62・小さな朝の光は
事件は2体のキマイラを葬った事により終結した。
しかし、事を起こした張本人である真ニスリーン王国とアナデリ族長国連邦の代表達の行方を掴むことは出来なかった。
大きな事件だったが、その割に被害が少なかったのが、なによりだと言えた。
その後、というかまあ後日談だな。
事件の後の会議は続けられず、順延となった。そして3日後に開かれた定例会議の場で、改めて、南ニスリーン連合公国と、俺達のアスリ獣国のイスラン加盟が認められた。
真ニスリーン王国とアナデリ族長国連邦のイスランからの徐盟処分も正式に決定され、2国はイスラン加盟諸国から敵性国家として認識された。
3日間の調査でも、その2国の代表達の足取りは全く掴めなかった。
驚くべき事に、この広く、人口も多いセントラルチェン市で、一人の目撃者もいなかったのだ。
一体どうやって逃げたんだか。
キュービ兄の選出理事への就任も、会議の席で正式に認められた。これからは駐在大使となるキヒ姉と共に、セントラルチェン市のアスリ獣国大使館で生活する事になる。
セントラルチェン市に置く大使館の場所も決定していて、用地買収も終わり、既に建築が始まっている。
大使館の場所は商業地域に置く事になった。敢えて市井の生活に近い場所に置く事で、アスリ獣国が危険な国ではないと広くアピールする事が狙いだ。
経済行政特区に適当な場所が無かった事も理由なんだけどね。
大使館の隣の土地も買収しており、一時は白紙となっていた、クライムフォール商会の支店を開店する予定だ。
本店移転の件と重なっている為、テス伯父さんも大忙しだ。
今はみんな、急速に発展を続ける旧獣の村、現在のアスリ街に戻ってきている。
俺は今、仮設の国王執務室において、キュービ兄達と共に赴任する大使館員の選定を行なっている。
20名程度で考えているが、生活の為の人員の他にも護衛や諜報の為の人員もいる。ましてや人間の街で暮らしていく事になるのだ。頭の痛い問題である。
「ここに居たのかナスカよ、母様や古竜様が、偶には顔出せと言っておったぞ」
「そういえば戻ってから一度も行ってないな、ところでお前の方は終わったのか? タツキ」
「頭の固い連中でな、いっそ殴ってやりたいのだ」
タツキはエウデ様の使いで、最近ちょくちょくブルジ山の北側に出向いているが、進展はないらしいな。
霊峰ブルジ山は、古竜エウデモルに山の中腹を任された四頭の獣によって守られている。
西南の聖獣グリフィン、東南の幻獣フェンリル、それに西北の魔獣と東北の霊獣である。
どれもクセの強い獣で一筋縄ではいかない。
フェンリルとグリフィンもお互いが庇護する獣達の争いに乗っかって、争っていたくらいだしね。
その四頭を纏めて欲しいと、俺がエウデ様に依頼されたのだ。で、手の足りない俺はそれをタツキに丸投げしているのである。
「今度は俺も一緒に行こうか?」
「お前は忙しいだろうが、馬鹿者。こっちは我に任せておけば良いのだ」
「お前の方はどうなのだ、上手くいっておるのか?」
「上手く、とは言い難いな。大使館の方はなんとかなりそうだけど、この街とファスルトの西の森にセコードのブラックフォックスの森を、街の規模に整えなくちゃいけない」
「3つの街の間の流通、いや先ずは交通だな、それも整えないと」
「なにより金が無い。こないだのキマイラ討伐もイスランから謝礼が出たし、イスランの手回しで冒険者ギルド組合が緊急クエストに認定してくれて、そこからも金が出たけど全然足りないんだよな」
「早くに特産品を作って貿易を始めないと回っていかない、国として儲けられるようにならないとな」
「何もお前一人でやる事は無いんじゃないのか?」
タツキが俺の机に、お茶を置きながら聞いてきた。
タツキがお茶を入れてくれるなんて、珍しい事もあるもんだ。
「マリ姉やグライス達にも手伝って貰ってるよ。でもまあさ、俺に出来る事はやらないとさ」
俺は出されたお茶を啜りながら答えた。美味いなぁ。
そういえば、お茶もしばらく飲んでなかったな。
「お前、最後にまともに寝たのはいつなのだ?」
