ソフィア皇女がきた理由
まさか本当にやる人間がいるとは思わなかった。
ソフィア皇女と2人、学校の倉庫に閉じ込められることになるとは……。
この倉庫の鍵は外からだけで中からは開けることができないので外からの助けを待つしかない。
黒幕が誰かはわからないが、俺たち2人を倉庫に閉じ込めたのはサミー先生の助手だ。
基本的に生徒を手伝わせることはないが、たまたま通りかかった生徒に手伝いを頼むことはある。
男爵令嬢に手伝いを頼むはいいとして、皇女に手伝いを頼むのはどうだろう。
確かに学生として平等って掲げてはいるが、あくまで建前のようなものでしかないのだ。
気の弱いソフィア皇女は頼まれて断れなかったのだろうことは容易に想像がつく。
サミー先生の助手はソフィア皇女を呼んだ後、俺にも声をかけて倉庫に入れると、思ったより荷物が多いから台車を取りに行くと言って、外から鍵をかけて去っていった。
脱出するにも内側に鍵穴はないから、鍵開けが出来ない。
扉を壊すには少々扉が頑丈すぎる。
俺1人ならこのままでも問題ないがソフィア皇女がいるからな。できるものなら、さっさと出たいが。
使えそうなものはないかと、倉庫の中を見て回っているとソフィア皇女がくしゃみをする。
夏に近いとはいっても、まだまだ寒い。
俺は制服の上着をソフィア皇女にかける。風邪をひかれても困るし。
するとソフィア皇女はポツリポツリという。
「ごめん、なさい。巻き込んでしまって。本当は、わたしがあなたを助けなきゃ、いけないのに」
どういうことだ?ソフィア皇女にそんなこと言われるような人間じゃないってのに。
シャーロットはもちろん、シャールにしてもだ――。
「それはどういうことでしょう」
ソフィア皇女が怯えないように喋り方に注意して尋ねる。
「あなたのお父様から、その、事情を聞いていて……助けてあげて欲しいと、言われていて」
ってことは、ソフィア皇女は協力者か。
そんなことよりも、他国の人間を協力者にするとか、何を考えてるんだ。
「それは、ありがとうございます。ですが、お気になさらず。あれは自由すぎるので」
わずかにソフィア皇女が笑う。
「クレヴァン侯爵様は、我が国に来るたび、いつも楽しい話をしてくれます」
いつも人をからかって遊んでる人がねぇ。
相槌を打ちながら、ソフィア皇女の話を聞く。
「冒険の話をしながら、わたしにも、冒険してみてはどうだろうと、留学の話を、されて」
「それで、皇女はここにきたと」
ソフィア皇女が頷く。
「はい。お父様やお母様、姉様に守られてばかりでは、いけないと」
「とても勇気を必要とされたのでは?」
「ええ、ですが恐れることはないと、家族と、クレヴァン侯爵様に背中を押してもらったのです」
花が咲くような笑顔でソフィア皇女が言った。
「留学を決めたとき、あなたのことを、教えてもらったの。少しだけ、手を貸してやってくれと」
知っていてよく見れば男の子だけど、知らなければ誰もわからないわ、とソフィア皇女はお墨付きをくれる。
この前ルディからもらったウエストポーチから透明の飴氷あめを取り出して、ソフィア皇女と食べながら助けが来るのを待った。
午後の授業に俺が出席してないと知ったルディが、息を切らして俺たちを迎えにきた。
そんな功労者のルディだが、えらく不服そうな顔をしていたと追記しておく。
シャールの父親は人とすぐ仲良くなるため、ソフィアともすぐに打ち解けてました。
人の懐に入るのが上手いです。