第2章~猛暑の中の外出~
8月2日、土曜日。
Kが朝7時過ぎに起きてきた。パジャマ姿のまま、朝食の支度をする。昨夜は何かあったな・・・と思っているが、まだ思い出せない。昨夜飲んだアルコールが抜けていないのだろうか。コーヒーを淹れ、トーストパンの準備を整えると、居間にあるテレビのスイッチをリモコンを通して入れた。ホッとする時間である。
「続いては、スポーツです。まずはプロ野球ですが、余りにも一方的な展開でしたね、昨日のホークスは」
「はい。まずは昨夜、神戸のヤフーBBスタジアムで行われた、オリックス対ダイエーの試合のハイライトをお送りいたします」
司会の女性アナウンサーと、スポーツ担当の男性アナウンサーの掛け合いがテレビ画面に映し出されていた。この光景を見て、Kは昨晩のことを少しずつ思い出した。そういえば途中経過しか聞いていなかったな。あれからどうなったんだ。
29-1で、福岡ダイエーの勝利。
Kは呆然と見つめるしかなかった。7月27日に福岡ドームで行われた試合で、ダイエーは同じオリックス相手に26-7で圧勝した。サッカーファンとしては考えられない点差だった。
続いてサンガンピュールも起床。居間にやってきた。
「おじさん、どうなったの?」
パジャマ姿のサンガンピュールは居間に入るなり、Kに質問した。
「ちょっと・・・。先に、挨拶!」
Kが挨拶を求めた。ただ強ければ良いという人間に育ってほしくない。彼女にそんな思いを込めた。
「おはよう」
「おはよう。それで、何がどうなったの?」
「そうそう、おじさんが昨日話した、女の話!」
「女の話・・・?」
Kはすぐに思い出せない状態だった。
「ほら、『ウィルスを作る』とか『男を消し去る』とか・・・」
サンガンピュールにそう言われた後、Kはあっという間に目が覚めた。はっとした。そんな重大な光景を聞いたんだ。
「おじさん、急ごうよ!市長さんや警察に相談を・・・」
「待て待て。待つんだ」
Kは養子を落ち着かせた。
今日は土曜日だ。サンガンピュールはもちろんのこと、自分も自宅にいるつもりだ。でも殺人ウィルスを開発するという女はどうするのか。警察はすぐに動いてくれないのだろうか。もどかしい気持ちになった。
だが、何も行動しないよりは、何か行動を起こした方がマシだ。サンガンピュールは自分の携帯電話から、市長室に向けて発信した。だが、土曜日の朝8時半であるせいか、市長室へは電話が繋がらなかった。そこで、土浦警察署の刑事課の番号へと電話をかけた。
「はい、土浦警察署・刑事課です」
「もしもし、おはようございます」
「おはようございます」
「茂木さんはいますでしょうか」
「茂木ですか・・・?少々お待ちください」
しばらくして、彼女と面識のある刑事・茂木が出てきた。
「もしもし。おはよう、サンガンピュールちゃん」
「茂木さん、おはようございます」
「おはよう。ちょうど今、そっちに連絡しようと思ってたところなんだ。市長さんから話は聞いたよ。昨日言っていた、『殺人ウィルス』を開発している女について詳しい話が聞きたいので、これから警察署に来てくれないかな?」
本格捜査が始まろうとしていた。急いでサンガンピュールとKの2人は身支度を済ませ、土浦警察署へ向かった。
この日の土浦は朝から暑かった。2人は午前9時に自宅を出たのだが、その時点で気温は35℃に迫ろうとしていた。
「あづ~~」
サンガンピュールは思わず弱音を吐いた。
「そんな格好じゃあ誰もが汗だくになっちゃうよ」
Kが冷静なツッコミを入れた。茶色の戦闘服姿で外出したサンガンピュールは、両袖を捲り上げ、ノースリーブに見える形で歩いていた。土浦ニューウェイの高架下をしばらく歩いていても、このような状態であった。
土浦ニューウェイの高架橋から道を外れ、八間道路を東へ進む。しばらく歩くと「高笑いの目撃現場」が出てきた。場所は、土浦市桜町3丁目の13番地。Kは昨晩、この辺りで女の高笑いを聞いたのだ。駐車場になっている土地の少し奥にある事務所から笑い声が聞こえたのだと言う。サンガンピュールはその事務所の入り口に突撃してみた。今回はコンビニで購入の使い捨てカメラを持参したKも続く。だが・・・。
「・・・おかしい。中に人のいる気配がない」
サンガンピュールは入り口を前につぶやいた。続いてKも
「確かに。・・・ドアの鍵もすごく複雑だな。3種類もあるし・・・」
とつぶやいた。その後、使い捨てカメラで写真を何枚か収めた。だが、
「待って!おじさん、今は危ないよ!」
サンガンピュールはそれ以上の撮影を阻止した。
「おじさん。誰かが見てるかもしれないよ」
危ないところだった。ここで変な奴に見つかったら、一巻の終わりだ。取り敢えず、撮影と場所の特定を終えたところで、土浦警察署への道を急いだ。