重要なことは返事の後で
その日、珍しく早く帰ってきた父上は俺に話があると、一緒の食卓についた、
ちなみに母上は夜会に呼ばれているため家にいなかった。
貴族らしいマナーが欠けた食卓で切り分けた肉を飲み込んだ父上がいった。
「シャール、学校に通ってもらうことになった」
「学校ってことはあそこか」
「ああ」
貴族と一部の優秀な平民が15歳から通える学校で、ここでいい成績を残せれば身分問わず国の重要な役職に就くことも夢ではない。
「王子の補佐?だったら、他にもいるはずだろ。それこそ本業なやつらが」
「あー、違う違う。それも任せたいが本業は違う」
父上は手を振って否定をすると説明をしてくれる。
「王子の婚約者候補を決めてもらいたい」
「は?担当の令嬢がいるだろ」
「それな、その子が小さい時に怪我したのは知ってるよな」
「まあ、その話は」
確か、顔に怪我をしたって聞いたっけ。
「傷跡が消えそうにないから、通わないって一年前くらいに決まってな」
「代わりにできそうなのがシャールぐらいなんだよ」
「なるほど」
令嬢の傷跡は一生を左右する。それがどれほど小さな傷跡でもだ。
そのせいで嫁ぎ先が決まらないなんて話もあるくらいで、貴族ってのは割と見目を重要視するからな。
ま、俺や父上のような騎士だとむしろ傷は勲章というか誉れになることもある。それだけ生き抜いたってことだからな。
父上が深妙な顔をする。それはまるで子を思って心配するような親といった感じだ。
「お前は仕事と鍛錬ばかりで、同年代の子と遊ぶ時間がすくなかったからな、親としては役割もわかるが、もっとこう友人を作って親交を深めて欲しいわけよ」
「気にする必要ねぇのに」
「そう言うな。なんだかんだで友人はいいもんだぞ。で、やってくれるか?」
「まあ、そんな風にいわれちゃあな」
本当は鍛錬の方が大事だと思うが、将来的に王子に仕える予定となると、変なのが婚約者、ひいては王妃になると大変だし。
まぁ、言わんとするとことは分かるし、こいつだけいればいいってわけではないけど、俺は鍛錬と大人社会にいることが多かったから友人と呼べる相手は少ない。
幼馴染の王子に合いそうな相手を探すくらいはできるか。
俺も変な奴を支えたくないし。
この国は周りの国と比べると婚約がかなり遅い。
昔、平民の少女に王子を筆頭に名だたる令息が次々に誑かされて、婚約者のご令嬢たちに婚約破棄を突きつけたとかで、今の形になったとか。
他国に嫁がせるつもりがなければ、幼少期から学校卒業まで婚約者がいないことが多い。
「そうか、やってくれるか。しっかり聞いたからな」
満足そうに頷き笑った父上の言葉に嫌な予感がして前言撤回しようと口を開くが、一足遅かった。
「やっぱ――」
「――ご令嬢として頼むな。ちなみにこれは陛下からの命令だ」
クスクスと堪え切れない笑いに肩を震わせながら渡され紙には陛下だけじゃなく、王妃や宰相など名だたる名前が書かれていた。
どうやら俺ははめられたらしい。
話は最後までしっかり聞くべきだったと後悔した。