70・最後は指差し確認だよね
ミィージョ公国第2の街ゼブンス。
ラース王国との国境に近い街で、ミィージョ公国の王都ジクスとラース王国のセントラルチェン市を結ぶ街道の宿場町として栄えた街だが、近頃は、この街にもあるクライムフォール商会の支店を中心として、貿易も盛んになっている。人口も増加中で、現在の人口は18万人の大きな街である。
また、小麦の生産も盛んな地域であり、この街のパスタ料理は有名である。
イスランの定例会議を1週間後に控えた今、ゼブンスの街のクライムフォール商会の支店には、多くの国の重要人物が集まってきていた。
俺達、アスリ獣国に賛同してくれている国の重鎮達だ。イスラン定例会議に臨む最終確認の為である。
「この度は、俺達アスリ獣国の考えに賛同して頂き有難うございます。この会談の後、夜には酒宴の用意もありますので、皆さま方の国々とのご縁を、より一層深めていきたいと考えております」
「ご挨拶が遅れましたが、俺がアスリ獣国の国王、ナスカ=クライムフォール=アスリです。よろしくお願いいたします」
誰からともなく拍手が起こる。初めて会う人もいるが、多くは俺もよく知るメンバーである。
「今回の定例会議に参加するアスリ獣国の代表を紹介させてもらいます」
「右が俺の姉で、副国王を務めてもらっているマリ=クライムフォール=アスリです。左がアスリ獣国の第2獣士隊隊長のフェリです。よろしくお願いします」
マリとフェリが立ち上がって深くお辞儀をすると、ここでも拍手が起こる。
今回の定例会議に俺は参加しない。今回の代表はこの二人で、セントラルチェン市の大使館にいるキュービ兄と3人で定例会議に参加するのだ。
「では次は僕の番かな。南ニスリーン連合公国からは・・・」
ミィージョ公王が立ち上がって、自国の代表者の紹介を始めた。これより各国が順次、自国の代表者の紹介を続けていった。
南ニスリーン連合公国からは、ザマイ=ツルカ=ミィージョ公王とミィージョ公国のジャルメ騎士隊長。
ジベルト国からは、シヴァル=ジベルト国王とブラドショー攻撃隊隊長。
ガリア王国からはキヨナ=アイス=ガリア女王とミャンボ将士。
ジホム皇国からはケヤス=ドガワ将軍と勇者でもあるシカ=ヤナルカ蒼鹿武士団団長である。
ガリア王国。
ミィージョ公国の東にある国で、ミィージョ公国ならびに南ニスリーン連合公国の各国との貿易が盛んな国である。内陸国の南ニスリーン連合公国としても、海に面したガリア王国の海産物は貴重で、古くから貿易を密にしてきた良き隣国である。
又、ガリア王国の北にはアナデリ族長国連邦があり、ガリア王国も北の帝国より圧力を受けてきた経緯もあり、今回のアスリ獣国の計画に賛同してくれたようだ。
ジホム皇国。
ガリア王国の更に東の海に浮かぶ、小さな島国国家である。大陸とは全く異なる文化を持ち、己が国の主権を守る事を第一義としている。
皇王制の国なのだが、その実権は幕府と呼ばれる将軍家が握っているニ王制とも言える特殊な国だ。
帝国はこの小さな島国にも謀略の手を伸ばしており、帝国に対して強い反感を持っている。今回は将軍自らが、皇国の最高戦力である当代の勇者シカを伴って赴いて来ている事からも、ジホム皇国の本気度がわかる。
「各国の紹介も済んだようなので、先ずはこちらをご覧ください。各国の選出理事から報告は受けていると思いますが、前回のイスラン理事会の様子です」
俺はクライムフォール商会支店のライブフィード端末をアスリ専用ライブフィードに合わせて、空中に動画を投影してみせた。
「「「「「「おお〜!」」」」」」
アスリ獣国の技術力の高さに歓声が上がったが、その理事会の様子を見て、すぐに歓声は沈黙へと変わる。
「話しには聞いていたが、ひどい言い草だな」
「ああ、胸糞が悪くなるぜ、キュービの奴も良く耐えてられんな」
「ですねぇ。このお人は良く出来た御仁ですなぁ。うち達の国に欲しい人物ですわぁ」
ミィージョ公王、シヴァル王、勇者シカと次々と発言していく。キュービ兄の評価の高さに少し嬉しくなった。
