44・熊のお袋さん
3本目。
殺させない。
タマモさんはあたしが絶対に守る。
「駄目よウトロさん。貴女は熱も下がっていないのよ」
「あたしはね、タマモさん」
「あの子達が大好きなんですよ」
「あの子達を育てた貴女の事もね」
そう言って、巨大な熊は一歩足を踏み出した。
「あたし達親子を助けてくれたあの子達」
「あの子達の大好きなお母さんであるタマモさん」
「貴女の事はあたしが守る!」
また一歩と足を進める。
「あの子達を悲しませたりはしない!」
巨大な熊は、残った左手の爪を力強く振り下ろした。
ヒュッ
巨大な熊の渾身の一撃が虚しく空を切る。
対峙する人の影は、ちょこんとバックステップしただけで難なくそれを躱す。
「見縊るな!」
「手負いで、しかも病み上がりのラウスベアーの攻撃など、帝国が誇る我等、特殊強襲魔道部隊に当たるものかよ!」
熊の攻撃を躱した男が不敵に笑う。
僅か10人でこの獣の村に潜入した部隊。
魔獣達に気づかれる事なく、一撃でタマモの前脚を切り落とした部隊の隊長格の男だ。
異変に気付いたのは僅かに三頭だけ。
その内の二頭。
キュービとキヒは既に意識を失って、血塗れで倒れていて動かない。
「エアカッター!」
ザシュ、ザシュ
魔法の風が熊を切り裂く。
上空を警戒中のサンダーバード達は気付けない。
認識疎外の魔法が掛けられていたのだ。
ザシュザシュ
それでも熊は倒れない。
吠え声一つ挙げず、立ち続ける。
彼女のタマモを守るという決意はそれほどまでに強かったのだ。
魔獣ラウスベアー親子の母熊ウトロ。
ナスカ達が、ソードウルフとサンダーバードの争いを仲裁するキッカケとなったのがこの母熊である。
ナスカ達はセコードの街に居た頃に、この熊の親子と出会った。
アレティー達ブラックフォックスの森を訪れたこの親子と知り合い、ナスカ達は二頭の子熊を大変可愛がった。
ウトロは子育ての為に食べ物の豊富な森を探して、縄張りを移動中であった。
しばらくはブラックフォックスの森に逗留していた親子だったが、肥沃な土地を求めて旅立っていった。
その後に親子が定住したのが、ブルジ山南に広がる平原だったのである。
だがその平原で争いが起こった。
平原の西の森のサンダーバードと東の森のソードウルフの争いである。
戦場となった平原は荒らされ、いくつもの種族が困り果てていた。
その種族の代表として、ウトロは両種族に何度も抗議したが、取り合ってはくれなかった。
困ったウトロは、ブラックフォックスの森に再び戻り、ナスカ達に相談したのである。
相談を受けて、ナスカ達はブルジ山南の平原を訪れた。
平原の現状を見たナスカは怒り、サンダーバードとソードウルフの族長を殴り倒して、力尽くで争いを止めた。
そしてその両種族を庇護する、グリフィスとフェンリルに話しを付けに行ったのだ。
ナスカの毅然とした態度に感心したグリフィスとフェンリルは、ナスカの力を試し、それによりナスカを気に入り、平原や森、それに山の一部を含めたブルジ山の南一体の管理を申し出たのだ。
そうして出来たのがナスカ達の本拠地である獣の村なのである。
ザシュザシュ
その村を守る為にウトロは立っている。
ザシュザシュ
恩人でもあるナスカ達の母。
そして、ブラックフォックスの森で一時は共に過ごしていた、親しい友獣でもあるタマモを守る為に、熊のお袋さんは立ち塞がっているのである。
「いい加減にくたばりな、熊野郎!」
「エアースラ・」
ズギャアアアアアウンンン
魔法の言葉を遮る様に、5本の雷が凄まじい音と共に地面を焦がす。
ゴフオオオオオオオンンン
10人の帝国兵を囲う様に、暴風が吹き荒れ地面を抉り取る。
「グ、グリフィン?・・・そ、それにフェンリルだと?」
途端に帝国兵達が顔色を失う。
先程まで浮かべていた残酷な笑みはカケラもない。
「に、逃げろ!撤退だ!」
ウトロを嬲る様に風の刃で斬りつけていた、隊長格の男が誰よりも早く走り出す。
「き、聞いてない」
「聞いてないぞ!グリフィンにフェンリルなんて」
ズバン、ドシュバシュ、スパッ
一瞬。
一瞬で隊長格の男は細切れになる。
「逃げる?」
「どこに逃げるって言うんだ、手前ら!」
「ガルム?ソードガルムだと」
隊長を失った帝国兵達は茫然とした。
そしてゆっくりと悟っていく。
自分達の運命は既に尽きている事を
聖獣グリフィン父子の父グリンリル。
幻獣フェンリル親子の父フェンフィン。
魔獣ソードウルフの族長、ソードガルムに進化したエクス。
この三頭に囲まれて逃げることなど不可能なのだから。
3本目終了。
普段は自分の管理地域から出て来ない3頭ですが、非常事態という事で登場しました。
やっと、やっと熊のお袋さんを登場させる事が出来ました。
伏線も出来るだけ少なくしておきたかった熊の親子なので、今迄も書いては消しての繰り返し。
今回やっと登場となりました。
獣の村設立の詳しい経緯も、熊の親子と同時にしたかつたので、今回まで引き伸ばしました。
まあ、こちらはちょこちょこ書いてましたけどね。
本当は完全に同時にしたかったのですが、書かざるを得なかったので。
まだ子熊が登場してないのはご愛嬌って事でお願いします。
しかし今回はナスカどころかマリ・メソ・タツキも出てないな・・・いいのかな?
シリアスが続いたので、ちょっと日常を挟みたいと思います。
作者もほっこりしたくなってきたのでね。
ご意見、ご感想、あとご要望もありましたら宜しくお願いします。