「えっ」
「ファスルトが襲われて、いや、村でコカトリス熱が流行り出してから、まともに寝てないであろう」
「ま、まあ、睡眠時間は少ないかもしれないけど、やれる事はやらないとだろ」
「ではいつ休むのだ。我が初めてお前と会った時にも、お前は忙しそうであったぞ」
「あの時はさ、フェンフィンとグリンリルの仲裁をした直ぐ後だったし」
「なぜ、直ぐ後だったのだ。安全確認と称してお前は洞窟の調査をしたらしいが、それは直ぐにやらなきゃいけない事だったのか?」
「あ、新しく村を作る事にしたんだ。安全確認は大事だろ」
「他の拠点の事もそうだ。お前は1カ所に留まれないからと言っておるが、それにしては移動が頻繁なのだ」
「その度に拠点に住む連中の様子を見ては、色々とやっておるではないか」
「な、仲間は、仲間を助ける事は悪い事じゃないだろ!」
「だから一人でやるなと言っておるのだ」
「・・・・・・」
「お前、転生してからこれまでに、何度《根性》を使った?」
「えっ」
「あのスキルは負担が大き過ぎる。それにあの《根性》は特殊で乱発する様な物ではない。それ故にLvの上限が3しかないのだ」
「今回の一連の騒動では1回の使用ですんだが、僅か12年でカンストする様な代物ではないのだぞ」
転生した直後は頻繁に使っていた。あの頃はまだみんな小さくて弱かったから。
それからも事あるごとに俺は《根性》を使ってきた。ゴブークとオーリンの時もそうだし、ブラックフォックスの棲家を守る為に使った事もある。
サンダーバードとソードウルフの時は勿論、グリンリルとフェンフィンを説得した時には、無理矢理に二回連続で使って、その後、1カ月動けなくなった。
そういえば、タツキと出会うキッカケとなった洞窟に入ったのは、動けるようになって直ぐに入ったんだったな。
それから、えっと、あれ、何だっけかな?
「まあ、お前に休めと言ったところで、素直に休むとは思えんのでな」
「あはは、俺は王様ら、しいから、な、みんにゃ、を、みゃもら、ら、にゃい、と・・・」
はにゃ、なんか、気持ち、良く、な・・・
☆
「タツキちゃん、終わった〜」
「おう、マリにメソ、やっと寝たのだ」
「ご苦労さま、キュービ兄さん、ナスカを家まで運んでくれる?」
「ああ、任せとけよ。まったく、しっかりしてる様で世話の焼ける弟だよな」
「でも凄いね〜タツキちゃん。睡眠薬なんて作れたんだ」
「フハハハ、我は天才だからな、あれからちょっとだけ勉強したのだ」
「でも、嫌にコテンと倒れおったな、ナスカの奴。ちょっとだけ調合を間違えたかもしれないのだ」
「それって大丈夫なの? タツキ」
「大丈夫、大丈夫、問題ないのだ」
ーーー第2章 建国編 終了ーーー
第2章の読了ありがとうございました。
第1章から第2章の始めの頃(登場人物の紹介を載せた辺り)までが長い序章となっていましたので、それまでは読む方も大変だったと思います。
我慢して読み続けていただいた読者の皆様に、大変感謝しております。
ファスルト争乱からは、作者も楽しみながら書くことが出来ました。そして、一つの区切りを終える事が出来て、ほっとしています。
次回から第3章が始まります。
ここからは、物語の本質に近づいていきます。読者の皆様には、引き続きご愛顧いただけますように、心からお願い申し上げます。
【お詫び】
リアルの仕事が忙しく、しばらくの間は一日置きの投稿となります。なるべく早く毎日投稿に戻したいのですが、しばらくの間はご勘弁下さい。
作者からのお願いです。
読者様からの反応を何よりの励みとして参りました。
ポイント評価、ブクマ登録、感想、レビュー、誤字報告を頂けますと、創作意欲のより一層の向上に繋がります。
お手数だとは思いますが、何卒宜しくお願いします。
連載中[能力はチートだけど・・・]
この小説とリンクする作品です。
↓
https://ncode.syosetu.com/n8548fz/
互いに独立した自己完結する作品に仕上げる予定です。
こちらもよろしくお願いします。




