92・それぞれの対面
エーレスト山。
山脈に属する山ではなくその周辺を森と平原と湿地帯に囲まれており、その中にポツンと一峰だけ存在し、6000メートルを超える雄大な姿で聳える霊山である。
その麓の平原の一つ、ルクッラ平原に1カ所人の手が加えられた人工物がある。
人工物といっても決して大袈裟な物ではない。杭を打ち、その杭の上部を細い丸太で繋ぎ、それに白い横幕を縛り付けただけの仮設の柵が四角く設置されていて、その中央には大きな白い天幕がやはり仮設に設営されていた。今回の会談の為に作られた施設である。
天幕の中に机はなく、簡素の椅子だけが2列並んでいる。
その椅子の片側だけに俺達は並んで座った。
真ん中にライオルが座り、右から順に俺、マリ姉、メソが座り、左にはシヴァル、タツキの順で座った。
俺の後ろにはルル、ポンキチ、ラスリル、マリ姉の後ろにガラジャ、クネクモ、メソの後ろにシザール、エア、そしてタツキの後ろにリリ、キキ、トトの三姉妹が控えている。
ライオルの連れてきた150人の獣人護衛団は、天幕の外を囲む仮設柵の更に外側に並んで立っている。
俺達の向かい側の椅子の列には誰もいない。俺達サバルナ獣人国側が先に着き、エルファリア側を迎える形になっている。
「ナスカ、シヴァル、エルファリア側が到着したら俺様が最初に話し始める、その後もなるべく俺が話しをするから、二人は黙っているように努めてくれ」
「了解した」
「わかってるよ」
今回俺は、なるべく話さないつもりで来ている。念を押されるまでもない。
「ライオル様、エルファリアの連中の姿を確認致しました」
「わかった、退がれ」
「はっ!」
仮設柵の横幕を潜って報告した獣人兵を退がらせて、ライオルが立ち上がった。俺達もバラバラと立ち上がる。
暫く待つと、向かい側の仮設柵の横幕がクルクルと巻き上げられ、それを二人の軽鎧を着たエルフが両脇から押さえる。その間を通って一際豪華な衣装を纏った女性のエルフが現れた。
誰に聞かなくてもわかる。その纏っている空気、威厳が違う。間違いない、この女性が【エルフ女王】エレンスィリアだ。
睨みつけるライオルを無視するかのように、目を逸らしたまま向かい側の椅子へと移動する。
その後ろからもう一人女性が現れた。銀髪赤目に口元の小さな牙、シヴァルに似た雰囲気を持つ黒いマントを羽織った美しい女性。
こちらも間違いないだろう、シヴァルの母親【麗美なる吸血姫】ヴィア。
美しい吸血姫は、シヴァルに向けて微笑みながらエレンスィリアの後に続いた。
次に現れたのは男性だ。180センチくらいの長身の美男子。蒼髪蒼目でシヴァルとは違うが、顔はどことなく似ている気がする。
『マスター、内に秘めた闘気、魔力量が桁違いです。間違いなく彼です』
ナビさんに言われるまでもなく気づく、この男が今回の要注意人物。【討魔の英雄】ランスロードだ。
「よおっ!」
シヴァルの睨みつけるような視線に気付いたランスロードが、気さくな感じで声を掛けたが、シヴァルは口籠るように「チッ」と舌打ちしただけだった。
シヴァルは父親に反発しているが、父親の方には嫌悪感など微塵もないみたいだ。寂しそうにトボトボと席に向かうその姿には同情してしまう。
ランスロードの次に仮設柵を潜るのが。
「あ〜、お兄ちゃんだ! お兄ちゃんだ!」
「ま、マリンちゃん! マリンちゃんがどうして此処に?」
シヴァルが驚きの表情を浮かべ、向こう側ではシヴァルの下へ駆け寄ろうとする小さな女の子をメイド姿のオークが「いけません」と止めている。
「どういう事だよお袋! なんでマリンちゃんをこんな所に連れて来た!」
「五月蝿いわね、マリンがあんたに会いたいって着いてきたのよ、少し落ち着きなさい」
「会いたいって、マリンちゃんが怪我でもしたらどうすんだよ!」
「まあまあシヴァル、久しぶりに会ったんだから」
「親父は黙ってろ!」
「黙ってろって、そんな怒鳴んなよ」
ランスロードがまたシュンとしてしまった。本当に強いのかよこの人、まあ強いのはヒシヒシと感じてるんだけど。
「シヴァル、今は控えてくれるか? この場は俺様にとって大事な場なんだ」
「あ、ああ、すまねえ、つい、な」