映し出されている動画には、ラース王国、ドゥイルンド王国、ベダム王国の選出理事達が、キュービ兄に対してアスリ獣国が持つ亜空間トンネルとライブフィードの利権の全てをイスランに渡せと言ってきているのだ。
それらの利権を独占しているアスリ獣国をイスランへの背信国家とも断定して、今後はそれらの利権はラース王国で管理し、他国に平等に分配するとまで言ってきている。
しかしその言からも明らかなのは、平等などとは建前であり、この3国で独占する気満々なのだ。
これまでの経緯を含めて説明すると、始まりはセントラルチェン市の大使館への亜空間トンネルを開通した頃まで遡る。
ラース王国がこの亜空間トンネルを通過した物品に対して関税をかけると言い始めたのだ。
イスラン加盟国の間では、基本的に自由貿易が認められており、武具や魔道書などの軍事に繋がる物品以外には関税はかからない事になっている。
しかしラース国は亜空間トンネル自体を違法だと主張して、使用を許可する代わりに関税を取ると言い出したのだ。
幾度かの協議を経て、俺達アスリ獣国側が譲渡する形で15%の関税を認めたのだが、続けてラース国はアスリ獣国を通さない亜空間トンネルの設置を俺達に求めてきた。
亜空間トンネルの運用には、《亜空間移動》と《亜空間収納》のスキルを持つアスリ獣国民が必要になる。その人材をもアスリ獣国に提供しろと言ってきたのだ。
この問題の協議には半年間かかったが、結局は俺達アスリ獣国側が歩みよる形となった。
その後も事あるごとにラース国はアスリ獣国に難題を吹っかけ続けた。そしてその流れはラース国だけではなく、自分達もその利益にあやかろうとするベダム王国とドゥイルンド王国にも飛び火していった。
アスリ獣国の新技術であるライブフィードの端末設置だけは、セントラルチェン市内だけに留めているが、今回はそのライブフィードを含めた利権の全てを寄越せと言ってきている。その運用をアスリ獣国に負担させたままでだ。
既に現在でも、その3カ国間の亜空間トンネル設置されていて、その運用もアスリ獣国の負担で行われている。その運用の際でもアスリ獣国産の物品には、ラース国は55%、その他の2国では30%の関税がかけられているのだ。
3国の余りに強気な姿勢を不審に思ったアスリ獣国は、諜報、内偵を行いその結果、裏でギリス教のカソリーク派と帝国が動いている事を掴んだ。そしてついにアスリ獣国は、その3国との関係を解消し敵対する事を選んだのである。
アスリ獣国は、南ニスリーン連合公国、ジベルト国と連携をとり、ガリア王国、ジホム皇国にも賛同を得られ、今回の最終協議に臨んでいるのだ。
「では、このような段取りで宜しくお願いします」
「ああ、わかった。定例会議の方は任せておけ、お前はお前で好きに暴れていいぞ、ナスカ」
「そうですねぇ、うちもおりますしぃ、定例会議の方は余剰戦力と言えますしねぇ」
「ガリアとしては文句などはごさいませんが、わたくしが思いますには、アスリ獣国さんのところの負担が大きいように思いますが」
「元々はうちの国の問題でしたから、負担は承知しています。正直、ガリア女王をはじめ皆さんの国々からの賛同を得られただけでも大変感謝しているんです」
「かっかっか、ワシらジホムは島国ですからな。アスリさんが5本もの亜空間トンネルを開通し、運用までしてくれるとなれば賛同など安いものです。ワシらこそ感謝しておりますよ、かかか」
「いえ、ジホム皇国が勇者さんの派遣までしてくれるとは思っていませんでした。有難うございます」
「うちもせいぜいお役に立てればとぉ、思っとりますぅ」
「期待していますよ。定例会議の話しはこれぐらいにして、この後は集まっていただいた国々との親交を深めていきたいと思っています」
「料理もお酒も充分に用意しておりますので、ゆっくりとお楽しみください」
俺達アスリ獣国の計画に、全ての国から反対の言葉は出なかった。
後は実行に移すだけだ。東南アジア諸国から帝国の影とギリス教カソリーク派の本山の暗躍を一掃してやる。
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