73・プレイバックパート2
いよいよイスラン定例会議の開催です。
今回からはマリ目線でお送りします。ちょっと長いです。
セントラルチェン市のラース王城東側の王城前広場。その向かい側に建つラシリア大陸東南諸国連合本部棟。
この本部棟の3階本会議室にて行われるイスラン定例会議。
開催国であるラース王国以外の、各国の代表団は既に着席している。
「ベダムの女王様よお、今回の会議にはルタの坊さんは出席しないのか?」
シヴァルが軽口を叩くように、ベダム王国のホミン=ベダム女王に質問する。
「相変わらず口の利き方を知らないようですね、シヴァル王。ルタ提督はベダム本国でやる事があるようなのでね」
「それよりもアスリ獣国の代表団の中に、国王の姿がないようですが? 今回の議題をわかっておられるのですか、アスリ獣国は?」
「今回の定例会議については、私が弟より一任されているので心配は無用に願いますわ、ホミン女王」
私とホミン女王の視線が一瞬だけ交わされたが、私の方から視線を外して冷静に躱した直後に、会議室のドアが開く。ホミン女王、なんか嫌な感じの女だな。
「遅くなりました」
ボボロン理事の声と共に二人のラース王国選出理事が入室する。その後ろからは、なんか派手な出で立ちで太ったオバサンのガトリーマム代表。そして。
「本日はよろしくお願いしますね」
和かな笑顔を浮かべながら、丁寧な言葉で挨拶しながら入室する青年。
20代中盤くらいだろうか、中肉中背の人の良さそうな笑顔以外に特に特徴のない青年という印象を受ける。
ラース王国第1王子、カール=メルジ=ラースだ。
その代表団の四人は議長国の席に並んで座る。ラース王国は、今回の定例会議の議長国である。
席に着いて早々にボボロン理事が立ち上がる。
「今回の定例会議の進行を務めます、議長国、ラース王国選出理事のボボロンです。よろしくお願いします」
「カール殿下、議長国として会議の開催宣言をお願いします」
「はいはい、了解しましたよ」
指名されて、カール王子も立ち上がる。
「僕は、今回ラース王国の代表として選ばれました、ラース王国の第1王子、カール=メルジ=ラースです。議長国代表としてイスラン定例会議の開催を宣言します。皆さんと奇譚のない意見を交換し合い、良い会議となるよう努力します。よろしくお願いしますね」
パチパチパチパチパチパチ
本会議室は拍手に包まれる。ラース王子は終始笑顔を浮かべたままだ。その笑顔が、私には何故か嘘臭く見えた。
「ではさっそく、定例会議を始めさせていただきます。各国の代表団も本会議の最も注目される議案についてはご承知の事と思います」
「勿体ぶる事でもないでしょから、その議案から始めてまいります」
「ドゥイルンド王国のバラサ代表、貴国より提出されている議案について、正式な表明をお願いします」
ボボロン理事の言葉に淀みがない。
ラース王国側でも、事前に今回の会議への対策を充分に行ってきていると見た方が良いようだ。
「ドゥイルンド王国代表のバラサです。ドゥイルンド王国は、アスリ獣国に対して亜空間トンネルやライブフィードといった新技術の不法な専横を直ちに取り止め、速やかにその全ての権利をイスランに譲渡するよう求めます」
バラサ代表の発言を受けて、ベダム王国の選出理事であるアノイより手が上がる。
進行役の「発言を認めます」の一言でアノイ理事が発言を始める。
「わが思いますに、アスリ獣国のこれまでの専横行為はイスランに対しての経済侵略に該当します。この意見はわがベダム王国の総意であり、アスリ獣国はイスランに対してこれまでの侵略行為を謝罪し、損害の賠償を行うべきであります」
続いてラース王国のガトリーマム代表が挙手をし、発言する。
「確かにアスリ獣国の行いは目に余るね。ラース王国でも人口は減り続けていて、それらの人々はアスリ獣国を筆頭に、ミィージョ公国、マルサン公国、ジベルト国へと流れて行っている。アタシ個人の意見を言わせて頂ければ、アスリ獣国は勿論のこと、南ニスリーン連合公国とジベルト国にもラース王国に対して、損害の賠償請求をしたいわね」
ボボロン理事が自ら手を挙げて発言する。
「進行役ではありますが、私もラース王国の選出理事として、ガトリーマム代表と同意見であります。カール殿下はどうお考えですか?」
「ああ、君達がそう感じているのであれば、僕はその意見に同意するよ」
「決まりね。アタシ、ガトリーマム代表がラース王国の正式な表明として、先に上げた3国に対してイスラン同様、損害賠償請求を行います」
「お待ち下さい」
ベダム王国のアノイ理事が立ち上がって発言し出した。
「わがベダム王国でも国民は減少しております。ホミン女王、宜しいですか?」
「我が許可する、ベダム王国として表明せよ」
「はい。ではベダム王国も選出理事であるわが正式に表明します。流出先であるアスリ獣国と南ニスリーン連合公国、そしてガリア王国にも損害を賠償して頂きたい」
続いてドゥイルンド王国のバラサ代表が挙手をし発言する。
「ドゥイルンドでも人口は減少しております。流出先であるアスリ獣国とジベルト国に対して、損害賠償請求を行います」
ラース王国側の3カ国は、その後も淀みなくアスリ獣国への不満を捲し立て続ける。
今回、私達の側からは意見を述べずに、ラース王国側に発言させるという方針を取ったのだけど、よくもまあ、ある事ない事喋り続けられるものね。
シヴァルがさっきからイライラしているのが目に付くけれど、他の皆んなは冷静だな。ケヤス将軍などはニコニコと笑顔を浮かべている。
『しかし、面の皮の厚い連中ね。言ってて恥ずかしくないのかしら?』
『あら、アクラさんも聞いてたんだ。ナスカ達の様子はどう?』
