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第8章~表の世界でのテロリスト~

 「アーテー」での歓迎会が終わったのが、翌朝の午前5時。サンガンピュールとかんなの2人はようやく解放されたのだった。


 だがその日の夜10時頃。急に彼女の携帯電話の着信音が鳴った。

 「すぐにアジトに来なさい、井波未来!」

 その声は、久米奈緒美だった。

 「・・・はい?」

 聞き慣れない偽名で呼ばれたサンガンピュールは一瞬、何のことだか分からなくなった。これに対して、

 「私よ、私!久米奈緒美!」

 「アーテー」のリーダーは丁寧に自分の名を名乗った。

 「・・・久米さん!?」

 サンガンピュールは慌てふためいた。

 「正式にアーテーのメンバーになったんだから、今すぐと言ったらすぐよ!」

 突然呼び出しを受けた彼女は、Kに詳しい事情も言えないまま、夜の町へ飛び出していった。

 「ごめん、おじさん!これから出かけてくる!」

 「どこへ?」

 Kは真剣な面持ちで聞いた。いくら町を守るスーパーヒロインとはいえ、普通なら中学生の女の子が出歩いて良い時間ではない。

 「『アーテー』のアジト!あの女のことを探ってくる!」

 「アーテー」という組織のことはKや市長に報告済みだ。

 サンガンピュールは自宅を出ると、すぐに朝霧かんなに報告した。母娘であることを装うため、一旦別の場所で落ち合い、桜町3丁目の「アーテー」のアジトに向かった。


 午後10時15分。サンガンピュールはひとまずアジトのドアを開けた。

 「遅かったわね」

 「井波母娘」の到着を待っていた久米は不機嫌そうに言った。これに対し、母親役のかんなは

 「・・・ごめんなさい。突然の電話で慌てふためいちゃって・・・」

 と上手く状況を説明しようとした。しかし、

 「言い訳は許さないわ!」

 久米はかんなの発言を遮って言った。しかしその直後、

 「・・・まぁ、いいわ」

 とつぶやいた。

 「今から明日のミッションを伝えるわ」

 サンガンピュールとかんなによる「井波母娘」が固唾を飲んで、命令を待った。


 「明朝6時50分に、土浦駅東口に集合すること。以上」


 久米は端的に指示を伝えた。だが、

 「・・・それだけですか?」

 サンガンピュールが質問した。これに対し、

 「・・・それだけよ」

 久米は念を押した。続けて、

 「どうかしたの?」

 と質問した。

 「そんなの、ケータイやメールでやればいいんじゃ・・・」

 サンガンピュールが意図を聞いたところ、久米が興奮した。

 「じゃあ、警察にバレてもいいってこと?盗聴の危険があるから、私は電話やメールでは最低限のことしか言わないの!」

 このような状況にもかかわらず、母親役の朝霧かんなは微動だにしない。さすが市長秘書である。

 「・・・分かりました。明朝6時50分に集合ですね」

 「井波やよい」と名乗るかんなが確認した。

 「そうよ、やよいさん。でも私に同じことを二度も言わせないように」

 「・・・すみませんでした」

 「・・・では今日はこれで解散よ」

 アジトに集合していたメンバーは各自、帰宅する準備を始めた。そして帰り際、周囲をキョロキョロしながら退出していったのが印象的だった。


 8月9日、土曜日。朝7時。

 サンガンピュールと朝霧かんなが潜入した「アーテー」は、意味分からなさそうにゴミ集めをしていた。

 土浦駅東口で空き缶、ポイ捨てされたタバコ、謎の成人向けマンガといったゴミを拾う活動だ。ボランティア活動。リーダーである久米奈緒美は麦わら帽子やサングラスで変そうしている。メイクもしていないこともあってか、手配書の写真とはかなり印象が異なる。

 そう言えば土浦駅の東口の方に出るのは初めてだ。裏口だから全く気にかけていなかったのだ。駅東口には貨物ターミナル、駐車場、コンビニしか目立ったものがない。大規模な商業施設や商店街は西口に集中しているので、存在感がまるで無いのも無理もない。だが霞ヶ浦に面している漁港が近いせいか、夜中から朝方にかけて、漁港で働く人が捨てたと思われる空き缶、タバコなどが目立ってしまっている。

 「アーテー」は表向き、町の清掃活動などを積極的に行うボランティア団体として認知されている。そして、

 「そこ!タバコがまだたくさん落ちてるわよ!」

 変装した久米が積極的に指図している。結局、ゴミ拾い活動は朝8時前には終わった。


 早朝、何かしらの美化活動。帰宅後は夏休みの宿題を進めた後に少し昼寝。夜は「アーテー」に呼び出されてメンバーとおしゃべりを楽しむ・・・という生活が、1週間ほど続いた。そんな生活をつづけたサンガンピュールは朝からあまりにクタクタ、寝不足気味。その中で謎の女科学者の元への潜入調査というのだから、気が休まる瞬間がほぼ無かった。親友・あずみから「プールに出かけて遊ぼう」と言われても断らざるを得ないほど、ハードな期間であった。

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