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息苦しさ

クリスの外出の続きです

 会場からは音楽が聴こえてくるが、夜空を見上げ感傷的になっているクリスには、ダンスも出会いもどうでもよいものだった。無理に付き合う義理もない。ただ、エミリーがレオンから誘われた時に「喜んで」と手を取ったのかを考えると、嫉妬と悲しみが混ざりやり場の無い感情だった。

 そっと誰がテラスにやって来たようだが、会場に背を向けていたため気付くのが遅かった。


「あ…お兄ちゃん?」


驚いて振り返ると、エミリーが心配な顔をしてクリスの後ろに立っていた。彼女もテラスに出ていたのだ。


「エミリー…ダンスは?」

「私も休憩なの。レオンさんと3曲も続けて踊ると疲れちゃう」

「え、3曲?」

「うん。2曲終わったから、一度休憩しようと思って…あとね、アルクお兄ちゃんからテラスへ行くよう勧められたの」

「兄さんが?」


そう、クリスがテラスで想いに耽ている間に、エミリーはダンスを2回も済ませていたのだ。また彼女にテラスへ行くよう助言したのは兄アルクだったと知り、少し苛つきながらも笑ってしまった。


「全く、要らないお節介だな」

「え…私、クリスお兄ちゃんの邪魔しちゃった?」

「違うよ。邪魔はしていないけど…あっ」

「なあに?」


クリスが思わず声を出してしまうのは無理もない。テラスの反対側で見知らぬ男女が抱き合い、濃厚なキスシーンを開始していたのだ。会場からは見えない位置とはいえ、同じテラスにいるクリスからは視界に入ってしまった。男女は自分たちの甘い世界に入っているようで、こちらのことなどお構いなしだ。エミリーはクリスが何を見たのか気になり、視線の方向へ顔を向けようとしたが、クリスの両手で顔を固定されてしまった。


「え、あの、ええっと…」

「あれは純粋ピュアなお姫様には見せつけるものでは無いね」

「え、純粋??」

「うん。ちょっと、場所を移動しようか」


横を見ると暗いながらも変わらず手入れされた庭園が広がっている。クリスの記憶が正しければ、静かに座れそうなベンチやガーデンチェアが置いてあるはずだ。


「動かないでね」

「えぇ…きゃっ」


クリスが屈んだと思う間も無くすぐ立ち上がった。それと同時にエミリーの身体が宙に浮いたのだ。ドレスはクリスの身体を覆い隠すよう華やかに下へ広がった。足元を確認したクリスはエミリーを抱き上げたまま、ゆっくりと庭園へ降り立った。

 雲が流れて行き月が出てきた。先程より辺りが明るくなり、庭園は神秘的な雰囲気を醸し出している。2人ともにブライト家の夜の庭園だけは見たことが無かった。日中とは違ったその美しさに思わず見惚れてしまった。そして、クリスはゆっくりエミリーを下ろしベンチに座らせた。エミリーの目はまだ輝いていた。


「夜も素敵ね。建物の灯りも綺麗だけど、月明かりで満ちた庭園はもっと綺麗」

「そうだね、僕も初めて見たよ。外に出て良かった」

「素敵…童話の中にいるみたい」


 クリスは自分がエミリーにしてしまった事を改めて後悔した。エミリーは自分とは違って純粋で綺麗な心の持ち主だ。それなのに、自分勝手な愛情で欲望のまま動き、彼女を傷付け困らせた。『自分さえ良ければ』『自分だけを見てくれれば』と思ったが、それではレオンと何ら変わらない。込み上げた感情が涙に変わった。その涙はエミリーもすぐ気付いた。


「だ、大丈夫お兄ちゃん!体調がよくない?誰か人を呼んで…」

「大丈夫だよ、エミリー。ただ、少しだけここに座らせて?」

「もちろん、どうぞ座って」


 エミリーの横に座るとクリスは空を仰いだ。本当の兄ではないから妹を愛しても問題はないと考えていた。『血が繋がっていないなら、どうにでもなる』と。しかし、それはエミリーも真実を知り、受け入れるかどうかになる。それはホワイト家にとって最大の秘密だろう。両親や兄、ましてや双子の弟が既に話したとは今日の態度から考えにくかった。本当の家族だと未だに思っているからこそ、クリスを兄以上に見ることが出来ないと推測できた。だがそれは、真実を知っても知らなくても、どちらを取っても残酷だ。


「エミリー…君は僕と家族のままでいたい?」

「あっ、えっと、それは…あのこと?」


【あのこと】とはクリスがかけた魔法のことしかない。


「それもあるけど、家族を捨てて僕と一緒になれる?」

「それは…無理よ」

「どうして?」

「…正直に言うとね、私だけみんなと雰囲気が似ていないでしょう?これで私が家族を捨てたら真実味が出ちゃう」


クリスは黙るしかなかった。本当は危なかった。もう少しで「君だけ血が繋がっていない」と洩らすところまで声が出そうだった。でもエミリーの悲哀な表情で出すことなどできない。


「怖いよ…ずっと一緒にいるのに、ずっと家族なのに、ずっと兄弟なのに…。私が結婚してホワイト家を出て行く日があると考えるだけでも怖いの。私なんてパパママの記憶からも忘れられてしまうわ」


もうエミリーの目にはクリスの比では無いほど涙で溢れていた。そして、恐怖と孤独が襲い、震えや息も上がっていた。このままでは過呼吸になりかねないと思ったクリスはエミリーを抱き寄せた。


「落ち着いて、大丈夫。そうゆっくり息を吐いて」


エミリーの背中をゆっくり擦り、呼吸を落ち着かせた。


「苦しいね、僕もだよ。エミリーとは少し違う苦しみだけど、重苦しさは変わらない」


エミリーはクリスの胸の辺りで声を聞きながら、呼吸を整えようとしている。クリスもそのまま抱き寄せたまま背中を擦る。


「喋らなくて大丈夫だから、僕の話を聞いて。君が家族の誰かから疎外されたら、すぐに僕に言って。僕は絶対にエミリーを見捨てない。周りから後ろ指を指されても、君と愛を誓う覚悟は出来ているよ…約束する」


それはクリスからのプロポーズのようだった。安心したエミリーは徐々に呼吸は落ち着き、苦しさも薄れてきた。暫く2人は抱き合ったまま、その場に留まった。

 ただ、そこは2人だけの空間ではなかったようだ。


「何…やってんだよ、エミリー」


彼らは探しに来た人物に気づいていない。

久々の深夜アップで申し訳無いです。

でも夜に読むほうが情景は伝わりやすいですよね! (ものすごい言い訳です)


クリスのプロポーズですが、それを見ていた人物は一体誰でしょう…

かなり簡単だと思いますが、次話ですぐわかります!お待ち下さいませ

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