イザベラ
―――バシャン。
上から落ちてきた水は勢いよく俺にかかる。
イザベラの取り巻きたちはあいも変わらず、嫌がらせを続けてきている。
人通りの少ない場所を通れば大抵被害に遭うが、相手を知りたいので歩くことにしている。
相手は早々に校舎の中に引っ込んでいるので顔を見ることは叶わなかったがまあいい。見当はついてる。
この時間にこの辺りにいる人物は調査済みだ。
それにしても、寒い――。
季節は冬に入りかけで、濡れたまま外を歩くには少々寒すぎる。
予備の制服はないので、制服を借りる為に職員室に向かうことにする。
と、尋問するみたいな声が後ろから聞こえて振り返る。
「そこのあなた、なにをしているの?」
振り返れば、赤髪の縦ロール。
イザベラだ。
つり目は勝気なイメージを人に与え、ツンとした雰囲気は、気の弱い人間なら怯えて蹲ってしまいそうである。
後ろに男の従者(三年生)が一人。
紅茶色の髪を後ろに撫で付けている。
イザベラは俺に近づいて、驚きに目を見開く。
「あなた、びしょ濡れじゃない」
すぐ後ろに控える従者にテキパキと指示を出すイザベラ。
「ピエール、すぐに着替えさせてちょうだい。このままじゃ風邪をひくわ」
「わかりました。ご令嬢、こちらへ」
俺はピエールについて行く。
案内されたのはカーテンの仕切りがついた部屋だった。
「手が必要な場合はお呼びください。まあ、あなたには必要なさそうですが」
案内された部屋で、渡された白の制服に着替える。
途中で新品の下着が放り込まれる。
仕切り越しにピエールに話しかけられる。
「事前に聞いていなければ、私も騙されていたでしょうね」
笑いの混じった声。堪えようとしているが堪えきれてない感じの。
「じゃ、あんたは協力者か」
「ええ。ちなみに三年生の協力者は私一人です。これはお伝えしても構わないとのことです」
「そっか。助かる」
着替えてピエールの前に立った俺は疑問を口にする。
「なんであんな場所にお嬢様が?」
あの道は人通りの少ない場所で、そもそもあまり使われない教室が多いので、ほとんど誰も近づかない場所だ。
「あなたこそ、なぜあのような場所に?」
「一人になりたいときもあるからな」
「そうでしたか」
淡々と返されるがおそらくこのやり取りで理解しているだろう。
それからピエールはクスリと笑ってイザベラがいた理由を教えてくれた。
なんでも先日猫を追いかけてあの場所に行ったらしく、また会うために訪れたらしい。
相変わらず動物には懐かれにくいようで、足繁くあの場所に通っているらしい。
イザベラのもとに行って、お礼を言う。
とても心配してくれていた。
その際、ピエールに言われた言葉を思い出して尋ねてみる。
というか、視線が聞けと訴えている。
「どうしてイザベラ様はあの場所にいらっしゃったのですか」
するとイザベラはちょっぴり頬を赤くして毅然とした態度でいった。
「ちょっと落し物をしただけだわ」
イザベラの後ろに控えるピエールに視線を移すと、笑いをこらえて肩を震わせるピエールがいた。
エメリたちが俺を探す声がして、いってあげなさいとイザベラが優しく言った。
俺は一礼してエメリたちのもとに向かう。
その姿を見送ったイザベラはピエールに高貴な声音で仕事を言いつける。
「犯人を見つけ出してちょうだい」
翌日から、イザベラの従者による犯人を探しが始まった。
それから、しばらくして嫌がらせはピタリと止んだ。
イザベラは猫に懐かれたい。