もう一人の庶民
三年生の教室が並ぶ階に、一年生が一人。
みんな彼女を避けて廊下を歩いて行く。
ウェーブのかかった腰あたりまである薄い紫の髪に黄色の瞳。どこかフワフワとした雰囲気は庶民のコレット・トンケデックだ。
キョロキョロと視線をせわしなく動かしながら歩いては首をひねると、手に持った大きめの封筒を目の高さまで持ち上げてじっと見つめている。挙動不審だ。
誰も声をかけようとしないので声をかけることにする。困ってるなら助けるのも騎士の役目だからな。
「そこの一年生、どうかしたの?」
「あの、これを王子様に届けるよう頼まれたのですけど〜、どこのクラスでしょう?」
封筒を俺に見せて、おっとりとした口調で尋ねてくる。
さっと封筒を目視で、問題はないか確認しておく。
陛下から学校で任されている仕事があるので、その書類のようだ。
「案内、しようか?」
「助かります〜」
ほんわかと微笑んで、俺の後をついてくる。
エメリが俺に気づいたので王子を呼んでもらう。
「シャー――ロット嬢?それと………」
「わたしは一年のコレット・トンケデックです〜。こちらを王子様に届けるように頼まれたのです」
王子を前にしてもおっとりとしたままのコレットに、王子は少しペースを乱されているようで、いつものハキハキさがない。
「あ、ありがとう」
「それでは、失礼いたします〜」
封筒を王子に渡したコレットを俺は階段近くまで送る。意外と他学年の場所ってのは視線が突き刺さるから。
「ありがとうございます。おかげで助かりました〜」
「どういたしまして」
一礼をするとコレットは自分の教室に戻っていった。
翌日、校舎裏の花壇でコレットを見つけたので声をかけてみた。
手入れの行き届いた素朴な花ばかりの花壇で俺がよく休むのに使う人気のない場所だ。
「コレット、こんなとこで何してるの?」
「昨日の、えーとシャーロット様。ここにある花は故郷でよく咲いてるものばかりなので〜、つい足が向いてしまうのです」
「へぇ」
そういってコレットは花壇を眺める。
貴族でもなければ、親と長い間離れて生活するなんて珍しいことだろうし、なんとなく寂しくなるのもわかる。
「シャーロット様、昨日はありがとうございました〜。皆さん王子様とお話したいのに、勇気はないとわたしが引き受けたのですけど〜、何も聞かずに向かってしまったので困っていたのです」
王子についてはそんなに興味がないようだ。
「コレットはどうしてこの学校に?ここに通っても苦労が多いでしょう」
「それはですね〜」
しゃがんだコレットは花壇の花に手を触れる。
「わたしが村のために出来る数少ないことだからですよ〜」
「村のために?」
「はい〜。わたしが頑張れば、村も少し豊かになると思いまして〜」
のどかな小さな村がコレットの大好きな故郷らしい。
観光地のように見る場所もなく、特産品と呼べるものもないその村は今寂れていく一方のようで、どうにかしたいとコレットは自分に出来ることをすると決めたらしい。
「なくなってしまうのは悲しいですから」
「そっか。見つかるといいね村が元気になる方法」
「ありがとうございます〜」
コレットは花壇の素朴な花のように微笑んだ。
きっと、コレットの願いは叶うと思う。
王子はそういう場所を活気付かせたいと考えてるから――。
似た思いを持つもの同士か、話せば気は合うかもな。
王子がペースを崩されてちょっと楽しんでいるシャール。