『全員もう配置にはついて、アスリ専用ライブフィードでこの会議を観てるわよ。グライスは落ち着いてるけど、ナスカとタツキは苛ついてるわね』
あの二人はしょうがないなぁ。私は大事な会議中だというのに、肩を窄めて苦笑してしまう。
「お聴きの通りに、この本会議の意見はアスリ獣国の専横が侵略行為であるとの意見で纏まっています。アスリ獣国は全ての新技術の権利を放棄し、且つ、損害賠償を支払って、自国の潔白を証明する義務があると思いますが、如何か?」
漸くこちらの意見を聞く気になったみたいね。
予定通りにキュービ兄さんが手を挙げて発言を始める。
「アスリ獣国選出理事のキュービです。理事会でも再三に渡り申し上げてきた事ですが、アスリ獣国に他国を侵略する考えなどありません。又、亜空間トンネルやライブフィードといった新技術はアスリ獣国が独自に開発した技術であり、その運用にも現状アスリ獣国民の力が不可欠である、その利権をアスリ獣国が主張するのは当然の事と思っております」
「我々アスリ獣国は、今迄もその運用を無償でイスランに提供してきており、イスランに対しての配慮は充分に行って参りました・・・」
キュービ兄さんの発言で本会議室はざわつき始め、野次を飛ばす者も出始めた。
発言を続けるキュービ兄さんの前に、私は手を差し出して発言を止める。
「キュービ兄さん、私から発言してもよろしいかしら? ボボロン理事もよろしいですか?」
「どうぞ」
「今回の会議において、弟、ナスカ国王より全権を委任されて参りました、アスリ獣国の副国王を務めております、マリ=クライムフォール=アスリです」
『カマしてやんなさい! マリ!』
『モチロン!』
「この度アスリ獣国では、亜空間トンネルとライブフィードの運用に関して、今迄の国家間の不公平を無くす為の方策を決定し、施行する事となりました。その資料も作成して参りましたのでお配り致します」
フェリが資料の束を持って立ち上がり、出席者全員の前に配り始める。
「な、なんだこれは!」
「バカな、あり得ない!」
「横暴だ! 横暴に過ぎる!」
ラース、ベダム、ドゥイルンドの3国の代表団が青い顔して騒ぎ出すが、それらを無視して、私は話しを続ける。
「先ず、亜空間トンネルの運用ですが、アスリ獣国ならびにイスラン各国は互いに10%関税を払うものとします。又、その運用に関わった者に対しても正当な報酬として賃金を支払います。支払いは当然その取引を発注した者に支払い義務が生じるものとします」
要約すれば、国家間の取引で他国に品物を輸出すれば、輸出国は輸入先の国に10%の関税を支払い、その運搬に関わった者への運賃を輸入国が支払うというもので、まあ当然のものだ。
だが、今迄のアスリ獣国とラース王国の取引でこれを見ると、アスリがラースに輸出した場合には、50%の関税を払った上に運賃も負担している。
運賃に関してだけ言えば、アスリは全ての国との取引、更にはアスリを介さない他国間の取引の運賃までをも負担してきたのだ。
逆に、ラースがアスリに輸出した場合には関税もなければ、当然運賃もかからない。
そして、私の発表はこれからの事だけに留まらない。
「アスリ獣国ではこれまでの不公平な運用に関して反省をし、これまでの取引に関しても遡ってこの方策を適用する事と致しました」
「南ニスリーン連合公国、ジベルト国、ガリア王国、ジホム皇国の4カ国とは既に3カ月前からこの方策での取引を始めており、過去の取引分の差額の支払い方法も同意を頂いております。尚、運用に関わった者への賃金に関しては、3カ月前以前のものに関してはアスリ獣国で負担致しますのでご安心下さい」
そう、アスリ、南ニスリーン、ジベルト、ガリア、ジホムの5カ国で協議をして既に適用を始めているのだ。
配った資料には、これまでの取引で生じた関税の差額も明示してある。
南ニスリーン、ジベルト、ガリア、ジホムの4カ国のアスリ獣国との差額は、特産品が多く、輸出国であるアスリが払う金額の方が多い。
だが、元々高い関税を徴収していたラース、ベダム、ドゥイルンドの3カ国には莫大な請求金額が記載されている。
特にラースへの請求金額、ラースの国家予算の倍以上だろう。
「次にライブフィードですが、これからはライブフィードの使用にも適切な使用料を請求いたします。まあ、ライブフィードに関しては過去の使用料までは請求致しません。そこはアスリ獣国でサービスさせて頂きます」
「最後になりますが、亜空間トンネル、ライブフィード共にこれらの方策に同意していただけない場合には、その運用を直ちに停止させて頂きますのでご了承下さい」
まあ、金払わないなら使わせないって事だけど、ラース王国側はどうしますかねぇ? 資料を見ながら怒りで震えちゃってる人もいるけど、冷静に見れば当たり前の事しか書いてないんだけどね。
今回は誰目線で書くか大分迷いました。当初はキュービ目線でいく予定で、書き始めもしたんですが、結局は無難に説明キャラのマリ視点に落ち着きました。
今話は会議という事で、長くなると思っていたし、会議っぽさを出す為に意図的に長くした部分もあります。
もっと長くなるかもと思っていたので、作者的には良い長さに落ち着いた気もします。
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お手数だとは思いますが、何卒宜しくお願いします。
連載中[能力はチートだけど・・・]
この小説とリンクする作品です。
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互いに独立した自己完結する作品に仕上げる予定です。
こちらもよろしくお願いします。




