自称、深窓の令嬢!
「フレッドさま〜〜〜!」
貴族が多く通う、紳士淑女になるための学校といっても過言ではないこの学校で朝から大声で叫ぶご令嬢が1人。
薄いピンクの長い髪は、走ったせいで乱れていて、同じピンクの瞳は獲物を狩るようにギラギラとして、隠しきれてない。
黙ってフツーにしてれば、それなりに可愛いだろうと予測する。
叫んでいるのは、新一年生で最近貴族になったばかりの男爵家のご令嬢で、呼んでいる相手はよりにもよって王子だ。
呼ばれているのが王子でも、公爵家のような身分高い家でなく、爵位の低い家ならみんな彼女のことをちょっと元気すぎるご令嬢と見て、それで終わっただろう。
王子の許しがなければ王子の名前を気安く呼ぶのは不敬にあたる。
驚きと怒りを込めた視線に気づかず、元気すぎるご令嬢ことハリエットは、こともあろうか王子の側まで駆け寄り腕を掴み、自分のない胸を押し付ける。
去年から思うが、一緒に通ってる王子の従者たちは油断しすぎだ。
貴族の子供が多いから警備はしっかりしてはいるが、万全なわけじゃない。もしもがあるのだ。
意外とポンコツだからな王子は。
さて、ハリエットを注意するにしてもシャール姿じゃないからな、下手に手出しできないし、そもそも聞き入れてくれそうもないかんな。
どうしたものかと思案していると、ジョルジュがハリエットと王子の前にやってくる。
王子に一礼して、ジョルジュはハリエットに話しかける。
「そこの麗しいご令嬢」
麗しいと言われたハリエットは上機嫌に返事をする。
「なにかしら」
「それは淑女の振る舞いとしてはふさわしくないのではありませんか」
上辺だけのようなキラキラしさを纏ったジョルジュは、いつもの軽さのない落ち着いた声音で言った。
ハリエットは目を釣り上げる。
「うるっさいわね。あたしはか弱い深窓の令嬢なのよ。それに妻になるんだから、あってんのよ、これで」
ジョルジュは声を出さず可笑しそうに笑った。
彼女は言葉の意味を理解してるのか。
ハリエットはジョルジュにガンを飛ばす。
「なによ」
「愛しの王子様が困惑していらっしゃるようだが」
言われてハリエットが王子を見る。
爽やかな笑み以外滅多に表情を出さない王子の顔が引きつっている。
ハリエットは羞恥に顔を赤くして、走り去って行った。
息を吐き出したジョルジュは、自分の役目ではないと小声で呟いて、王子の方へ向く。
「僭越ながら王子。窮屈な思いをさせてしまうこと重々承知しておりますが、校内でも必ず護衛をおつけください。彼女が元気なだけのご令嬢で良かった」
「心配かけてしまったな」
ジョルジュの言葉を理解した王子は、静かに言う。
「教室まで参りましょうか」
さっきまでの空気を変えるように、ジョルジュは明るい笑顔を見せて、王子を教室まで連れて行く。
それから、厳重注意を受けた王子の従者たちは、連日訪れるハリエットの対処に頭がいたいと嘆いていた。
ハリエットは乙女ゲー転生の勘違いヒロインのみたいですね。