苦虫を噛み潰したような表情で言うライオルに、シヴァルが軽く頭を下げた。
「お兄ちゃん、あのね」
「後になさいマリン、今は駄目です。言う事を訊くっていう約束でしょ」
「はい、ママ」
母親に注意されて女の子がシュンとしてしまって可哀想だけど、まあ仕方ないかな。
でも、シヴァルの妹か、すっげえ可愛い娘だな。
一悶着あったけどエルフの護衛団を仮設柵の外に残して、エルファリア側も席に着いた。
ライオルの向かい、中央にエレンスィリアが座り、俺の向かいにはランスロード、そしてその隣にオーク、といっても恐らくは特殊個体だろう。シヴァルの向かいにはヴィア、その隣にいる男は何だろう、人間みたいだけどよくわかんないな。更にその隣にメイド服を着たオークが座り、そのオークの膝の上にシヴァルの妹(マリンちゃんって言ったっけ)が座る。
『ランスロードの隣のオークはオークジェネラルですが、戦闘力はオークロードに匹敵すると思われます。マリンを抱えているオークも特殊個体ですが、鑑定結果はオークメイドという未知の種族名を表示しました。戦闘力も測れず未知数です』
『そしてヴィアの隣の男ですが、おそらく人間ではありません。ですが鑑定は打ち消されました。鑑定不能です』
ナビさんが測れないって、それに鑑定不能って何者だよ!
席の後ろに控えてる者達も只者ではなさそうだな。天幕で頭が隠れるギリギリのギガースとオーガ、そしてギガース以上の巨体で天幕で肩から上が隠れてしまっている巨人族が2体とそれに匹敵するほどの巨大な馬が2頭いる。
『ギガースはグレートギガース、オーガはオーガファイター、共に特殊個体です。2体の巨人族と2頭の巨馬はベルグレシとスレイプニル。特殊個体ではありませんが、この地上での最上位種といって支障はなく、その中でも上位の存在ですね』
『どっちにしろ全員強いって事だろ』
『はい。ですがマスター、あの謎の男は測れませんが、マスターの相手を出来るのはランスロードだけと思われます。タツキもこの中で飛び抜けた存在ですし、マリ、メソの潜在能力も未知数です。戦力はこちら側が圧倒的に有利という試算が出ています』
『だと良いんだけどね』
サバルナ獣人国側とエルファリア側とが全員集まり両サイドに分かれたが、挨拶は行われないみたいだ。
ライオルが最初に立ち上がって口火を切った。
「早速だが、ニーズヘイル様を迎える為の話し合いを始めたいと思」
バヅン!
痛っ! な、なんだ! 突然、頭の中に太い針を突き刺された様な感覚に見舞われた。
周りを見渡すと誰もが頭を押さえている。な、なんだったんだ、今の!
「貴様! よくもラスリルを! 許さんぞ!」
「え、ちょっとルル、どうしたんだ!」
「あんたら! マリン様に何しはるかあ!」
「ちょ、トラさん、ちょっと待って!」
「ガアアァァァ!」
「ぬりゃああぁ!」
ルルとオーガがお互いに飛び出して、空中で激突した。
「奥様に手を出すな〜!」
「リリ姉さんをよくも〜!」
ギガースとトトもか!
改めて周りを見渡すと敵も味方も殺意を浮かべてイキリ立っている。
な、何が起こってるんだ!
遂に[能力はチート・・・]とのリンクが始まりました。
2作品同時系列での創作作業は初めてで不安もありますが、これがやりたくて2作品の同時連載をしてたので、頑張ります。
誕生日投稿スペシャル15時台の投稿です。
この作品自体では本日4回目の投稿になります。
なんとか15時台に投稿出来ました。もう次の[能力はチート・・・]への原稿を16時台に書き上げるのは不可能なので24回投稿は出来ませんでした。でも今日中にあと何本かは投稿しますよ。まだ頑張ります。
☆
【作者からのお願いです】
読者様からの反応を何よりの励みとしています。
ポイント評価、ブクマ登録、感想、レビュー、誤字報告を頂けますと、創作意欲のより一層の向上に繋がります。
お手数だとは思いますが、何卒宜しくお願いします。
連載中[能力はチートだけど・・・]
この小説とリンクする作品です。
↓
https://ncode.syosetu.com/n8548fz/
互いに独立した自己完結する作品に仕上げる予定です。
こちらもよろしくお願いします。




