見えない本心
前回クリスから突きつけられた提案を受けるかどうか…その続きです。
そしてやっと名前だけの彼が登場です!
エミリーは悩むしかなかった。この場で恋人同士のキスなど絶対にできないが、兄妹の関係を壊したくないのも本心だ。
目の前にいるクリスは、兄弟3人の中では一番の美青年。それでいて誰にでも優しく慕われていれば、女性との交際に困ることなどないはずだ。しかし、彼は家族であるエミリーに恋愛感情を持ってしまった。今、改めて考えても理由がわからない。
「どうするの?キスをするの、しないの?」
意地悪そうに聞いてくるクリスはやはり楽しそうだった。エミリーは目を閉じ、深く呼吸をして答えた。認めるのが悔しくて顔は上げれなかった。
「あれは…挨拶ではなかったと受け入れます」
認めるのが悔しくて顔は上げれなかった。
「でも、お兄ちゃんの想いまでは受け入れられないわ。だって…私に何か隠していることがあるでしょう?」
核心を付かれてクリスは驚くしかなかった。また俯いて泣きそうな声で聞いてくるエミリーを見て、罪悪感も感じた。そっと自分の胸へと抱き寄せた。
「お兄ちゃん?」
「ごめんね、ちょっと意地悪し過ぎたね。でも、君を一番愛しているのは本当だよ。この気持ちはずっと変わらない。今は全てを話すことができないけど、家族に許しをもらったら全て話すから」
「…うん」
クリスはエミリーへの恋愛感情が強く、エミリーはクリスに家族愛が強かった。だが、お互い『大切にしたい』気持ちは変わらない。それは紛れもない真実だ。
傍から見れば恋人同士のワンシーンのような光景だが、兄妹だと特に気にならないのだろう。ブライト家の執事が2人に声をかけた。
「失礼いたします。クリス・ホワイト様と妹のエミリー様でございますね?」
「そうですが」
「ご歓談中、申し訳ございません。当家ご子息のレオン様がお呼びでございます。ご一緒に来ていただけますか?」
「…レオン」
クリスはエミリーを見た。彼女へドレスを送った張本人から呼び出しがあるとは思わなかったからだ。親友だが腑に落ちない。
「それは親友の僕だけを呼んでいますか?」
「いいえ、本当はアルク様も探しておりました。しかし、オークランド家ご令嬢のミシェル様をお待ちだと伺いましたので、クリス様とエミリー様のお二人だけです」
「やはり…か。わかりました、伺います」
「ありがとうございます」
エミリーも呼んでいることは執事との会話で確信となった。クリスの思考では会いたいのは親友の自分よりも、エミリーではないかと思っていた。実際そうだろう。ただ、クリスにもわからないことはある。今日レオンとの関係を聞いたところ「特別ない」と話していたが、探している時点で明らかに違う。また、エミリーがなぜドレスを着ることに悩んでいたのかも判明していない。レオンと対話をするしか見えてこない部分も多いと判断した。
執事の後ろに付き、二人は長い廊下を歩いた。ある部屋の前に執事が止まり、ノックをしてドア越しに声をかけた。
【コンコンコン】
「レオン様。クリス・ホワイト様とエミリー様をお連れしました」
「わかった、中に案内して」
「かしこまりました、失礼します」
扉が開き入室を許可された。扉の向こうにはブライト家の次期当主、レオン・ブライトが立っている。
「やぁクリス、久しぶりだね」
爽やかな笑顔で迎えいれられたが、クリスの内心は再開を喜ぶ挨拶どころではない。そして、レオンは直ぐに照れた顔でエミリーを見つめた。その様子をクリスは見逃さなかった。
『やっぱりか…さて、どう本題へ切りだそうか』
ここからが正念場だ。
レオン・ブライト登場しました。
またどういった関係なのかは、徐々に見えてきます。
クリスの出番が長いですが、待ちぼうけアルクと連れ去られたジェイクは2章の中で必ず戻って来ますので、ご安心下さいませ!