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第4章~女の正体~

 8月6日、水曜日。

 謎の女の正体について警察に照会して4日が経過した。その間にもサンガンピュールは独自に桜町3丁目の辺りをパトロールと称して見回っていた。だが、まだ12歳という彼女の調査力では限界があるのか、進展なし。パトロールをやる度にKに相談するも、

 「ここは茂木さんたちを信じろ。その間に、自分のできることをしなさい」

 と、なしのつぶてであった。

 「あたしのできることって・・・」

 思い詰めるほど空回りしてしまう彼女である。


 午後2時過ぎ、サンガンピュールの携帯電話に着信が来た。電話の相手は茂木だった。

 「Kさんの言っていた謎の女についての詳細が判明した。すぐに土浦警察署に来てくれないかな?」

 「そうですか、分かりました。すぐ行きます」

 「ありがとう。あっ、ところで・・・、Kさんはいる?」

 「いいえ。おじさんは今、東京へ仕事に出かけています」

 それを聞いた瞬間、茂木は「やっぱり」という口調で答えた。

 「そうだったね。ダメもとで聞いてみたんだ。出来ればKさんにも一緒に来て欲しかったんだけどなぁ」

 生憎、Kは原宿のゴールデン出版で絶賛仕事中である。お盆休みは13日からだ。Kにとってももどかしいだろう。そこでサンガンピュールは茂木との通話を一旦切り、Kの携帯にかけた。Kは案の定、原宿の事務所で勤務中だった。

 「もしもし」

 「もしもし、おじさん!?」

 「おう、サンガンピュール、どうした?」

 「聞いて、今すぐ土浦に帰ってこれる?」

 Kはいきなり無理難題を養子から突き付けられた。

 「無茶言うなよ。俺、6時まで仕事なんだよ」

 「だってさ、あの女の正体が判明したかもだって。だから、茂木さんからも警察署に来てほしいって」

 その時、Kの口調が変わったように聞こえた。Kが事務所の中で、人気の無い場所へ移動しているせいか、反応が遅かった。

 「ついに分かったのか、あいつの正体が?」

 「そうらしいよ」

 「・・・そうか、そうだよな。言い出しっぺだから責任持たなきゃな、俺は」

 サンガンピュールはKと少しやりとりした後、電話を切った。どうやら、今この時間に原宿から土浦まで約70キロもの距離を戻るのは絶対に無理だと分かった。彼女は改めて茂木に電話をかけたところ、彼女だけでも来てほしいとのことだった。

 自宅がある千束町から土浦警察署までは近い。国道354号線を北東へ進めばそれでいいからである。サンガンピュールは2時半には警察署に到着し、茂木に挨拶した。だが一方でKはどうするのか。茂木は「大丈夫だ、刑事さんに任せろ」と言った。彼は午後3時前に覆面パトカーに乗り込み、警察署を出発した。銀色の覆面パトカーの見た目は、ちょっとした高級セダンだ。

 「茂木さん、どこへ行ったのさぁ・・・」

 サンガンピュールは呆れつつも待った。

 それから約4時間後。

 「茂木さん!?それに、おじさん!?」

 彼女は驚いた。なんと、茂木はKを原宿から覆面パトカーで連れてきたというのだ。これはもちろん事前に茂木とKの打ち合わせ通りだ。Kは無理やり定時で退勤させてもらうと、明治通りで待機していた覆面パトカーに乗車したのだ。

 「そうか、それでだったんだ・・・」

 覆面パトカーで手っ取り早く証人を運ぶ。サンガンピュールにその発想は無かった。自分の発想の浅さに少し驚いてしまった。


 いずれにしても、サンガンピュール、K、茂木、そして市長秘書・朝霧の4人は土浦警察署で落ち合った。そして職員の案内で署長室に招かれた。そして4人は署長の口から謎の女について衝撃的な情報を聞くこととなった。

 「本日はお忙しい中、お越しくださいましてありがとうございます」

 署長がひとまずお礼の一言を伝えた。いよいよ本題だ。

 「この度、土浦警察署にとどまらず、茨城県警本部や警察庁にも問い合わせて全面的に調査しました。その結果、Kさんが指摘した女の素顔を暴くことができました」

 室内の全員が固唾をのんで待つ。

 「彼女の名は、久米奈緒美(くめ・なおみ)。ここからは…特に男性の皆さんは心して聞いて下さい」

 所長はまた、一呼吸を置いた。よほど過激な人物らしい。


 「彼女は過激なフェミニスト団体の中でも、超過激な分派に属する科学者です。彼女の主張はこうです。『戦争や飢餓、差別といった悪の現象を生み出す根本的な原因は、男社会にある。この現状を打破するには男から権力を奪取するだけでは足りない。地球上の全ての男たちを抹殺することで、初めて地球上に真の平和が訪れる』」


 この恐ろしい主張に4人は愕然とした。署長の発表から1分ほど経過した後、

 「『地球上の全ての男たちを抹殺することで、真の平和が訪れる』!?何、変なこと言ってんの!?平和どころか、世界が荒廃しちゃうよ!」

 サンガンピュールが声を荒げた。彼女は署長の話を聞き終えてしばらくは、言葉を飲み込めずにいた。しかし、事の重大さを知って、大パニックにならざるを得なかった。さらに署長はこう付け加えた。

 「さらに彼女は、過去に国会議員の暗殺未遂事件を起こしています。そして傷害罪で15年の懲役刑を経て、去年出所したばかりです。釈放された現在でも、警察庁からテロリストとして徹底的にマークされています」

 「・・・そんな・・・そんな恐ろしい人が、この町に堂々と住み着いていたとは・・・!」

 朝霧は信じられない気持ちだった。

 「同じ女性でも、絶対にその考えに共感できません!」

 朝霧はそう言い放った。

 一方で、茂木は

 「どうやら県警本部、いや、場合によっては国家公安委員会との調整も必要だと思います」

 と提案した。

 「うん、そうだな。どんな理由であれ、自分にとって気に食わない問題を暴力で解決するというテロは絶対に許さない!そうしなければ誰一人として、自分の意見を言うのを怖がる世の中になってしまう。オウム真理教によるテロ事件では何千もの人々が被害を受けた。ニューヨークでのテロ事件では、3000人以上もの人々が亡くなった。オウム真理教やアルカイダといった卑劣なテロ組織が起こした事件は、決して二度と起きてはならないのだ」

 署長が、県警本部の主張を代弁するかのごとく、説明した。

 この室内の誰もが騒然となる中、Kだけは沈黙を守っていた。

 「ねぇ、おじさんも何か言ってよ!」

 サンガンピュールはKに対して発言を迫った。すると、

 「・・・いいからって!・・・すみません、僭越ながら私から提案があります」

 その時、Kが誰もが驚く提案をした。


 「無理かとは思いますが、サンガンピュールを偵察に派遣してみませんか」

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