ホットココア
昼下がりの冬、曇天の空の下で公園のベンチにぼんやりと座っていると、目の前にいきなりマグカップが現れた。
「ありがとう」
戸惑いつつもそれを受け取ると、容器には茶色い液体がたっぷりと入っていた。つかんでいる両手がじんわりと温かくなってくる。ありがたい。
マグカップから出てくる湯気の向こうには、あれだけ長時間歩いたのにまだ立っている彼がいた。
「疲れない?」
同じ距離を歩いたんだよね? と疑問を抱きつつ、相手を心配して聞いてみると、
「別に」というそっけない答えが返ってきた。鋭い光をたたえた瞳。それに合う様につくられた様な顔だと、そんな返答でも当たり前だと思えてしまう。当たり前だと思わない様にしなくては。
「あのさ、一緒に座らない?」
寂しさと、そして彼が何処かに行ってしまう様な、なんともいえない不安から私は彼に声をかけていた。無言で頷いて右隣に座った彼に、安心する。よかった、彼はちゃんとここにいる。
存在を確かめる様に軽く触れた手を握る。やさしく、慈しむ様に。
彼も不安だったのだろうか、握ったら彼も同じ位力をいれて私の手を握り返してくれた。心の中に、あたたかさが広がっていく。
昼下がりの冬、曇天の空の下、公園のベンチで寡黙な彼とこうしているのも悪くはないと思った。ずっと、二人でいられればいい。
そっけない返答は、直させていくつもりだけど。
飲んだ液体は甘くて、温かくて冷えた身体をじんわりとあたためてくれる。まるでそれは、彼の様だと思った。
感想、特にアドバイスがあれば、作者に教えてください。失礼しました。