灰笛世界覚え書き、弔いと眼球編
とある人物による記録の一つ。
この世界にも当然ながら、死者を弔う慣習がある。
死人への手向け。それは土地の環境、そこに生じた文化で様々な形になる。それは必然的なことだ。
だが、それでもこの世界における弔いの文化、常識はなかなかに独特な物が見て取れる。
その事について語るよりも先に、まずはこの世界の住人が死体となった時、その肉にどのような変化が訪れるか。その辺りについて説明せねばなるまい。
この世界の住人、つまりはこの惑星、世界線に生息をしている人間。
彼らはその生命を終えると同時に、肉体は腐敗という分解状態へと変化させる。
この点においては、我々の知っている「普通」の人間ととてもよく似ている。と言うよりは、ほぼ同様と差支えないだろう。
しかし、彼らは我々とは違う。
この世界の住人は、その腐敗の段階で体内に含まれるエネルギー体。
一言でいってしまえば魔力とよべば解りやすいだろうか。とにかく、人体の内に栄養素とほぼ同様に含有している力が、死者の肉に変化をもたらすのである。
そこは本来、つまりは我々の世界における基準に当てはまめるとして。何よりも先に腐り落ちて、肉体から欠落するはずの部分。
眼球、生者にとって視覚の役割を担っている。
その器官が、死者の体に残された魔力によって、とある物質にとてもよく似た形質へと変化するのだ。
かく言う私も、これまでに何度か死者の体に触れ、観察する機会が幾つか与えられた。
その際に、この世界の住人が最後に成れ果てる姿を目にしたものだ。
あれは……あれは白くて、艶々と丸く、表面上には乳白の独特な光沢を放っている。
はたしてあれをどのように形容すべきか。
私には上手い言葉が見つかりそうにない。
ただ一つ確実に言えるとすれば、その時私は海を思い出していたこと。
海のそば、海岸に転がる貝殻を手に、その裏側に広がる白色の輝き……──。
……。
話が逸れてしまった。はて、何のことを話そうとしていただろうか。
ああ、そうだった。
その白く固くなった眼球を、その後どうするかについて。
文献を探さなくてはならない。
だがその前に、記憶が確かなうちに記録だけでも残そうとしていたのだ。
とにかく、この世界では死者の肉が腐り落ちても、眼球は形を残して世界に在り続ける。
だからなのだろうか。
この世界の住人は肉よりも、あるいは骨よりも、時として眼球に魂の在り方を求める傾向があるのだ。
書き忘れが多かったようです。