛辞を送っておいた。
しばらく経てば、見惚れていて動いていなかった筆が次々に動き出す。
その間、王子とマリーヌはちょこちょこと何かを話していた。
一時間ほど過ぎて今日はこれでお開きとなり、王子が着替え終わり部屋から出るとマリーヌもちょうど着替え終わったようで隣の部屋から出てくる。
マリーヌは王子を見て柔らかく微笑む。
「王子、御髪が乱れてます」
マリーヌはそっと王子の髪に触れて、わずかに跳ねた髪を整える。
制服姿なのでマリーヌはスカート姿といえ、これはこれで絵になる。
夕暮れの陽が二人にあたり、幻想的に見えた。
マリーヌが声を上げる。
「あっ。か、軽々しく触れてしまい申し訳ありません、王子」
「いや、そのような姿を見せたこと恥ずかしく思う。やはり、シャールに手伝ってもらうべきだったな」
どうしていいか分からず時間の止まった二人の間に割って入る。
「王子、一つくらい欠点があった方が人間味がありますよ。それと、これはお互いの失敗ってことにして忘れるってことでいいよな」
「うん、そうだね。いいかな、マリーヌ嬢」
「はい、ありがとうございます」
行く場所は同じなので、馬車のところまで一緒に向かう。
時折、まだ学校にいる生徒をマリーヌが助ける姿は見た目だけじゃなく、王子と呼ばれて黄色い声が上がるのもわかる気がした。
月並みの言葉だが、現実として違和感のなさは絵に描いたようと言わざるをえない。
王子と馬車に乗り、城に向かう。
珍しく王子が物思いにふけっていた。
理由を聞けば、こんな答えが返ってきた。
「僕もマリーヌ嬢みたいに振る舞った方がいいのかなって」
「似合いはするだろうな」
ルディ辺りは心底嫌な顔をするだろうけど、似合うとは思う。
「でも、続きがありそうだけど?」
「あー、お前に出来るとは思えないなって思っただけだ」
「ひどいよ、シャール」
王子の言葉は聞こえないふりをして、流れる景色を眺める。
後日、マリーヌのようにやろうして結局恥ずかしくて出来なかったらしい。
ま、出来たとしても台詞を噛んで失敗しただろうな。
ルディに冷たい視線を送られる王子です。




