ちょっと待て
放課後、ルディと今後の作戦会議のために俺の家に向かう。
自宅の使用人は俺の女装について事情を知ってるし忠誠心が強く、口が固いので外に漏れることもないのでそのままに家にルディを連れて帰る。
もっとも、面白いので口外しないといった風が正しい気もするが。
今も俺が帰ってきたのに気づいた掃除中の使用人は『おかえりなさいませ、シャーロットお嬢様(笑)』である。
一応、立場はわきまえているものの、怒られないラインを見極めてやっているからタチが悪い。
そのため、クレヴァン家の使用人は優秀だと評判なのに羨ましがられることも引き抜きをしようとする声も一切ない。
褒めてもらえるのは忠誠心だけだ。
いつもの動きやすい格好に素早く着替えて客間に行けば、ルディは大人しく本を読んで待っていた。
控えめなノックの音がして、お茶を持ってきた使用人(男)が入ってくる。
「失礼いたします」
客人を歓迎するような柔和な笑みと声音は、俺とルディの顔をみて露骨にがっかりした顔になり、声のトーンも落ちる。
「なーんだ、ルディ様でしたか。てっきり、シャーロット様のご友人かと思ったのに」
「ここに連れてくるわけないだろ」
「目の保養、出来ると思ったんですけどね」
この家に連れてこれるわけがないのを分かっていて言っているはずなのに、残念がっている。
「相手がルディ様なら、ご自分で入れてくださいね。オレ忙しいんで」
必要なものが載ったトレイをテーブルに置いて、音もなく部屋を出て行った。
仕方なく自分で紅茶を淹れる。
うちは使用人の人数が少ないから、忙しいのは確かだしな。
「ルディが入学してくるとは驚いた」
「それは僕の華麗な話術で説得したからです」
ルディが胸を張るので、どうやったか尋ねてみる。
「へぇ、どんな?」
「精霊に教えると。シャール様のお気持ちを無視してやっていると知ればどうなるでしょうねとお伝えしただけです。いけすかないといえど、シャール様に関してだけは気が合いますので」
いや、それは――。
「話術じゃねぇ、脅しだ」
精霊は昔からこの国を守ってくれてる存在で、本来は王家の人間に加護がつくのだが、王子のやらかしに巻き込まれて今現在、俺に加護がついている。
ルディと精霊はケンカ友達のような、兄弟のような関係で、俺のことに関しては意気投合している。
ちなみに俺を巻き込んだという理由から、ルディは王子に敬意はあまり払わない。クレヴァン家の使用人みたくなる。
「そうでした。シャール様こちらを」
ルディはカバンからウエストポーチを取り出して俺に渡してくる。
「これは?」
「簡易的なものですが、役に立つかと思いまして」
開けて中を見る。
中には救急セットやカトラリー、即効性の痺れ薬の塗られた針などが入っている
「制服には仕込みにくいと思いまして、持ち歩けるよう作らせました」
「助かるけど――」
「イザベラ信者の嫌がらせ、ジョルジュ殿の迷惑行為、ポンコツ王子。備えがあれば少しはかわしやすくなるかと」
「ちょっとまて、なんで知ってんだ」
ルディはしれっと言う。
「色々と手段はありますので」
ツッコミをする気もなくし、作戦会議に移る。
本人にその気がある人から候補を探すと決めて、王子の思いを聞くことにする。
それから、協力者探し。
ルディの提案で、父上が協力者に選びそうな相手、変わり者と呼ばれる人たちを調べて見ることにする。
ルディの殿呼びは、実力をルディが認めていれば呼ばれます。ジョルジュとか。